拉致されたあと朦朧とした状態で発見された環境・人権活動家スティーヴ

【写真】ステフェン・「スティーヴ」・タウリ=コルディリエラ人民連合提供。

トレリー・A.・マリグザ(Trelly A. Marigza)
(正義と平和のために働く女性たちのネットワークJaPNet議長)

 赤タグ付けによるハラスメントは、全国で増え続けている。ルソン島北部のコルディリエラ地方も例外ではない。2021年以降、複数の青年リーダーや組織の保護を求める司法指令(アンパロ令状)が発布され、国家人権委員会-コルディリエラ行政区(CHR-CAR)による「赤タグ付けは人権侵害である」と断言する決議にもかかわらずである。

― 拉致され、脅され、協力を求められた

 赤タグ付けや監視、嫌がらせの弊害を示す最新の事例は、ステフェン・「スティーヴ」・タウリの事件である。63 歳で地域開発に従事する活動家のスティーヴは、2022年 8 月 20 日午後 6 時 45 分頃、彼が拠点としていたタブク市アパス村のコルディリエラ人民連合(CPA)カリンガ事務所近くの商店で、買いものをしているときに殴られ拉致された。
 彼が商店を出ようとした時、5 人の男(以下、加害者とする)が彼に突然つかみかかり、目隠しをし、手錠をかけ、殴りかかってきた。スティーヴは必死にもがき助けを求めたが、黒いバンに無理やり押し込まれた。移動中のバンの中で、スティーヴは即座に加害者に対して何度も名前と所属部隊を言うよう要求したが、彼らは拒否した。
 スティーヴはまた、もし自分たちに何か問題があるのなら、不明な場所へ連れて行くのではなく、警察署や国軍の駐屯地へ連れて行くなど法的手段を取るべきだと訴えた。だが、加害者らはスティーヴに、地方共産党の武装闘争を終わらせるための国家タスクフォース(NTF-ELCAC)とその設立目的とされる国内の反乱問題の阻止について説き始めた。加害者らは、スティーヴの仕事や彼が関係しているとされる何人かの人物について尋問し、ある人物の身元とフィリピン共産党(CPP)-フィリピン共産党軍事部門新人民軍(NPA)との関係を確認するよう求めた。
 約1時間の尋問の後、加害者らは再びスティーヴを車に乗せ、約2時間移動し、人口密集地から離れた別の家に止まった。そこで加害者らは、スティーヴにさらに尋問を続け、「CPP-NPAの指導部の地位にあることを認める」と書かれた宣誓供述書に署名するよう、治安当局に協力するよう、スティーヴを説得した。加害者らは、コルディリエラ地方のCPP-NPAの指導者だと彼らが特定したある人物を無力化することに協力するようスティーヴに言った。この説得は数時間続いた。その間中、スティーヴは目隠しをされ、手錠をかけられ、協力しなければいつでも殺すことができると脅迫された。
 スティーヴは、2008年に拉致されたまま行方知れずになっている友人の活動家、ジェームズ・バラオに起こったことを思い出し、身の危険を感じた。スティーヴはまた、彼が突然行方不明になったことで、彼の家族や同僚が経験しているに違いない苦悩を想像し始めた。スティーヴは、外で何が起こっているのか、友人たちが彼を探すために何をしているのか、知るすべがなかった。スティーヴを捕らえた加害者らは、「サインすれば解放する」、「拒否すればどうなるか分からない」などとスティーヴを脅し、彼らが用意した供述書に署名させようとした。
 そのような状況下で、スティーヴは強要されるままに調書に署名した。加害者らはスティーヴの目隠しを取り、スティーヴはようやく彼らの姿を見ることができたが、彼らは全員、目出し帽をかぶっていた。加害者らは、スティーヴに署名させ、供述書を読ませ、それを録画した。さらに、この出来事を報告するな、署名した内容に従え、さもなければ、スティーヴやスティーヴの家族や同僚に危害を加えると脅した。

― 解放されたが、いまも続く生命の危険

 2022年8月21日夜、スティーヴは加害者らから解放されたが、「協力しなければ、この先どうなるか分かっているな」と脅された。スティーヴは、車両から降ろされた場所からコルディリエラ人民連合事務所まで歩かされた。そしてその夜、捜索を続けていた同事務所スタッフが、ショックで朦朧とした状態で歩いていたスティーヴを発見した。
 解放されてから1週間が経ったが、スティーヴと彼の家族は、この事件による深い心の傷もさることながら、彼の生命の危機が今も続いていることに動揺している。
 8月27日に、スティーヴの家族や彼のコミュニティの人びとは、彼の家で、悪霊を追い払い、彼の幸福を祈るためにドーエス(Daw-es)を実施した。
 コルディリエラの先住民族は、突然の死や殺人、事故、原因不明の病気に見舞われると、この古代の儀式を行うのである。それは、カブニャン(Kabunyan:神)にその場所の悪霊を浄化してもらい、人びとの心の中にある死のイメージを取り除き、命を授かったことを神に感謝するため、あるいは生きている人びとに悲劇をもたらす悪霊をその場所から追い出すための祈りである。

― ソルタン・ダムへの反対キャンペーン開始、アンパロ令状の要請が拉致の引き金か?

 スティーヴは、マウンテン州ベサオの故アレハンドロ・タウリ牧師と故シレナ・アンブカイ・タウリ看護師の息子である。彼はコルディリエラ人民連合副議長ジル・カリニョの夫で、アミアン、キンジャ、ホセファの父親で、ビッキー・タウリ―コルプス元国連特別報告者の兄弟でもある。フィリピン大学ロスバニョス校で森林学を専攻し、グリーン・マウンテン・サークルとアルファ・ファイ・オメガ友愛会で学生リーダーとして活動し、同大学を卒業した。
 長年にわたり地域開発ワーカーとして、また、先住民族の人権擁護者として活動し、最近ではコーディリエラ人民連合の関連組織であるカリンガ農民団体(Timpuyog Dagiti Mannalon Ti Kalinga)で活動している。チコ・ダム闘争以来、スティーヴは、ダムや鉱山、その他コルディリエラの人びとに対する開発と称する侵略に反対するキャンペーンを粘り強く続けてきた。
 その献身的な活動のために、彼は不当に赤タグ付けされ、監視と嫌がらせを受けることとなった。この拉致は、コルディリエラ人民連合カリンガがソルタン・ダムに反対するキャンペーンを開始し、そして、コルディリエラ人民連合の指導者とメンバーが、人権擁護者に対する継続的な赤タグ付けと攻撃に関するアンパロ令状を控訴裁判所へ申請した直後に起こった。

― 人権擁護者ら、赤タグ付けを直ちに廃止するよう要求

 家族や仲間、より広いコミュニティによるスティーヴの迅速な捜索、有権者を保護する義務を支持する役人たちの存在、そして世論の反発によって、彼を拉致した人物らはスティーヴを解放せざるを得なかった。
 彼は、明らかに国家治安部隊の一員である拉致犯の手によって、死に瀕することとなった。スティーヴの家族は、彼の捜索に関わったすべての人びとに感謝している。彼の試練はまだ終わっておらず、正義を追求しなければならないため、継続的な支援を呼びかけている。
 コルディリエラ人民連合とコルディリエラ人権連合(CHRA)は、「この国に根付く不処罰の文化の中、今回の事件に関して偽情報がすでに広まっており、解決には困難が予想される。市民の政治的権利に対する攻撃が高まっている中、私たちは、国家治安部隊を含むすべての人びとに、人間の権利や尊厳の価値、特に専制政治が最も困難な時期にこれらを保護し主張する人びとの連帯責任を思い出すよう求める」と共同声明で述べた。
 不処罰の文化は、人びとの間に生命への不安、安全への恐怖を生み出している。国内で相次ぐ殺人、争点となっている反テロ法の可決、さらにソーシャルメディア上での「荒らし」による脅迫、赤タグ付け、監視、嫌がらせは、蔓延する暴力を悪化させている。
 社会的・政治的改革を求める行動主義(アクティビズム)はテロリズムではない。私たちは国家に対し、赤タグ付けを直ちに廃止するよう要求する。

#StopTheAttacks
#DefendTheDefenders
#DefendCordilleraPH
#EndTheCultureOfImpunity

<Source>
Joint Statement of Cordillera Peoples Alliance and Cordillera Human Rights Alliance August 29,2022., Cordillera Human Rights Alliance, August 29, 2022.

〈筆者紹介〉
トレリー・A.・マリグザ(Trelly A. Marigza)。教育学修士(数学専攻、理学専攻)。さまざまなNGOの活動やフィリピン合同教会のジェンダー・正義プログラムなどに関わる中で、ジェンダーや環境、よき統治に関するコンサルタント業務に従事している。また、ビジュアル・アーチストとしても活動。

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Painting:Maria Sol Taule, Human Rights Lawyer and Visual Artist

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