【28日=東京】ドゥテルテ大統領は26日、マニラ首都圏ケソン市の下院議会で最後の施政方針演説(SONA)を行った。6年間の任期で最後となる6回目の施政方針演説。約2時間45分にわたる演説のなかで、ドゥテルテ大統領は、違法薬物(ドラッグ)や共産主義との戦いの意義を強調し、インフラの整備の推進などの成果を誇った。マニラやセブ島などでは施政方針演説に合わせて、ドゥテルテ政権の人権侵害に抗議する大規模な集会やデモがあった。
ドゥテルテ大統領は、「共産主義勢力との紛争を終わらせる国家タスクフォース(NTF-ELCAC)」の設立が「共産主義者との紛争における根本原因に対処することに大きく前進した」と語り、その結果、国軍と国家警察が「フィリピン共産党の15以上の組織を破壊したと思う」「かつて共産主義者が活動していたコミュニティの持続可能な復興と開発に取り組んできた」と成果を誇った。一方で、政府に異を唱える農民や弁護士、ジャーナリスト、アクティビストたちを「共産主義者」「テロリスト」とレッテルを貼り、公の場で攻撃する手法についての言及はなかった。
─ 「合法的な方法で行うこともできるが…」
また、違法薬物の取り締まりについては「警察は毎日約10億円の麻薬を押収している。毎日約千人のフィリピン人が違法薬物の取引に関連して警察に逮捕されている。そんな状況を見ていると、気が狂いそうだ。彼らはまだ存在している」と述べた。
その上で、「私の国を破壊する者は、私が殺す。そして、私たちの国の若者を破壊する者は、私が殺す(I will kill you)」と息巻いた。
「違法薬物撲滅戦争(ドラッグ・ウォー)」に伴う超法規的殺害は国際機関からも非難されているが、ドゥテルテ大統領は「合法的な方法で行うこともできるが、何ヶ月も何年もかかるかことか」と問いかけ、正当性を訴えた。そして、「違法薬物の蔓延との戦いにはまだ長い道のりがある。この問題は、家族を破壊し、社会のモラルを低下させることで、数十年にわたってわが国を悩ませてきました」と語った。
また、ドゥテルテ大統領は幹線道路の整備事業や新駅の開設でマニラ首都圏の交通渋滞を「解消させた」と実績を強調。ビジネス特区の移動距離を1時間から12分に短縮されたことも成果として言及した。さらに「零細・中小・零細企業は、わが国の企業の99.6%を占め、経済活動、雇用創出、貧困削減に不可欠な存在だ」として、残りの任期で税制を抜本的な改革に着手すると語った。「国の雇用回復戦略を推進するタスクフォース」を設置したことで100万人以上の雇用を創出できると自信を見せた。
深刻化する新型コロナウイルスへの対応については、全国に9000以上の一時的な治療・監視施設の設置や計14万人以上のベッド数の確保したほか、ネグロス島のバコロド市やミンダナオ島のダバオ市などに新しい医療施設の設立したことを挙げ、「(フィリピン国民の)健康状態は改善し続けている」と語った。
─ 「ドゥテルテをぶっつぶせ」で射殺
この日、最後の施政方針演説に合わせた抗議活動が各地であった。
マニラでは市民数千人が集まり、フィリピン大ディリマン校から下院議会場に向けてデモ行進して、「ドゥテルテはもう終わりだ」などと書かれた横断幕を掲げて、ドゥテルテ大統領による人権侵害に対して抗議の声を上げた。セブ島のセブ市内では警官約100人が出動し、沿道での抗議活動を監視した。
マニラ近郊のルソン島アルバイ州では、ドゥテルテ大統領を批判する落書きをした2人のアクティビストを州機動部隊が銃で殺害した。人権監視NGOカラパタンによると、殺害されたのは、ジェマール・パレロさん(22)とマーロン・ナペリさん(38)。午前1時頃、2人はバナオ橋で落書きをしているところを発見されたという。落書きは「DUTERTE IBAGS」と書かれたところで終わっていた。「DUTERTE IBAGSAK」(Down with Duterte = ドゥテルテをぶっつぶせ)だったとみられる。
パレロさんは農民で、農民組織OMA(Organisasyon ng mga Magsasaka sa Albay)のメンバーだった。ナペリさんはカラパタン系の組織(Albay People’s Organization)のアクティビストだったという。
警察側は「2人は銃を持っていて反撃してきた」と主張しているが、カラパタンは27日、「2人は非武装のアクティビストで、落書きをしている間に武器を持っていないことは明らかだ」と批判する声明を出した。
─ 394人の人権擁護アクティビストが殺害
カラパタンによると、ドゥテルテ大統領が就任した2016年以降、394人の人権擁護アクティビストが殺害され、493人が何らかの攻撃を受けたという。逮捕されたのは3790人で、そのうち1090人が収監された。1205人が家宅捜索の対象になった。
〈Source〉
FULL TEXT: President Duterte’s State of the Nation Address 2021, Rappler, July 26, 2021.
FULL SPEECH: President Duterte’s final State of the Nation Address | SONA 2021, Rappler on Youtube, July 26, 2021.
〈関連記事〉
Duterte’s final SONA: Classy, simple, impactful, The Manila Times, July 26, 2021.
Duterte lists bills in chaotic final SONA, Business World, July 27, 2021.
IN PHOTOS: Cops on Sona rallies in Cebu City: Peaceful, health protocols followed, Cebu Daily News.
IN PHOTOS: Groups nationwide hold SONA 2021 protests, demand end to rights abuses, Rappler, July 26, 2021.
Karapatan decries killing of two activists in Albay over anti-Duterte graffiti, Karapatan, July 27, 2021.
LIVE updates: Duterte’s State of the Nation Address 2021, Philistar, July 26, 2021.
LIVE UPDATES: President Duterte’s final State of the Nation Address | SONA 2021, Rappler, July 27, 2021.
Quick summary of Duterte’s SONA 2021, Rappler, July 26, 2021.
インフラ、反共政策を自賛 最後の施政方針演説, 日刊まにら新聞, 2021年7月27日.
比大統領、「企業支援を約束」 最後の施政方針演説, 日経新聞, 2021年7月26日.
比大統領「妥協の余地なし」, 西日本新聞(共同電), 2021年7月26日.
フィリピン大統領 国際的な仲裁裁判の判断価値認めず, NHK, 2021年7月27日.