【14日=東京】フィリピンにおける人権侵害を調査する独立の国際グループ「インベスティゲイトPH」が6日に発表した報告書で、ドゥテルテ政権が進めるドラッグ・ウォー(違法薬物撲滅戦争)に伴い超法規的に殺害された人たちの遺体に残っている防御創を、フィリピン国家警察が記録していなかったことを明らかにした。防御創は抵抗する際に遺体にできる傷跡。フィリピン大学のラケル・フォーチュン教授(法医学・病理学)の発見を報告書に載せた。また、遺体のX線写真もなかったという。検死記録がずさんなため、第三者が捜査の適法性を検証することが困難な状況にあることが浮き彫りになった。
今年3月に発表された第1回に続くもの。今回は、2021年5月18日、20日、25日、27日の4回、委員会および小委員会のメンバーが関係者からヒアリングした。裁判記録やその他の関連文書も調べた。(1) ドラッグ・ウォーを名目とした貧困層への攻撃 (2) 政府に異を唱える者たちへの攻撃 (3) ミンダナオ島などに居住するイスラム教徒モロへの攻撃──の3点に焦点を当てた。
─ 家族を脅迫、司法省の再調査を妨害
その結果、以下の点が明らかになったという。
(1) フィリピン国家警察(PNP)は、国家機関による不正行為に対する是正措置を怠り、司法を妨害し続けている。警察は日常的に対違法薬物撲滅作戦における殺害の状況を隠蔽し、家族や潜在的な目撃者を脅迫し、司法省によるほとんどの殺害事件の再調査を妨害している。
(2) 武装勢力が反体制派の殺害に力を入れている。警察や国軍兵士は政治的に政府に反対する者を処刑している。反違法薬物撲滅戦争における超法規的殺害と同様の手口だ。また、ドゥテルテ大統領の「地域の共産党の武装闘争を終わらせるための国家タスクフォース(NTF-ELCAC)や、2020年7月の反テロ法、そして司法制度が、こうした超法規的殺害を助長しているだけでなく、共産主義者とされる人たちや教会、長年続いてきた民主的な機関など、市民社会を広く傷つける抑圧を制度化している。
(3) ミンダナオ島での軍事行動は、米国からの安定した軍事援助を受けながら、イスラム教徒モロのコミュニティに対する暴力を恒常化させ、疎外感を強めている。米国が支援する「テロとの戦い」の一環としてのミンダナオ島での軍事行動は、民間人と戦闘員を区別することができず、イスラム教徒のコミュニティに大量の避難民をもたらした。政府の政策は、避難民のニーズを無視し、モロの自決権を弱体化させている。米国の軍事援助や他国の軍事支援が人権侵害を助長している。
─ 米軍の支援も
特にミンダナオ島での軍事作戦には迫撃砲や砲撃、空爆といった非人道的な兵器や攻撃方法が継続的に実施され、民間人も巻き込まれているという。こうした軍事作戦への武器の供与は米軍の支援を受けているといい、インベスティゲイトPHは「武器、情報、訓練を提供する米国およびその他の外国政府は国際人道法に違反している」と批判した。
また、報告書は「令状は必要とされず、個人は標的のリストに含まれていることに異議を唱えるため法的手段がなく、『適正な手続き(デュー・プロセス)』が損なわれている」と述べている。違法薬物撲滅作戦で超法規的な殺害の対象になった人たちは「圧倒的に貧しい人々であり、適正手続きを受ける権利を主張することができない」。
今秋には最終となる第3回の報告書が公表される予定。
〈Source〉
Investigate PH, 2021, Second Report of the Independent International Commission of Investigation Into Human Rights Violations in the Philippines.
We Don’t Need 6 More Bloody Years, manilastandard.net, July 8, 2021.