米国務省国別人権報告書:深刻な人権侵害と
フィリピン政府の関与を指摘

【写真】米国務省の報告書を批判するアンダナール報道官(左)と人権団体カラパタンによるドゥテルテ政権下(2021年8月まで)で生じた人権侵害統計データ(右)/via https://www.pna.gov.ph/articles/1172280, facebook of Karapatan (posted on October 20, 2021.)

【東京=22日】4月12日、米国務省の2021年国別人権報告書が公開された。フィリピンに関する報告書(フィリピン2021年人権報告書)では、超法規的殺害を含む抑圧的な社会状況や汚職、公正さを欠いた裁判等の司法システムなどが分析され、それらを黙認もしくは利用さえしているかに見えるフィリピン政府に対してかなり批判的な評価がなされた。ここでは、超法規的な抑圧・殺害に関する部分のみについて簡単に説明した後、その評価に対するフィリピン政府の反応について紹介する。

― フィリピン政府の人権侵害への関与

 米国務省は「フィリピン2021年人権報告書」において、フィリピン国内の人権状況に関する次の7項目を54ページにわたり報告した。

 1) 個人の尊厳と尊重、2) 市民的自由の尊重、3) 政治プロセスへの参加の自由、4) 政府内部における汚職および透明性欠如、5) 人権侵害に関する国際的・非政府的な調査に対する政府の姿勢、6) 差別と社会的虐待、7) 労働者の権利

 報告書は、人権に関する法的整備がなされていることに言及しつつも、その執行の側面におけるフィリピン政府の対応能力に関し、強い疑問を呈している。さらに報告書は、ドゥテルテ政権がこれまで否定してきた数多くの非人道的な事件との関係にまで踏み込んでいる。ドラッグ戦争を含めた様々な事例を挙げ、また、国内外の人権擁護組織による「信頼できる」調査報告書を引用することで、報告書は、政治的殺害、失踪、拷問、等々へのフィリピン政府の積極的な関与の可能性を浮き彫りにした。

― 政府による調査・解決の妨害や蔓延する汚職

 報告書は、さらに、人権問題の調査・解決を妨害するフィリピン政府の動きを取り上げた。特に、人権調査組織への協力を拒否するよう公務員に促すような政府の圧力的な行為が明記された。さらに、多くの非人道的な事件が「ハイレベルで広範囲な政府の汚職」と結び付いているという。特に、被告となった政府高官や政治・経済的な有力者への司法手続きの遅れや不処罰、そして、政治的な理由によるジャーナリストや人権活動家への行動制限・抑圧・不当な起訴・逮捕・勾留等が取り上げられ、人権を守るはずの制度が汚職によって機能不全を起こしていると指摘した。

― 侵害される先住民族と労働者の権利

 先住民族は、しばしば国軍と反政府組織との戦闘により深刻な被害を受けてきた。多くの先住民族の居住地が紛争地域に位置しているため、先住民族は反政府組織によってリクルートされやすい。報告書は、このような背景に加えて、先住民族への文化的な差別が、深刻な人権被害の状況をさらに悪化させていると指摘する。報告書では、先住民族のコミュニティや学校、学生などへの抑圧や殺害に関して、いくつもの事例が挙げられた。また、先住民族が、教育や健康、国軍と反政府組織との戦闘による被害からの復興等に関する基本的な公共サービスを受けにくい状況にあることについて触れている。
 労働者の権利に関しては、ストライキや労働組合活動に対する不当解雇、特に警察等による労働組合リーダーへの脅迫・抑圧・殺害が深刻な人権侵害として取り上げられている。

― 報告書は根拠のない焼き直しだ:フィリピン政府

 16日、フィリピン政府は、マルティン・アンダナール報道官を通して、上記米国の報告書を全く根拠がなく、ドゥテルテ政権批判者たちによる「古い問題の焼き直しにすぎない」として、その内容を否定した。先月、アムネスティ・インターナショナルが同様の問題を取り上げた報告書を公表した際、フィリピン政府は、その報告書が「単なる虚偽の焼き直し」であるとのコメントを発している。さらに、アンダナール報道官は、違法薬物との戦いに関与する法執行上の違反とされるものを含め、ドゥテルテ政権に対する疑惑は「全てこれまでに対処済みである」と主張した。
 また、アンダナール報道官は、フィリピン政府が米国大使館の政治担当者に対して、フィリピン政府との間で適切に事実を検証するように助言したことを明らかにした。

〈Source〉
2021 Country Reports on Human Rights Practices: Philippines, U.S. Department of States, April 12, 2022.
Palace: US accusations of corruption under Duterte ‘baseless, recycled issues’, ABS-CBN, April 16, 2022.
Palace hits ‘baseless’ US report on PH human rights situation, Philippines News Agency, April 16, 2022.
Philippine officials under pressure not to work with human rights orgs — US report, philstar, April 13, 2022.
US report: Philippine laws on discrimination, workers’ rights not effectively implemented, philstar, April 13, 2022.

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