国家人権委員会:不処罰の文化がドゥテルテ政権の遺産

【写真】ドラッグ戦争に関わる殺害への抗議デモ/via Three policemen convicted of murder in deadly Philippines drug war, abc NEWS, November 30, 2018.

【24日=東京】国家人権委員会(CHR)は、4月に発表した「違法薬物キャンペーンに関連する殺害事件の調査報告書」において、警官の法執行過程における「容疑者」殺害は殺意をもってなされたものであり、政府は市民の人権を尊重し保護する義務を怠り、不処罰の文化を助長したと結論付けた。それに対し政府は、ドゥテルテ大統領は「安心で安全なフィリピン」を残した、証拠があるなら国家ではなく警察官を告発せよと反論している。

― 警官による殺害は殺意をもってなされ、不処罰は悪化

 CHRは、警官による「容疑者」殺害は殺意をもってなされたものであり、殺害は超法規的に実行されたと分析した。高度に訓練され重火器で武装した最低3人以上の警官が、1人の「容疑者」にあたる非対称性のうえに、銃創の記録がある遺体のうち86%は頭部、あるいは、体幹を撃たれていたのである。「容疑者が抵抗したから銃殺した」と国家警察は説明するが、抵抗されたという31件の記録によれば、警官が受けた「容疑者」からの反撃は四肢を殴られた程度である。
 また、ドラッグ関連の殺害に対処するための責任追及のメカニズムがないこと、憲法に定められたCHRの権限が無視されていることが、不処罰の文化を悪化させているとCHRは指摘した。国家警察内で実施された調査は、同じ署、あるいは、同じ部隊の警官によってなされたものにすぎず、CHRが調査対象とした793件のうち295件について、CHRは憲法により入手できるはずの記録にアクセスすることもできなかった。

― 793事件で920人殺害

 CHRは、2016年から2021年までに、3790件のドラッグに関連した事件を調査し2305件について結論を出した。4月に発表された報告書は、882件の事件簿に記された871事件、1139人の被害者(死亡、受傷など)についての分析結果である。
 このうち798事件がドラッグ関連で、うち793事件において、それぞれ少なくとも1人以上が殺害された。結果、793事件における殺害等の被害者合計は1014人で、920人は死亡、87人は生存、7人は不明である。被害者の大半は、社会的に排除され、弱い立場に置かれた人びとであった。死亡者のうち698人(478事件)は家宅捜索などの法執行過程において、281人(246事件)は私人、あるいは、正体不明の者に殺害された。
 正体不明の者に殺害された281人のほとんどは、ドラッグ監視リストに含まれていた。つまり、ドラッグのユーザー、あるいは、売人として自首した者たちだ。また、このうち告訴されたのは22件にすぎない。

― ELCAC:報告書に法的根拠なし、国家ではなく殺害した警察官を告発せよ

 大統領報道官代理のマーティン・アンダナルは、CHRの報告書にはすでに回答された古い問題の蒸し返しが見られるが、CHRが独自にその権限を行使したことは喜ばしく、これは、ドゥテルテ政権のもとで民主的な市民空間が充実した証左であると皮肉った。さらに、観光で訪れる外国人がフィリピンの街がいかに安全かを実感しているし、ドゥテルテ大統領就任以来の高い支持率と信頼度の高さが国民の満足を証明していると続けた。
 また、地方共産党の武力紛争を終わらせるための全国タスクフォース(NTF-ELCAC)は、5月20日に出した声明において、CHRの結論には法的根拠がなく、国内外における政府の信用を失墜させる以外の何物でもなく、この殺害が国家によって認可されたものであるという物語を押し通そうとするものであると、CHRの報告書を否定した。さらに、報告書に挙げられた目撃者の信頼性が明らかでない以上調査結果に信ぴょう性はなく、もし目撃証言が信頼できるものであると言うなら、CHRは国家を非難するのではなく殺害を犯した警察官を告発すべきであると述べた。

〈Source〉
CHR: Duterte drug war’s culture of impunity mostly affected marginalized sectors, GMA NEWS ONLINE, May 19, 2022.
CHR’s latest report about drug war abuses ‘rehashed’ — Palace, philstar, May 19, 2022.
CHR’s Report on Investigated Killings in Relation to the Anti-Illegal Drug Campaign, NTF-ELCAC, May 20, 2022.
For the record: Duterte leaves legacy of impunity – CHR, INQUIRER, May 19, 2022.
Incomplete CHR report vs. war on drugs out to discredit gov’t, PHILIPPINE NEWS AGENCY, May 20, 2022.
CHR (2022), REPORT ON INVESTIGATED KILLINGS IN RELATION TO THE ANTI-ILLEGAL DRUG CAMPAIGN, COMMISSION ON HUMAN RIGHTS.

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