フィリピン・ニュース深掘り
動き出す次期上院選挙候補者たち(1)
注目すべき現職上院議員

【写真】未だにフェイスブックのカバー写真でドゥテルテ前大統領(右)とのツーショットを飾るドゥテルテ王国の要、ボン・ゴー上院議員(左)/via. Facebook of Bong Go, October 27, 2021.

*フィリピン・ニュース深掘りでは、隔週でフィリピンでの重要な出来事を一つ取り上げ、解説・深掘りします。

 かなり早いようにも感じますが、すでに2025年の上院選挙を見据えた動きが活発化しています。多くのフィリピンメディアで、上院選挙が「1年後に迫っている」として、次回上院選挙を見据えた分析が増えてきています。ニュース深掘りでは、これから何回かに分けて、今後のフィリピンの出来事をより深く読み解く上でますます重要となってきている次回上院選挙の見どころについて解説します。

― 上院選挙の仕組み
 まずは、基本情報から押さえておきましょう。フィリピン上院は定数24人。任期は6年で、最大2期12年まで再任可能。そして、3年おきに半分の12議席が改選されます。上院選挙は全国区制で、得票数上位12人が当選します。
 現在の上院議員24人のうち、半数の12人は2019年6月30日、残り12人は2022年6月30日に任期が開始。投票日は5月の第2月曜日と決められているため、次回は2025年5月12日(月)です。

― 注目すべき現職上院議員
 2025年で任期が切れ、かつ、上院選へ再出馬する可能性が高く、今後のフィリピンの政局で注目すべき上院議員は、以下の3人です。
 クリストファー・「ボン」ゴー(49)、マリア・イメルダ・「アイミー」マルコス(68)、ロナルド・「バト」デラロサ(62)。本ウェブサイト(Stop the Attacks Campaign)の記事でもお馴染みの名前です。メディアでの露出度が高いからこその全国区での高い人気ではありますが、次選挙を睨んで、SNSや記者会見、声明発表を精力的にこなして国民人気の向上に必死に取り組んでいる結果でもあるのです。
 これら注目すべき3人について、順に簡単に説明していきましょう。

― ドゥテルテ王国の要、ボン・ゴー
 ボン・ゴーは、ドゥテルテ前大統領のダバオ市長時代から最有力な側近として、仕事が雑で失言・失敗の多いドゥテルテを全面的かつ献身的に支えてきました。ドゥテルテのみならず、政治家として活躍するドゥテルテの娘や息子をも支えており、まさに、ドゥテルテ一族の公私にわたり、そして表裏の両面を支えてきたのが彼です。彼なくしてドゥテルテ政権は立ち行かなかったと言っても過言ではないでしょう。特にドゥテルテ政権初期、ドゥテルテが大統領として政権内部を掌握できていなかった時期の写真では「ドゥテルテの横には、必ずゴーがいる」と言われるほどでした。
 ダバオ市長時代以来のドラッグ戦争や中国との関係構築でも、雑なドゥテルテを支えるために中心的な役割を果たさざるを得なかったはずです。ドゥテルテの命令で実施された数多くの政策や施策も、実質的にそれを支えたのは、ゴーでした。
 ドラッグ戦争に関する国際刑事裁判所(ICC)の調査報告書には、ゴーの名前が頻繁に登場しています。ドゥテルテのドラッグ戦争や地方共産党の武力紛争を終わらせるための全国タスクフォース(NTF-ELCAC)を擁護するゴーの発言は枚挙にいとまがありません。
 また、マルコス政権成立の際には、ドゥテルテ前大統領を駐中国特使に任命する提案を強く支持して、ドゥテルテ一族の力の源、中国権益維持に力添えしています。選挙では相互協力しつつも、将来的にはドゥテルテ一族から力を奪い、自身を中国権益の中心に置こうとしていたマルコス大統領が、その案を飲むことはありませんでした。さらに、昨年8月、フィリピン国民感情を逆撫でする南シナ海での中国船のフィリピン船への継続的、攻撃的な行動に対して、ゴーは珍しく厳しい口調で「相互敬意があるべき」と不満を口にしました。この発言は、長年中国との橋渡しをしてきた自身の憤り、それ以上にドゥテルテの中国に対する憤りを彼が代弁したのではないでしょうか。
 ドゥテルテ一族 vs. マルコス一族の対立が顕著になり、さらに、ドゥテルテ陣営の旗色が急速に悪化していく中において、未だ人気の高いゴーが果たすべき役割は、決定的に重要です。自らが作り上げてきたとも言えるドゥテルテ王国を守るため、上院議員選挙に出てくることは間違いありません。

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西フィリピン海の攻防はダビデとゴリアテ?(フィリピン・ニュース深掘り), Stop the Attacks Campaign, August 14, 2023.

― 伝統的マッチョ政治家デラロサ
 デラロサもダバオ市長時代からのドゥテルテの側近の1人です。警察官であったデラロサは、当時ダバオ市長のドゥテルテに目をかけられて昇進を続けました。ダバオ時代には、ドゥテルテと銃を持って話しているような写真ばかりが新聞に掲載されていた記憶があります。「敵」への暴力の行使に関して、共感するものがあったのではないでしょうか。
 ドゥテルテのドラッグ戦争では、国家警察の長官として、共産主義勢力やドラッグ関係者に対する抑圧的、非人道的な手段を警察に積極的に導入・奨励しました。ドゥテルテ政権時の人道に対する罪を断罪しようとするICCや人権団体にとって、デラロサはドゥテルテに次ぐ断罪対象であることは間違いありません。本人も記者会見でしばしばドゥテルテと一蓮托生であることを認めています。
 マルコス政権の下でも、共産主義勢力やドラッグ関係者に対して、引き続き抑圧的、超法規的な作戦を展開しなければならないと、上院議員として主張し続けてきました。ドゥテルテと同様、マッチョなイメージで人気を博する典型的な伝統的地方政治家と言えるでしょう。
 彼もドゥテルテ同様、最近はICCの介入による自身への断罪を恐れているイメージが強くなっているようですが、未だ強い人気を維持しています。ICCからの断罪から自身の身を守るため、上院議員選挙に出てくることは確実です。

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ICC調査再開で疑惑と憶測の飛び交う議会/裏から操られる?憲法改正署名運動/南シナ海の協議合意とは何だったのか?(フィリピン政経フォーカス), Stop the Attacks Campaign, January 26, 2024.
2週間で見えてきたマルコス政権の新たな路線, Stop the Attacks Campaign, July 15, 2022.

― ドゥテルテ陣営を支持するアイミー
 マルコス大統領の姉ではありますが、その言動や行動を見る限り、ドゥテルテ陣営に与していることは間違いありません。米国との対中軍事協力やICCのドラッグ戦争への調査を国家主権への介入として強硬に批判、共産党との対話にも憲法改正にも反対しています。政治におけるドゥテルテ一族の影響力が急激に失われていく中でも、アイミーはマルコス政権への強力な批判を展開し続けています。
 アイミーがドゥテルテ陣営を支持する理由としてしばしば言及されるのが、父マルコス・シニア元大統領の英雄墓地への埋葬です。マルコス一族、特に、イメルダ夫人とアイミーは、マルコス・シニアの遺体を歴代大統領の眠る英雄墓地に埋葬することに、強い執念を示していました。そして、マルコス戒厳令の被害者や人権団体の強力な反対にもかかわらず、それを可能としたのが当時のドゥテルテ大統領だと言われています。ドゥテルテは、マルコス大統領に対して、そのことを何度も語り恩に着せているようです。
 勝手に中国に行き、国軍の反乱やミンダナオ独立を仄めかし、マルコス大統領をドラッグ利用者呼ばわりしたドゥテルテに対して、マルコス大統領は愛想をつかしたようですが、アイミーは未だにドゥテルテを必死に支援しています。それが、ドゥテルテ一族への恩から来たものなのか、それとも独裁者であった父マルコス・シニアを正当化する一環として、ドゥテルテの非人道的な政策を擁護し、米国をはじめとした国際社会の介入を批判しているのかは分かりません。もしかすれば、次期大統領もしくは副大統領の座を狙って、未だ根強いドゥテルテ支持者たちの票を得ようとしているという可能性もあります。どのような理由でアイミーはドゥテルテ陣営に与するのでしょう。今後の行動に注目です。

〈関連記事〉
ミンダナオ分離独立とドゥテルテの終焉(フィリピン・ニュース深掘り), Stop the Attacks Campaign, February 16, 2024.
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― 世論調査
 2月5日、昨年12月のOCTA Research世論調査で実施された、次回上院選挙に出馬するだろう主だった人たちの支持率が公表されました。ゴーは4位、アイミーは5位、そして、デラロサが6位にランクインしています。6位と7位には、大きな開きがあり、今のところの当選安全圏と言えるでしょう。上位6人の中の現職上院議員は、この3人だけです。
 ちなみに1位は2位以下に圧倒的な差をつけて、エルウィン・トゥルフォ下院議員、そして、やはり3位を引き離している2位には、ドゥテルテ前大統領が入っています。上位6位中、ドゥテルテ陣営が4人いるということになります。ちなみに、3位は、前回2022年大統領選挙でパンフィロ・ラクソン陣営の副大統領候補として出馬してサラに敗れたビンセント・「ティト」ソットです。

― 選挙を見据えた新たな動き
 ドゥテルテ陣営の根強すぎる人気は、マルコス大統領にとって頭の痛い問題に違いありません。一度下がりかけたサラ副大統領の人気もぶり返してきています。マルコス大統領やロムアルデス下院議長が、上院議会の力を削ごうとしているのも納得です。
 また、2022年の大統領選挙で大統領候補、副大統領候補として出馬していた人気政治家たちが、これからこぞって上院選に名乗りを上げてきます。新たな若い世代も機を伺っているようです。ドゥテルテ陣営とは異なる、民主主義を標榜する第3の批判勢力を作ろうとする動きもあります。彼ら・彼女ら注目株については、次回、取り上げたいと思います。

〈Source〉
[The Slingshot] Will Bong Go be part of the ICC charge?, Rappler, December 7, 2024.
BONG GO TO CHINA: STOP BULLYING TACTICS, MUTUAL RESPECT MUST BE GIVEN, Senator Bong Go, August 11, 2023.
Imee Marcos supports VP Duterte’s stance against peace talks with NDFP, Inquirer, December 6, 2023.
2025 Senate Pre-Election Survey (December 2023), Facebook of OCTAResearch, February 5, 2024.

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