【解説記事】全2回連載 ドゥテルテ政権の支持率がずっと「高い」のはなぜか(1)

横山正樹(フェリス女学院大学名誉教授)

 次期大統領選挙まであと8か月。フィリピン憲法は大統領の任期を1期6年に限り、再選を禁じている。任期満了が迫り、政治の世界は選挙モードに入った。もはや現大統領の存在感は低下するのが常だが、今回はそうなりそうにない。
 8日、ドゥテルテ大統領は与党PDPラバン党大会で副大統領候補指名を受諾すると表明した。ところが大統領候補に指名された側近のクリストファー・”ボン”・ゴー上院議員は辞退。与党の大統領候補選びは混とん状態にある。
 この解説記事では、「高い」とされるドゥテルテ政権支持率や歴代政権との違い、さらにその理由を検討し、フィリピン社会で、いま何が起こっているのか、ともに考える手がかりとしていきたい。

― 発足以来、高支持率を維持してきたドゥテルテ政権

 2016年6月30日の政権発足直後には86%(同年9月) という高い支持率(approval rating)を記録、その後も88~75%の幅を上下しながら、19年12月には87%に達し、信頼度(trust rating)もほぼそれに沿って動いている(パルスアジア)。図1はパルスアジアのデータにもとづき社会派Webジャーナリズムのラップラー(Rappler)が2020年7月にグラフ化・発表したものだ。

図1. パルスアジア調査によるドゥテルテ政権の支持率・信頼度
(出所) DUTERTE YEAR 4: Due to lockdowns, we don’t know Duterte’s approval ratings during pandemic, Rappler, July 8, 2020.

 また政権満足度調査を実施しているソーシャル・ウェザー・ステーション(SWS)も発足直後の満足値が76%から最低でも65%、19年12月には最高の82%に達するなど、ほぼ同様の傾向を示す。第2図もSWSのデータによりRapplerがグラフ化したもの。

図2. SWS調査によるドゥテルテ政権の満足度
(出所)

 政権満足度および支持率についてはSWS(1985年設立)とパルスアジア(PulseAsia、1999設立)が毎年四半期ごと(3,6,9,12月)に全国規模の大規模対面調査を実施、発表してきた。これらの数値がしばしばマスコミに取り上げられるが、両団体とも2019年12月調査のあと、2020年3月と6月にはコロナ禍のため調査が実施できなかったという。パルスアジア調査の2020年9月支持率は、Rapplerほかマスコミが91%と報じている。従来的な調査手法は今後も困難な状況が続きそうだが、オンライン調査等に切り替えるとデータの一貫性に問題を生じるなど、相当の工夫を要することになろう。

― 矛盾するマニラタイムズ紙の支持率報道

 マニラタイムズ紙は7月25日、「ドゥテルテ大統領、高支持率を維持」との見出しをつけて、7月3日から 10日に実施の調査で、政権支持率がマニラ大都市圏で77%だったとの記事を掲載した。 RP-Mission and Development Foundation Inc. (RPMDinc)の調査にもとづくもの。
 ところが、同紙はわずか2日後の27日、「大統領の支持率・信頼度下落」と報じた。パブリカス・アジア(PUBLiCUS ASIA、2003設立)という調査企業実施のオンライン調査によると2020年12月に70%だった支持率が、今年3月には65%、7月は58%へ、低落傾向にあるとのことだ。
 これは何を示しているのだろうか。調査地域の限定や調査方法の違いもあろうが、今後の傾向を見通す材料ともなりうる。

― 社会的望ましさのバイアス作用

 さらに別種の問題がある。世論調査のドゥテルテ支持のうち 3分の1はその場の空気を読んでいただけで、じつは支持ではなかったという、粕谷祐子慶大教授らの興味深い研究成果が6月25日の本ニュース記事で紹介された。社会科学研究において、この社会的望ましさのバイアス(Social-desirability bias)といわれる偏りについても、ことに対面調査ではじゅうぶんに考慮されなければならない。

― 20年間で最高の支持・満足度

 2000年以来、4代にわたる大統領の比較を、これもRapplerがまとめている。これでみると、エストラダ政権、アロヨ政権、ノイノイ・アキノ政権が発足後は高支持率であっても次第に30%程度、あるいはより大きく低落し、ドゥテルテ大統領のみ(少なくとも就任後3年間は)高レベルを維持している。

図3. パルスアジア調査による歴代政権の支持率
(出所) DUTERTE FINAL YEAR: Duterte may cap term as most popular Philippine president. So what?, Rappler, July 30, 2021.

 さらにSWSによる純満足度指数(満足の%ー不満足の%)の変化においても、ドゥテルテ政権は低くても50弱から最新の72の幅に収まっており、これまでのところ、低迷したどの政権に比べても抜きん出て高い。

図4. SWS調査による1986年以降の歴代政権純満足度
(出所)

 このように、ドゥテルテ政権は歴史的にみて例外的存在なのか。この政権だけが従来と異なっているのか、それとも政権を取り巻く状況のほうが激変したのだろうか。
 次回にはこうした点を含め、高支持率が示され続けている理由とその意味について考察していこう。

〈筆者紹介〉
フェリス女学院大学名誉教授(平和学・アジア太平洋地域における開発と環境問題の平和研究)
フィリピンなどで実施の政府開発援助(ODA)事業が現場へおよぼす影響を調査分析しつつ、各地域の住民運動・NGOなどによる自力更生努力と国境を越えた市民連帯ネットワークに関心をもって当事者たちとの交流やエクスポージャー(現場学習)を長く続けてきた。

〈Source〉
Philippines’ Duterte accepts 2022 vice presidential nomination, REUTERS, September 8, 2021.
DUTERTE YEAR 4: Due to lockdowns, we don’t know Duterte’s approval ratings during pandemic, Rappler, July 8, 2020.
DUTERTE FINAL YEAR: Duterte may cap term as most popular Philippine president. So what?, Rappler, July 30, 2021.
Duterte keeps approval ratings up By William Depasupil, The Manila Times, July 25, 2021.
President’s approval, trust ratings decline – survey, The Manila Times, July 27, 2021.
世論調査の「ドゥテルテ支持」 3分の1は「支持ではない」, Stop the Attacks Campaign, 2021年6月25日.
”One third” of Duterte popularity rating appears due to ”social desirability bias”: professor, The Daily Manila Shimbun (日刊まにら新聞), June 16, 2021.

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