【5日=東京】1日、フェルディナンド・マルコス・ジュニア(マルコス・ジュニア)大統領の農業長官兼任の決定を受け、フィリピン農民運動(KMP)は、農業部門が抱える問題を解決するために、マルコス・ジュニア新政権が100日間で実行可能な12の計画を、SNSなどにおいて公開した。農業長官を兼任することになったマルコス・ジュニア大統領は食糧安全保障の実現を最優先課題と位置づけ、自らが指揮を執る必要性があると主張するが、KMPなどからは「マルコス・ジュニア大統領が農民のために働くとなぜ信じられよう」といった声まで上がっている。
― KMP:農地の別用途への転換禁止、土地紛争解決、食糧生産向上のための支援を
7月1日KMPは、食糧不足を喫緊の課題として農業長官を兼任しているマルコス・ジュニア大統領に対し、就任100日間で実行可能な、農業関連の12計画を提案した。特に、主食用作物の生産に適する農地の別用途への転換を禁止すること、食糧自給を達成するために食糧生産の向上と強化を支援することを強く求めている。また、6月9日に91人の農場労働者や支援者らが逮捕されたサトウキビ大農場(アシェンダ)ティナンなどにおける土地紛争を解決すること、税関近代化および関税法である大統領令第134号(豚肉の輸入税率の修正など)、135号(コメの輸入税率一時的変更)などを廃止すること、コメの自由化を進める共和国法第11203号の施行を停止すること、石油製品への物品税を停止すること、食糧自給率向上法案や農地改革法などを設定すること、農民や漁民に現金支援を提供すること、などが提案された。
― マルコス・ジュニア:農業バリューチェーンの構築、コメ1キロ20ペソに減額
マルコス・ジュニア大統領は、農業分野における課題は優先事項であり、世界経済の変化に即応する必要があるといった認識を示し、農業長官として、農業のバリューチェーン(農林水産物の生産から消費までをつなぐことで生産物の付加価値を高める仕組み)を再構築し、また、食糧増産に努めると述べた。さらに、マルコス・ジュニア大統領は、「うまくいけば、物価上昇をある程度抑えることができるだろう」との見込みを示した。
また、SAC「おはよう!フィリピン」NEWS(6月10日)でも取り上げたように(https://sac-japan.org/unrealizable-election-pledge/)、マルコス・ジュニア大統領は、選挙期間中、食糧主権、食糧安全保障などを達成することが重要だと述べ、コメの価格を1キロ20ペソに減額すると発言した。これは、多くの人の注目を集めることとなった。
6月後半にマルコス・ジュニア大統領が農業長官を兼任することを発表すると、ウィリアム・ダル農業長官(当時)が、食糧主権を達成するための最初の100日間に着手すべき優先事項のリストを公表した。これは、次期政権への移行プロセスの一環である。リストには、たとえば、国家食糧管理局(NFA)のコメの備蓄を30日分に増やすこと、NFAの精米センターの修復、野菜の種子や資材の配布などが挙げられた。
― KMP:「どうしたらマルコス・ジュニア大統領が農民のために働くと信じられるというのか」
農業分野の課題に優先的に取り組むというマルコス・ジュニア大統領の姿勢に対し賛同の声がある一方、KMPのダニーロ・ラモス議長はフィリピン英字紙インクワイアラーの取材に対し、「どうしたらマルコス・ジュニア大統領が農民のために働くと信じられるというのか」と疑問を呈した。ラモス議長は、マルコス・ジュニア大統領は、上院・下院議員としての30年におよぶキャリアの中で、繰り返し、農民に関する法案を冷たくあしらってきたではないかと続けた。ニューヨーク・タイムズによれば、マルコス・ジュニア大統領が上院議員だった6年間に、彼が推進した52本の法律のうち70%近くが、祝日や祭りの指定、高速道路の名称変更、地方や市の配置変更に関するものであった。
さらに、ラモス議長は、コメ1キロの価格を20ペソまで減額するという計画は(https://sac-japan.org/unrealizable-election-pledge/)、マルコス・ジュニア大統領の父マルコス・シニア元大統領が実施したカディワ・ストアーズの焼き直しのように見えると述べ、同じ過ちを繰り返すのかとの懸念を示した。
〈補足:マルコス家肝入りのカディワ・ストアーズ〉
マルコス・ジュニア大統領は上院議員であった時期にも、カディワ・ストアーズを復活させることを主張していた。また、妹のアイミー・マルコス上院議員もコロナ禍で、「アイミー・カディワ」と称したプロジェクトを立ち上げ安価な商品を提供したりしている。
カディワ・ストアーズは、マルコス・シニア政権期の1980年から1985年に実行され、政府がコメを含む農産物を大量に調達し、手頃な価格で国民に提供するという制度だった。この制度の根拠法は、1981年の大統領令第1770号で、国家食糧庁の下に置かれたフード・ターミナル社によって運営された。大統領令1770号はまた、マルコス・シニア元大統領の妻イメルダ・マルコス元上院議員を国家食糧庁の評議会議長に指名した。
マルコス家肝入りのカディワ・ストアーズだが、多くの問題点が指摘されてきた。ファクトチェックを行うヴェラによると、1979年に実施されたローリングストア・プロジェクトとカディワ・ストアーズのために、最初の2年間で1800万ペソが費やされた。しかし、1983年には、対外債務の膨張、ペソの切り下げ、干ばつに直面し、経営が困難となった。消費者による買いしめや、倉庫などへの襲撃も常態化し、さらに、商店が遠くて行けない、商店に入るために長時間待たなければならない、従業員の態度が威圧的といった問題があり、消費者に敬遠されるということもあった。コミュニティ内に必ずある既存のサリサリストア(軒先に作れた商店)などを利用すべきだったとの意見もある。結果的に、1984年5月から11月の間に、コメの価格は25.9%上昇し、1キロ5.3ペソに高騰した。当時の1日の法定最低賃金は16ペソである。
ヴェラが引用したユルゲン・リューランドは、カディワ・ストアーズが貧困層の人びとの助けになったかどうかについて懐疑的な見方をした。2年間に1800万ペソが費やされ、24万7000世帯が利用したとされるが、それはつまり、1世帯につき1日0.1ペソが費やされたにすぎないとリューランドは指摘したという。また、1800万ペソは、商品の購入以外に、新しい建物や輸送設備、従業員の雇用などにも充てられた。
〈Source〉
AGAINST THE GRAIN | Mixed reactions aired over Marcos’ decision to be agriculture chief, NEWS 5, June 21, 2022.
Bongbong as Agri chief: ill-advised or a bold move, says think tank, Business World, June 23, 2022.
DA read-ies first 100 days action plan for BBM, The Manila Times, June 23, 2022.
Groups welcome Bongbong Marcos’ ‘food self-sufficiency’ mantra, INQUIRER.NET, July 1, 2022.
Imee Kadiwa now in Cebu, The Freeman, May 16, 2021.
Kadiwa outlets eyed to augment food supply in metropolis, INQUIRER. NET, Marcy 25, 2020.
Marcos urges revival of Kadiwa system, philstar, January 16, 2016.
Marcos eyes elaborate, all-encompassing food production program, PHILIPPINE NEWS AGENCY, March 16, 2022.
Marcos takes post of agriculture secretary ‘at least for now’, GMA News, June 20, 2022.
Marcos will be agriculture secretary ‘at least for now’, Rappler, June 20, 2022.
Marcos takes agri post, vows to reorganize DA, INQUIRER.NET, June 21, 2022.
Philippine economy suffered under Marcos, IBON Foundation, February 26, 2022.
The Philippines Toppled One Marcos. Now His Son May Become President., The New York Times, April 13, 2022.
The wait-and-see period for Bongbong Marcos’ ‘P20 rice’ promise, INQUIRER.NET, May 13, 2022.
Wild promises and P20 rice, INQUIRER.NET, May 3, 2022.
What a Ferdinand Marcos Jr Presidency Will Mean for Foreign Investors in Philippines, ASEAN Briefing, May 16, 2022.