世論調査の「ドゥテルテ支持」 3分の1は「支持ではない」

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【25日=東京】ドゥテルテ大統領の支持率の少なくとも3分の1は本音とは異なる回答だった──。慶應義塾大学の粕谷祐子教授(比較政治学)らの研究グループが、2021年に実施された世論調査でのドゥテルテ大統領の支持率について調査したところ、ドゥテルテ大統領を実際には支持していないにもかかわらず、「支持する」と回答する人の割合が高いことがわかった。粕谷教授らの研究グループは「ドゥテルテ人気を形容する際に『驚くほど』『際立って』という表現が適切であるほど、ドゥテルテ大統領の人気があるとはいえない」としている。「ドゥテルテ人気」の評価に一石を投じる調査となった。

 粕谷教授と学習院大学の三輪洋文准教授(政治行動論)、フィリピンのデラサール大学のロナルド・ホルムズ助教授(フィリピン政治学)が調査、分析した。15日にオンラインで開催されたフィリピン政治学会の年次大会で発表された。

─ 対面式、質問の仕方で「支持」に差

 対面式調査とオンライン調査の二つの調査をほぼ同期間に実施した。

 対面式の調査(2021年2月22日〜同3月3日)は、フィリピンの世論調査会社パルス・アジアが全国世論調査の一部として実施した。パルス・アジアの世論調査は年4回定期的に実施されており、調査員が回答者を訪ね、対面式で回答を得る。通常、調査員が回答者に対して「ドゥテルテ大統領を支持するかどうか」と直接尋ね、支持率を出している。

 では、回答者の本音をどのような方法で探るのか。

 研究グループは今回、支持するかどうかを直接尋ねる通常の質問のほかに、「このリストの中にあなたの支持する政治家は何人いるか」という質問を作成した。

 回答者を無作為に二つのグループに分け、一つのグループには、ドゥテルテ大統領の名前を含めた複数の政治家の名前が書かれたリストを示し、もう一つのグループにはドゥテルテ大統領の名前がないリストを示した。いずれのリストでも、複数の政治家の名前は箇条書きで記載され、回答者には、政治家の名前ではなく、「支持する」と思った人数を答えてもらうようにした。例えば、リストに「支持する」と思う政治家が2人いるなら、回答者は調査員に対して「2人」と答える。こうすれば、具体的にどの政治家を支持するかを調査員に知られないですむ。回答者の本音をより引き出しやすくするためのリスト実験と呼ばれる調査手法だ。

 ドゥテルテ大統領の名前を含めたかどうかで、二つのグループの回答結果には自ずと差が出てくる。その差をリスト実験の調査手法に則った計算式で計算することで、どの程度「ドゥテルテ支持」の割合があるのかを算出した。

 この結果、支持するか否かを直接問う尋ね方をすると、89.7%の人が「支持する」と回答したものの、本音を探る方法では、ドゥテルテ大統領の支持は50.7%だった。両者の差は約40ポイントあった。この差が大きければ大きいほど、回答者の本音は隠され、建前が強調されたことになる。

 研究グループでは「『支持する』と答えた89.7%のうち、少なくとも3分の1程度は、実際にはドゥテルテ大統領を支持していないにもかかわらず『支持する』と回答した」としている。

─ オンライン調査でも同様な傾向

 また、研究グループは、独自に実施したオンライン調査(2021年2月26日〜同3月3日)でも同様な手法でドゥテルテ大統領の支持率の実態を探った。

 その結果、「ドゥテルテ大統領を支持するかどうか」という直接的な文言で質問すると80.8%が「支持する」と答えたものの、その約3分の1が、ドゥテルテ大統領を実際には支持していないにもかかわらず「支持する」と回答していたことがわかった。

 オンライン調査でも、対面式調査と同様な傾向が確認された。

─ 本音を隠す理由とは?

 ドゥテルテ大統領を支持するか、と直接尋ねると、なぜ回答者は本音を隠すのだろうか。

 その理由を探るため、研究グループは対面式とオンライの両方の調査で、ドゥテルテ政権下でエスカレートする超法規的殺害の犠牲者を個人的に知っているかどうか▽政権から「共産主義者」のレッテルを貼られた者を知っているかどうか▽SNSサイトの1日の閲覧時間が1時間を超えているか──を尋ねる質問も用意し、「支持する」と回答した人がどのような傾向を持っているのかを分析した。

 その結果、それらの質問の仕方で尋ねた限りでは、「超法規的殺害」といったドゥテルテ政権の強権的政治手法への恐怖心が、本音を隠すかどうか、という点にはほとんど影響を与えていなかったという。

 一方で、自分の暮らすバランガイ(行政区分の最小単位)の人たちが、ドゥテルテ大統領を支持しているかどうか、で特徴が出た。

 自分の周りにドゥテルテ大統領を支持している人たちが多いと、自分の本心とは異なる回答をする傾向がうかがえた。フィリピンでは同調圧力や忖度といった「空気を読む」振る舞いが、支持率を実際よりも押し上げている可能性があることが浮き彫りになった。

 研究グループでは「意見の対立よりも円滑な対人関係を重視する心理的傾向が多くのフィリピンの人たちの間で共有されている。このような心理的傾向を強く持つ人は、多くの人が支持していると考えられる大統領に対して、不支持を表明することを避ける傾向が強いのではないか」と分析している。

─「強権的な政治手法を容認しているわけではない」

 ドゥテルテ政権は2016年の発足以降、世論調査では6割〜9割の高い支持率を維持している。

 その一方で、「違法薬物撲滅戦争(ドラッグ・ウォー)」を名目にした超法規的殺害は、公式発表だけで6011人(2020年12月現在)に上り、 国内外の人権団体の調査では3万人近い。このほかにも、農民や先住民族、人権・環境擁護アクティビストら、政府の政策や国家事業などに異を唱える市民が「テロリスト」あるいは「共産主義者」のレッテルを貼られている。人権監視NGOカラパタンの調べでは、こうした政治的な意図を持って殺害された人たちは2016年7月から2020年12月までに376人に上るといい、1040人が不当に勾留されているという。

 調査をした粕谷教授は「世論調査でのドゥテルテ大統領の支持率の高さの背景には『群衆心理』が強く作用していることがわかった。ドゥテルテ大統領への支持率の高さを、フィリピンの人たちがドゥテルテ大統領の強権的な政治手法を容認し、民主主義をあきらめた、と解釈するのは誤っている」と話している。

〈関連記事〉
”One third” of Duterte popularity rating appears due to ”social desirability bias”: professor, The Daily Manila Shimbun (日刊まにら新聞), June 16, 2021.

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