【解説記事】ドゥテルテ政権の支持率がずっと「高い」のはなぜか(2)

横山正樹(フェリス女学院大学名誉教授)

 1986年政変後35年間の6代の政権を比較しても、ドゥテルテ政権の満足度は非常に高いことを前回末尾で示した。フィリピンに限らず、満足度や支持率は政権末期に大きく低下するのがよくあるパターンだ。そうなると「死に体」というか、影響力は失われてしまう。ドゥテルテ大統領の場合はそうならず、どちらかというと1990年代のラモス大統領(1992-1998在任)の場合と似ている。その任期後半には憲法を変えてまで再任すべきとの期待が出ていた。だが1997年のアジア通貨危機にともなう通貨ペソの下落とマイナス成長のなか、再任論は力を失い、大衆的人気の波に乗ったエストラーダ大統領に交代することになる。

― ポストマルコス期で最高の満足度を維持するドゥテルテ政権

 ここでソーシャル・ウェザー・ステーション(SWS)がそのWebサイトで公表している最新の比較グラフ(第5図)を示しておこう。大統領就任後一定期間は支持率が高く、ハネムーン期ともいわれる。このグラフにはその持続期間も示されている点が興味深い。満足度(%)から不満度(%)を差し引いた純満足度(%)が黄色ゾーン(+30%から+50%)を越えてそれ以下に低下すると危険水域で、黄色ゾーンに入るまでの在任期間が書き込まれている。

図5. SWS調査による1986年以降の歴代政権純満足度の変化
(出所) Fourth Quarter 2019 Social Weather Survey: Pres. Duterte’s Net Satisfaction at new record “Excellent” +72, Social Weather Stations, January 21, 2020.

 エストラーダ政権(1998-2001年在任)の純満足度はわずか9か月で黄色ゾーンを突破するほど急落し、その後10%台ないしそれ以下に低迷、議会の弾劾動議成立により任期途中で退任させられた。その副大統領で政権を引き継いだアロヨ大統領(2001‐2010年在任)には就任直後もハネムーンがなく、2004年の選挙勝利後も30%は超えずに低落、すぐに赤線以下のマイナスに沈んだほど不人気だった。次のノイノイ・アキノ政権(2010‐2018年)は3年9か月のハネムーン期を享受。ドゥテルテ政権となるとずっとハネムーンのままで、純満足度が黄色ゾーンを下回ったことはこれまで一度もない。1986年の「エドサ革命」政変と翌年の新憲法制定後、ほぼ一貫性を保ってきたと考えられるSWS調査にもとづいて、ドゥテルテ政権がほかの政権との比較において最高の満足度を維持してきたと結論できよう。

― 支持率が「高い」は本物か

 ここからは高支持率の内容に踏み込んでさらに検討を加える。そこには①高支持率が妥当という説、②高く出過ぎているとの説、③2019年までは高かったが、今は低下したとの説という、3通りが考えられる。しばしば報道され、一般的とみられる①は差し置き、②と③についてみていこう。
 ドゥテルテ政権支持の「高さ」の理由としては、前回の解説記事で「社会的望ましさのバイアス作用」について言及した。関連してラップラーのピア・モレノ氏はベテランジャーナリストのジョン・ネリ氏やルイス・テオドロ氏のいうフィアー要因(fear factor)、つまり恐れによる萎縮ないし権力への迎合、つまり②のケースの可能性を挙げる。これにたいし調査実施団体パルスアジアのアナ・タブンダ事務局長は、回答が自発的に選択されていると、個別面接調査現場での実情を説明し、恐れによるバイアスには慎重ながら否定的だ。だがドゥテルテ政権に批判的な記事を書いたり放送で流したりすることは危険と考えるフィリピン人が過半数いるとするSWSの2019年調査を、モレノ氏はタブンダ事務局長に投げかけている。
 このほか可能性としては調査側や報道側による何らかの操作、つまり③の可能性も否定できない。むろん誘導質問や数字の改ざんなどがあるとしたら論外だ。いや、もっと控えめかつ巧妙な操作がありうるのではないか。前回述べたようにSWSもパルスアジアもコロナ禍を理由に年4回の定期支持率等の調査を一時中断し、さらにパルスアジアはその後の調査結果はあるものの、変化がないために発表は控えているとタブンダ事務局長がインタビュー映像で表明している。これが納得できる理由といえるだろうか。さらにSWSも今年になってからは信頼性および満足度の調査結果を発表していない。大統領選の季節に入った今、政権への忖度ないし裏の力学がはたらいているのではないかとの想像の余地は残る。
 以上をまとめると、ドゥテルテ政権は過去35年間において相対的には高い支持率を維持してきたといえるが、それでも支持率の3分の1はその場の空気を読んでいただけか、恐れにもとづく迎合の可能性がじゅうぶんにあり、割り引いて考えるべきだろう。さらに2020年以後の調査結果の公表には不透明さがある。政府のパンデミック対策の失敗や失業とインフレによる生活苦、低迷する経済への不満が数字として表面化することを避ける忖度がはたらいている可能性は否定できない。前回言及したオンライン調査による今年7月までの8か月で70%から58%へという、かなりの支持率低落傾向がマスコミ報道されたことも忘れてはなるまい。

―「高い」支持率が続く3つの理由

 過大評価されているとしても、政権支持率はけっして低迷してはいない。それがなぜか、より深く考えていかねばなるまい。それには①分断、②アメとムチ、③規範力の後退という、フィリピン政治にとどまらない深刻な状況を(わが身=日本の状況も振り返りつつ)考慮する必要がある。

 分断: フィリピンの政権批判勢力はCPP-NPA-NDF系とそれ以外に大きく分断され、地域ごとに州・市町・バランガイレベルの政治勢力間に対抗と協力関係、また集合離散があって、まとまりを欠いている。1986年政変以前のマルコス時代には、反マルコス勢力が矛盾を抱えながらも「共通の敵」を前におおむね協調関係にあった。海外のフィリピン反マルコス運動も活発で、欧米日などで海外在住フィリピン人たちを含むカトリック教会とプロテスタント系諸教会組織も加わり、フィリピン問題資料センター(RCPC)の活動にみるような効果的連携が成立していたが、いまはほとんど存在しない。

 アメとムチ: ドゥテルテ政権は発足後すぐに大幅な昇給を命じた軍・警察をはじめ、官僚組織全体を掌握し、活用している。政府、議会、裁判所を影響下に収め、三権分立どころか、効果的に動員してきた。これまで行政に無視され、放置され続け、それが当然とすら感じさせられてきた最貧困層に対し、現金や食料の提供、医療、さらに犯罪抑止といった何らかのアプローチが不十分ながらも浸透しはじめ、政権支持拡大につながっている。むろん当然の権利としての給付ではなく、恩恵のバラマキだ。またその裏側には、異論を許さない雰囲気、つまり恩恵から外され、批判しているとみられたら生命すら危険に晒されるという恐怖の要因もある。

 規範力の後退: 人権とそれにもとづく民主政治という国際規範がフィリピンだけでなく世界的に後退している。フリーダム・ハウス報告書「民主主義の後退」(2019年)は「民主主義の後退は、世界全域で見られ」ると指摘。そこには欧米とは異なる、権威主義的「もうひとつの成功モデル」としての中国の影響力の拡大も作用をおよぼす。コロナ禍とそれに起因する経済の停滞や社会不安は、中国のような、より強力な統治へと人びとをかき立てていく危険性もある。

― コロナ禍中の人権問題と選挙

 2020年初からの世界的COVID19蔓延は、各国で医療システムの破綻やロックダウン等のさまざまな人権制約をもたらした。フィリピン社会も経済も貧困層を中心にたいへんな被害を被っている。
 ドゥテルテ政権の政策対応はこれまでのところASEAN10か国中では中くらいの成績といえよう。累計感染確認数が243万4753人(世界221か国・地域中18位)、総死者数3万7405人(世界21位)と多く、今も急増が止まらない。100万人あたりでみると、感染確認者2万1863人(世界131位)および死者336人(世界119位)となる。これが経済や社会にどう影響を残すかはまだ不明だが、大きな負の長期にわたる影響は免れまい。
 そこにいま選挙の季節を迎えつつある。そのたびに激しい選挙運動のなかで候補者・運動員の暗殺などの暴力的な妨害が、「誤爆」や巻き添え被害もふくめて頻発してきた。国境を越えた選挙資金の調達はパンデミックのため困難となり、買収は金額的に減るかもしれない。政府批判勢力への抑圧は、SNSを使ったデマ攻撃や脅迫もあわせ、選挙がらみで激化が予想される。
 日本との関係でみると、政府開発援助(ODA)の政権側による選挙資金への流用が指摘されてきた歴史もある。日本の企業活動も選挙と無縁ではない。さまざまな情報の公開と分析・共有への努力が求められる。このささやかなWebメディアもそうした一環でありたい。
 なお今回の解説記事(1)と(2)はあくまでも世論調査結果の吟味を中心においた。超法規的殺害(EJK)や対中国外交の評判などと政権支持との関係は、原稿が長くなりすぎるため割愛せざるをえなかった。これらはたいへん重要な論点なので、近いうちに続編としてさらに踏み込んだ検討を試みたいと考えている。

〈筆者紹介〉
フェリス女学院大学名誉教授(平和学・アジア太平洋地域における開発と環境問題の平和研究)
フィリピンなどで実施の政府開発援助(ODA)事業が現場へおよぼす影響を調査分析しつつ、各地域の住民運動・NGOなどによる自力更生努力と国境を越えた市民連帯ネットワークに関心をもって当事者たちとの交流やエクスポージャー(現場学習)を長く続けてきた。

〈Source〉
COVID-19 CORONAVIRUS PANDEMIC, Worldometer, September 23, 2021.
DUTERTE FINAL YEAR: Duterte may cap term as most popular Philippine president. So what?, Rappler, Jun 30, 2021.
Fourth Quarter 2019 Social Weather Survey: Pres. Duterte’s Net Satisfaction at new record “Excellent” +72, Social Weather Stations, January 21, 2020.
(前回掲載の第4図とデータ自体は、こちらが原本のため、ほとんど変わらない)
Rappler Talk: Duterte’s popularity as he nears last year of presidency, Rappler, Jun 28, 2021.
フリーダム・ハウス報告書「民主主義の後退」、Freedom House, 2019年4月1日.
横山正樹 『改訂新版・フィリピン援助と自力更生論―構造的暴力の克服―』 明石書店、1994年 (初版、1990年)、ことにその第4章「円借款供与の政治性と日本のアジア戦略」を参照。

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