【コラム】「日常」、「あたりまえ」のことに
なりつつある超法規的殺害

【写真】ローズマリー・ガリアス(左)とシルベストゥレ・フォルタデス・ジュニア/via Anakpawis appeals CHR to probe surge of human rights abuses against peasant communities, ANAKPWIS PARTY-LIST, January 27, 2022.

ブッチ・ポンゴス(日本国際法律家協会インターン)

 ミャンマーや香港のデモ隊が治安当局に弾圧されるといった映像を、日本の皆さんはよく目にされているのではないでしょうか。ここフィリピンでは、異論を持つ者の封じ込めが目的と想定される市民殺害は、「日常」、あるいは「あたりまえのこと」になりつつあります。
 1月15日午前7時、シルベストゥレ・フォルタデス・ジュニア(71)とローズマリー・ガリアス(68)の夫婦は、毎日、露店を出している市場で殺害されました。二人は、フィリピン農民運動(KMP)の加盟団体である地元の農民団体やアナックパウィス党ソルソゴン支部の活発なメンバーでした。それらの団体は、ドゥテルテ政権から「赤タグ付け」され、弾圧の対象とされています。

― いつもと変わらぬ一日の始まりだった

 シルベストゥレとローズマリーは農家に生まれ、フィリピンの多くの困窮した農民らと同様、義務教育を受けることすらできませんでした。二人は、ソルソゴン州バルセロナ町のポブラシオン・ノルテで、小さな農地を耕し生活の糧を得ていました。シルベストゥレは、整備士としても働き生活の足しにしていました。
 あの日、シルベストゥレとローズマリーは、いつものように、近所の誰よりも早く起きました。夜明け前に起きて、毎日決まった仕事を始めます。それが彼らの日課でした。いつもどおり、コーヒーと小さなパンという簡単な朝食を済ませ、二人は、地元産のニンニクや玉ねぎをシルベストゥレのトライシクル(バイクに客席用のサイドカーを付けた乗り物)に積み込みました。そして、彼の運転で、二人がスパイスを売っている馴染みの市場へと出発しました。
 二人にとって、いつもと変わらぬ一日の始まりでした。まさか、その日が人生の最期になるなんて。

― 最初にシルベストゥレが、そして、孫を守ろうとしてローズマリーが撃たれた

 人権団体カラパタンの状況報告書によると、シルベストゥレが最初に撃たれました。彼は、トライシクルの運転席に、その後部座席には孫が座っていました。銃声を聞いたローズマリーはとっさに孫の元へと走り、その時に撃たれたのです。シルベストゥレはその場で死亡し、ローズマリーは病院へ運ばれたものの死亡が確認されました。幸い、孫は無事でした。
 地元紙によると、シルベストゥレとローズマリーは、ドゥテルテ政権の下、ソルソゴン州で超法規的に殺害された42番目と43番目の被害者となりました。
 あとから考えると、この悲惨な事件には予兆がありました。筆者がシルベストゥレの娘の友人に聞いたところによると、前日14日、二人の男を伴ったカンバル・ダコとキントイという人物がシルベストゥレを脅迫していたのです。4人はシルベストゥレの自宅を訪問し、息子は共産党軍事部門新人民軍(NPA)のメンバーだ、投降させろ、さもないとシルベストゥレ自身に災いが起きると忠告しました。
 翌日15日、娘はシルベストゥレに電話しました。でも、呼び出し音が鳴るだけで、もうつながりません。その後、娘は義理のきょうだいから電話で彼らが撃たれたことを知らされました。
 娘はまた、葬儀の際にも怪しい男たちに気づいたといいます。

― デ・リマ上院議員、「人権侵害をあたりまえのこととして受け入れさせようと言うのか」

 レイラ・デ・リマ上院議員は述べました。
「まるで私たちが、この凶悪な人権侵害をあたりまえのこととして受け入れるよう、毎日、殺人が繰り返されているようだ」
 また、デ・リマ上院議員は、殺害された夫妻に正義を求めると同時に、「生活の糧を得るためにニンニクと玉ねぎを売っていた二人に、いったいどんな罪があるというのだ?」とフィリピン語で述べました。

― 農民団体や人権団体などから相次ぐ批判

 シルベストゥレとローズマリーが所属していたKMPは、選挙を控え全国的に銃規制が敷かれている中でもなお殺人が起き続けていること、政治的な意図をもった農民の殺害が347件に上ることを非難しました。またKMPは、ビコール地方において選挙運動が非常に加熱しており、二人の殺害は今後の選挙活動が血に染まることを暗示していると、懸念を表明しました。
 アナックパウィス党ソルソゴン支部は、ソルソゴン州知事フランシス・エスクデロに対し、即座に殺害を捜査するよう、また、被害者家族に正義をもたらすよう要請しました。さらに、アナックパウィス党メンバーの殺害を止めなければならないと主張し、多くの被害者がKMPのメンバーであると述べました。
 カラパタン代表のクリスティーナ・パラバイは、殺害前夜の(息子を投降させろ、さもなければ…、という)脅迫は、ドゥテルテ政権下の治安部隊にしかできないと主張しました。パラバイはさらに、ドゥテルテ政権下における、「投降したNPAメンバーに生活援助をする」バリック-ローブという社会復帰プログラムを非難しました。それは、コミュニティに恐怖をまき散らし、人びとの中にお互いへの猜疑心を芽生えさせ、投降したとされる人びとを国軍が利用できる「人材」へと転向させ、また、自らの攻撃を正当化する汚い手口だと述べています。

〈Source〉
Groups call for justice for slain elderly couple in Sorsogon, BULATLAT, January 21, 2022.
Gunmen Shoot dead Anakpawis Party list member couple selling onions, garlic in Barcelona, Sorsogon, Bicol Express News, January 15, 2022.
Justice for Rose Marie Galias and Silvestre Fortades Jr.! Stop the Killings in the Philippines!, ICHRP, January 17, 2022.

〈筆者紹介〉
ブッチ・ポンゴス
日本国際法律家協会インターン。在日フィリピン人とその家族の支援をする進歩的連合体であるMGRANTE-Japanのキャンペーン担当者。

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Painting:Maria Sol Taule, Human Rights Lawyer and Visual Artist

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