【東京=11日】食糧主権に関する民衆連盟(People’s Coalition on Food Sovereignty: PCFS)は、「土地なき農民の日(3月29日)」の声明において、政府による土地収奪と「環境に配慮しているように見せかけた計画」(グリーンウォッシュ)の推進に対して怒りをあらわにした。ドゥテルテ大統領は包括農地改革計画(CARP)の進展を約束したが、3か月後の任期満了を控え、いまだに10人に7人の農民は農地を持てずにいる。また、サツル・オカンポ元下院議員は、農地分配はもはや単なる反乱鎮圧作戦の策略と化していると批判した。「土地なき農民の日」は、2015年にアジア小農連盟(Asian Peasant Coalition: APS)によって制定された。
― 土地収奪、グリーンウォッシュ、独裁的手段の横行
食糧主権に関する民衆連盟は、気候変動や持続可能な食糧システムの構築を建前とした政府などによる土地収奪とグリーンウォッシュの再燃を批判した。また、戦争や紛争、気候危機、飢餓、食糧不安といった世界的危機の中で、格差や社会的不平等が拡大し、支配者階級は権力を維持するためにいっそう独裁的な手段に訴えるようになっていると問題提起した。声明には、国際的なネットワークや連盟など25団体、国内・地域を拠点とする85団体が賛同した。フィリピンからは、フィリピン農場労働者連盟(UMA)やフィリピン農民運動(KMP)、CARPを推進する全国青年ネットワーク・ナラ(NNARA-Youth)など28団体が賛同。
― ドゥテルテ大統領、土地を報酬としてNPAに投降を呼びかけ
ドゥテルテ大統領は、2018年12月の行政命令第70号において、紛争の「根本原因」を解決するために地方共産党の武力紛争を終わらせるための全国タスクフォース(NTF-ELCAC)を設置した。同法には、「根本原因」の具体的内容に関する記述はない。だが、同年12月に開催された北コタバト州での土地所有裁定証書(CLOA)授与式において、ドゥテルテ大統領は、「以前にも言ったように、CARPが実行されなければ、そして、人びとが土地を搾取され続ければ、この(共産主義者との)紛争を終結できない」と発言した。CLOAは、CARPの対象者であると認められた者が授与される証書である。これを受け取った者は、30年かけて地代を完済し、その土地の所有者となる。
フィリピンのジャーナリスト クルト・デラ・ペーニャによると、ドゥテルテ大統領は農民に対して、共産党軍事部門新人民軍(NPA)に頼らずとも土地入手は可能、投降したNPAにはCARPをとおして「遊休」国有地を分配する準備があると発言した。ドゥテルテ大統領は「土地に関して最も多くを成し遂げた大統領である」と自画自賛したが、ペーニャは、ドゥテルテ政権におけるCARPを介した農地分配面積は年間1万4147ヘクタールから2万2758ヘクタールと2005年以来過去最低を記録していると述べた。
― 10人のうち7人は農地を持てない農民
ドゥテルテ大統領就任時の公約でもあった農地分配は、実際、進展していない。まず、農民数に対してCARP対象地が少なすぎるという問題がある。ペーニャによると、フィリピン統計局は2016年の時点でCARPの対象地542万ヘクタールのうち約474万ヘクタール(87%)が280万7000人に分配されたと報告し、農地改革省は2020年の時点で490万ヘクタール、90%が分配されたと述べた。他方、フィリピン統計局によれば、2022年の時点で労働者4302万人のうち934万人は農民である。仮に、280万7000人が農地を分配されていたとしても、農民総数の30%弱にすぎない。また、CARP対象地542万ヘクタールすべてが934万人に分配されたとしても、一世帯あたりの農地面積は0.5ヘクタールにすぎない。これでは、自家消費用のコメの確保すら叶わない。
また、政府報告によるCARP実績は実態を表していないという問題がある。農地改革省も認めるように、公正な農地分配に不可欠な、分配予定地と分配対象者(大農場労働者や小作人)の正確な記録自体が存在しないのである。また、Stop the Attacks Campaignのコラム(https://sac-japan.org/sagay-9-02/)にもあるように、多くの地主が農地を「贈与」したことにしたり、農地を贈与対象から除外する目的で土地の用途を転換したりするので、分配地の把握と認証が困難なのである。さらに、対象者となる大農場で雇用されている農場労働者の正確な名簿もない。
実態の把握は困難だが、全国砂糖労働者連盟(NFSW)によれば、ネグロス島では、16万ヘクタール以上の土地が約14万人に分配された。だが、そのうちの70%以上の農民は借金の抵当に取られるなどの理由で、事実上、土地の使用権を奪われている。
― 土地収奪と市民への暴力には密接な関係がある
ペーニャによると、アミハン全国農民夫人連盟(アミハン)は、土地の収奪と市民への暴力には密接な関係があると述べた。アミハンは、ラグナ州のユロ・サトウキビ大農場内で土地紛争の結果農場労者の家2軒が武装グループに放火された事例などを挙げ、治安当局の標的の多くは農民で、係争中の土地から追い出すためにでっち上げの容疑で投獄されたりしていると訴えた。
オカンポ元下院議員は、ドゥテルテ大統領就任当初の公約であるCARP推進は、もはや対反乱戦略と化したと述べた。3月以来、ドゥテルテ大統領は数回にわたり土地供与を報酬としてNPAに対して投降を呼び掛けており、オカンポ元下院議員はその行動を批判したのである。
制度上、CARPを介して農地を分配されるのは、対象地で働く農場労働者や小作人である。
〈Source〉
Day of the Landless: The failed promises of land reform in PH, INQUIRER. NET, March 31, 2022.
Duterte reiterates plea for NPAs to surrender, PHILIPPINE NEWS AGENCY, March 17, 2022.
Duterte’s last gamble: ‘Give up, get land, house’, philstar, March 26, 2022.
Farmers’ group assails burning of 2 houses in Laguna estate, INQUIRER. NET, January 25, 2021.
Peasants, Rise Up against Land Grabs and Fascism! | Day of the Landless 2022 unity statement, People’s Coalition on Food Sovereignty, March 29, 2022.
【解説記事】サガイ・ナイン事件から3年 何十年も変わらない農民を取り巻く不条理(2), Stop the Attacks Campaign, 2021年10月29日.