フィリピン独立教会聖職者への赤タグ付け

【写真】現地調査に参加した宗教者ら。エメリン・ガスコー・ダクイクイ主教(右から3番め、赤いワンピース)、ノエル・ダクイクイ牧師(一番右)=2022年7月19日、イロコス・ノルテ州バンタ町フィリピン独立教会、トレリー・マリグザ撮影。

トレリー・A・マリグザ(正義と平和のために働く女性たちのネットワークJaPNet議長)

 2022年7月19日、フィリピン・キリスト合同教会(UCCP)、フィリピン独立教会(IFI)、フィリピン全国教会協議会(NCCP)、フィリピン・エキュメニカル(プロテスタント諸教会協働)・平和プラットフォーム(PEPP)、エキュメニカル(プロテスタント諸教会協働)主教フォーラム(EBF)、平和と正義のために働く女性ネットワーク(JaPNet)などに所属する聖職者と人権擁護者らの一団が、フィリピン北部ルソン島北西部の北イロコス州のバンナ町において、治安当局による同州の聖職者らへの執拗なハラスメントに関して現地調査を実施した。宗教団体が「赤タグ付け」される事件が多発し、聖職者らの命の危険が高まっている今、私たちは記録と連帯を示すために現地を訪問することにしたのである。
 この現地調査に先立ち、フィリピン独立教会の聖職者は、この訪問の発端となった聖職者に対する「赤タグ付け」に対する非難も表明している。

 エキュメニカルとは、世界教会協議会(WCC 本部ジュネーブ)やアジア、欧州、中南米、アフリカなど各地域の協議会の活動に見られるような、キリスト教諸教会の結束を目指す教会一致運動エキュメニズムの形容詞形。

― NPAのリクルーターとレッテル貼りされた聖職者ら

 2021年6月2日と3日、北イロコス州バタック市やラオアグ市、バンナ町にあるフィリピン独立教会とフィリピン・キリスト合同教会の教会に、ポスターや横断幕が貼られた。そこには、「エメリン・ガスコー・ダクイクイ主教(ダクイクイ主教)と同主教の夫であるバタック教区のノエル・ダクイクイ牧師(ダクイクイ牧師)、ラオアグ教区のアルビン・マングルバン牧師らはフィリピン共産党軍事部門新人民軍(NPA)のリクルーターである」と記されていた。
 同年6月26日、悪質なチラシやポスター(写真付き)が、北イロコス州バタック市とバカラ町のフィリピン独立教会の近くで発見された。ダクイクイ主教とダクイクイ牧師、ランディ・マニキャップ牧師らがNPAのリクルーターであると名指しされ、ポスターには、「気をつけろ、この人物はNPAのリクルーターだ!」と記されていた。北イロコス州は、フェルディナンド・ボンボン・マルコスJr.(以下、ボンボン・マルコス)大統領の故郷であり、本拠地である。
 これらの事件の前に、バンナ町警察の警官が教会を訪問して監視カメラがないことを確認し、教会関係者にカメラを設置するよう指示している。国家警察は、教会にポスターや横断幕を貼る際に撮影されることがないよう、確認しにきたものと想定される。
 ダクイクイ主教は、1990年代初頭当時、農民のまとめ役(オーガナイザー)であり、また、教会の活動にも力を注いできた。彼女は忠実な人権擁護者でもあった。新型コロナ感染症のパンデミックの中で、ダクイクイ主教らは、信徒を組織して農民のコミュニティを全面的に支援した。だが最近になって、北イロコス州のジュリウス・C.・スリベン州警察長に居場所や集会への参加について尋ねられるまで、ダクイクイ主教は国軍からの監視や嫌がらせを経験したことがなかった。2018年に彼女が主教になったので、国家権力が彼女に関心を持ったということだろうか。

― フィリピン独立教会聖職者らへの執拗なハラスメント

 昨年5月19日、170人が参加する若者のサマーキャンプがあり、ダクイクイ主教は青年部門から講演を依頼された。メソジストでフィリピン・キリスト教会青年委員会(Kalipunan ng Kristiyanong Kabataan:KKKP)のメンバーであり、前回の選挙ではカバタアン(青年)党の第2候補者だったエンジェル・ガリンバも、そのキャンプに参加した。カバタアン党は、国家警察によって共産主義者の隠れ蓑というレッテルを貼られている。一週間後、ガリンバは聖職者に選挙の結果について話すために戻ってきた。その時、国家警察の機動隊がガリンバらの活動を監視しているのが目撃された。
 6月4日、ピニリ町の神父がダクイクイ主教に電話で、「サマーキャンプに参加した青年らと一緒に警察へ出頭するよう言われた」と伝えた。同主教がその神父から聞いたところによると、出頭した青年らは自宅から連れてこられ、薬物に関するセミナーに参加するよう、また、国家警察が招集する青年組織KKDATのメンバーになるように言われた。KKDATは、違法薬物やテロリズムとの闘いにフィリピンの青年らを国家警察のパートナーとして動員することを目的としている。さらに、この時呼び出された青年らは、サマーキャンプで話し合われた内容について質問された。
 6月中、ダクイクイ主教は、北イロコス州警察長室に連行され尋問を受けた。州警察長は同主教に対し、NPAはつねづね人権擁護活動家らをNPAに入るよう勧誘すると言い、同主教がNPAのリクルーターであるか否かを尋ねた。ダクイクイ主教はこれらすべてを否定した。
 ダクイクイ主教は、バンナ町の警察署長とも話した。同警察署長はダクイクイ主教に謝罪したが、主教らがNPAのリクルーターであるという烙印を押した横断幕などをその地域に貼ったことについては否定した。ダクイクイ主教によれば、北イロコス州警察長とバンナ町警察署長は、直接連絡を取りあう近しい間柄である。
 尋問に加え同州警察長や同警察署長らは、ダクイクイ主教の安全を守るためとの理由で、1カ月間、彼女に「近接した警備」を提供した。その間、国家警察はフィリピン独立教会で、無作為に調査を実施した。
 ある時、午前10時のミサの後、バンナ警察署長がダクイクイ主教を訪ねてきて、バドック町に連れて行った。ウェストリムンド・オビンケ警察管区局長が、捜査官と数人の女性警察官と一緒に来ていた。彼らはダクイクイ主教の写真を撮り、同主教は食事の前に祈るように言われ、それから話し合いを持った。警察署長らは同主教に、いくつかの組織での同主教の地位や関与、ある人物との関係など、多くの質問をした。警察署長らは、ダクイクイ主教に協力を求め、「NPAのリクルーターではない」との証明をとるように告げた。これは、明らかにダクイクイ主教の名前を「標的のリスト」から「削除」するための手続きだが、同主教は自分が非難されていることを認めるに等しい書類に署名することを拒んだ。彼女は、ボンボン・マルコス大統領の宣誓式に合わせた集会の計画について尋ねられ、ラオアグ市(北イロコス州の州都)でのその集会に参加しないようにとも忠告された。
 ダクイクイ主教の運転手の何人かが同主教の行動を報告すれば月10万ペソを支払うと国家警察から勧誘されたと証言しており、同主教への監視がいまだに続いていることは明らか

― ハラスメントの首謀者は誰だ?

フィリピン独立教会の全国指導部は、一連のハラスメントは「地方共産党の武装闘争を終わらせるための国家タスクフォース(NTF-ELCAC)」の仕業であると確信している。こういった赤タグ付けがNTF-ELCACの作戦であることは、もはや周知のことである。そのうえ、ダクイクイ主教らは、NPAのリクルーターだと疑われる人物の情報を提供するだけで利益を得ている人びとを把握している。NTF-ELCACは、人権擁護活動家をフィリピン共産党の支持者であるとして公に非難するために、赤タグ付けという違憲の慣行を継続的に用いてきた。このやり方が、人権擁護者の政治的抑圧の定番になっていることは憂慮すべきことである。このような烙印が、多くの場合、脅迫や殺害の事件につながっているのだから。
 ダクイクイ主教は、フィリピン独立教会初の女性主教(そして今のところ唯一の女性主教)であり、ユナイテッド・メソジストのシリアコ・フランシスコ主教と共にエキュメニカル主教フォーラムの共同議長の一人である。悪意ある告発によって、これらの聖職者が政府の対反乱作戦の正当な標的となることが懸念されている。
 さまざまなセクターが権利のために組織化し、主張し、闘っているのに、政府は彼らを活動家、左翼、あるいは共産主義者としてレッテルを貼っている。

― 赤タグ付けを犯罪として取り締まるよう求める

 不処罰の文化の蔓延が、宗教指導者や教会の人びとに対する脅威の増加を許してきた。私たちは、虚偽の流布に対して声を上げるよう、そして、私たちの民主的な権利と自由を守るために愛国的義務を主張するよう、信仰のある人びとに呼びかけている。虚偽の流布は、教会関係者やその他の善良で思いやりのある人びとを迫害している。
 私たちは、予防措置として赤タグ付けを犯罪化することを議会に求める。私たちはまた、教会の人びと、すべてのフィリピン人、そして関心を持つ個人に対し、過去の政権の不正行為に責任を持たせ、現在のボンボン・マルコス政権が社会正義の提唱者に対する攻撃を終わらせるよう求めている。私たちは皆、公正で平和な社会を思い描いている。

〈筆者紹介〉
トレリー・マリグザ。教育学修士(数学専攻、理学専攻)。さまざまなNGOの活動やフィリピン合同教会のジェンダー・正義プログラムなどに関わる中で、ジェンダーや環境、よき統治に関するコンサルタント業務に従事している。また、ビジュアル・アーチストとしても活動。

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Painting:Maria Sol Taule, Human Rights Lawyer and Visual Artist

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