牛歩作戦か? 出馬資格審査への
マルコス候補の欠席を巡る憶測

【写真】人権委員会の前において行われたマルコス候補の出馬に反対するデモで掲げられたポスター/via Philippines rights groups denounce presidential bid by Marcos, October 6, 2021.

【東京=12日】選挙管理委員会(COMELEC)におけるフェルディナンド・マルコス・ジュニア(通称「ボンボン」・マルコス。以下、マルコス)大統領候補の資格審査は、最大の山場となる過去の脱税判決に関する審議を迎える。しかし、予備審査が行われるはずであった7日、マルコス候補は体調不良を理由に審査の場に現れなかった。

― 却下された2つの誓願書

 マルコスの大統領出馬に対して、これまでに彼の出馬資格を問う7つの誓願書が選挙管理委員会(COMELEC)に対して提出された。そのうち、マルコス候補を「選挙手続きを嘲笑し貶める」迷惑候補者(nuisance candidate)とする請願は、既に昨年12月16日に却下された。さらに、COMELECは1月4日の記者会見で、ニックネーム「ボンボン」とイニシャル「BBM」を既に登録している故人が存在することから、マルコス候補による同一名での登録は不当であるとする請願も既に却下されていると説明した。

― 脱税に関する資格審査

 COMELECは、マルコス候補の資格を問う3つ目と4つ目の誓願書を統合して9日に審査することを決定した。この2つの請願書は、それぞれ市民団体アクバヤンおよび他の市民団体指導者たちによって提出されたものとボニファシオ・イラガンおよび戒厳令生存者(被害者)たちによって提出されたものである。どちらの誓願書もマルコス候補失格の根拠として、1995年に地方裁判所から出された同候補の脱税有罪判決を引用している点で共通している。脱税分と追徴税の支払いに関して、マルコス陣営は納税証明書を、請願者はその未払い証明書を証拠として提出している。
 COMELECは、1月7日に予備会議を開催し、さらに9日までに申し立て人とマルコス候補の両者ともに、誓願書の論点に関する覚書または最終ポジションペーパーを提出するよう求めている。

― マルコス候補欠席に不満を見せるCOMELEC委員

 この脱税をめぐる論争に関して、これまでCOMELECは再三にわたりマルコス候補に反論根拠となる資料の提出を要請してきた。しかし、同陣営の反応は鈍い。当初の期限を過ぎてから資料は提出されたが、根拠を欠く内容で、請願者からの批判に真摯に向き合う姿勢すら見せていないとの批判があがった。さらに、7日、マルコス候補は体調不良を理由に予備会議を欠席した。
 同候補の欠席に対してCOMELECのロウェナ・グアンソン委員は、「彼は病気なのですね。では、彼の診断書はどこにありますか?」「なぜ、あなたはクライアント(マルコス候補)にズームを利用するよう勧めなかったのですか?隔離中でも彼はラップトップや電話を持っていますよね」と、マルコス陣営から審査に出席したハンナ・バルセル弁護士に、不満もあらわに尋ねた。
 フィルスター紙のサラ・ソリベン・デ・グスマン論説委員によれば、グアンソンCOMELEC委員は、あまりにも国家(の法的手続き)に対して誠意の感じられない、マルコス候補の欠席に関する同陣営の対応について、彼が噂通り「法律より上」の存在として自らを認識している証左ではないかと、10日にフィルスター紙で公表した自身の論説で述べている。

― 本当に体調不良なのか?

 審査を欠席した7日、マルコス陣営はCOMELECに診断書を提出し、またメディアを通じて公表した。この公表によると、候補の側近2人がCOVID-19陽性と診断され、彼自身も発熱と喉の痛みがあるために予備会議出席を断念し、自宅隔離中となっている。
 さらに9日、同陣営は、予備会議の前日までメディアを通して活発な活動をおこなっていたマルコス候補の欠席に関する憶測に反論するため、欠席の前日から当日にかけての体調に関する詳細な経緯について説明した。マルコス-サラ統合チーム本部は、先週に実施された大規模なRT-PCR検査後に30人以上のスタッフが陽性を示したため、さらに1週間の自主隔離を決定している。

― 意図的な遅延作戦なのか?

 もし、マルコス候補の欠席が世間の思惑のような手続きの遅延を目的とするものであるならば、その狙いはどこにあるのだろうか?同候補にとって最も厳しい闘いになると予想されているこの脱税をめぐる審議を担当するグアンソンCOMELEC委員は、マルコス候補の資格に対して否定的な立場であると目されている。そして、彼女の任期は既に来月に迫っている。もし、審議が更に遅延することになるならば、グアンソン委員の役割は次の委員に引き継がれることとなる。

〈Source〉
佳境を迎える「ボンボン」マルコスの立候補資格をめぐる攻防, Stop the Attacks Campaign, November 24, 2021.
「ボンボン」マルコス候補の被選挙権取消運動, Stop the Attacks Campaign, November 10, 2021.
Another petition to block Marcos candidacy junked, Rappler, January 7, 2022.
Bongbong Marcos in isolation after exposure to COVID-positive staff; sorry for skipping Comelec hearing, CNN Philippines, January 7, 2022.
Comelec consolidates 2 DQ cases vs Marcos, Rappler, January 7, 2022.
Comelec junks petition to declare Bongbong Marcos a nuisance bet, CNN Philippines, December 18, 2021.
Marcos’ absence in Comelec proceeding infuriates Guanzon, Rappler, January 7, 2022.
No one is above the law, Philstar, January 10, 2022.

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