【コラム】マビナイ6の裁判にまた遅延、
勾留3年11ヶ月、いまだ判決出ず

【Photo】Street art painted by Anakbayan, a nationwide democratic youth organization in the Philippines, calling for the liberation of Mabinay 6 /via Facebook page of Anakbayan (posted on August 3, 2018)

グレース・カンタル・アルバシン

 SACのホームページに掲載されたコラム「勾留中のマイルス シリマン大学ロースクールに合格!電子通信不許可が入学を阻む」で取り上げられたマイルス・アルバシンは、私の娘です。このコラムで伝えられたように、マイルスと5人の青年は、2018年3月3日に、ネグロス島のマビナイ市で逮捕されました。彼らは、農民らの現状を知るために、山間の村を訪れていました。逮捕された場所と人数から、彼らはマビナイ6と呼ばれています。
 マビナイ6の青年の中で、娘のマイルス・アルバシン(逮捕当時21歳)だけが、フィリピン大学セブ校を卒業しました。他の5人は、経済的理由から大学へ進学することはできませんでした。ランデル・へルミノ(18)とバーナード・ギリエン(21)、ジョイ・ヴァイロセス(19)は小学校まで、ジョマー・インディコ(29)とカルロ・イバニェス(18)は高校まで卒業することができました。
 私はここで、マビナイ6の裁判が遅延していることや、青年らやその家族の現状についてお伝えします。

― オミクロン株感染拡大がさらなる追い打ち

 理由はのちほどお伝えしますが、マビナイ6の審理は、逮捕されてから3年11ヶ月経った昨年(2021年)11月に漸く始まりました。前回の公判は昨年12月10日で、次回は、今年(2022年)1月21日に予定されていました。公判は毎週金曜日に開かれることになり、今年の第2四半期には判決が出ると想定されていました。私たちは、遅れが出ないよう、いつも祈っていました。
 そんな時、スーパー台風オデット(国際名称ライ)が、12月16日から17日にかけてネグロス島を含むビサヤ地方やミンダナオを襲い、多くの家屋や田畑をなぎ倒し、インフラに甚大な損害を与えました。一時は公判の遅延を覚悟しましたが、公判再開には問題ないことがわかり、私たちは胸をなでおろしました。
 ところが、その安堵もつかの間、フィリピン全土でオミクロン株感染者が急増し、裁判所はマビナイ6の審理延期を決定しました。公判が開かれるドゥマゲテ市の地方裁判所が位置する東ネグロス州は、今年1月14日から2月15日まで新型コロナ感染症の警戒レベル3に指定され、防疫対策をいっそう引き締めました。
 マビナイ6の公判が始まるまでに、すでに、3年11ヶ月が経っているにも関わらず、裁決が下る日はさらに遅れることになるのかもしれません。

― 担当裁判所の変更に伴う公判の遅延

 新型コロナ感染症による遅延もさることながら、そもそも、マビナイ6の公判は、担当する裁判所がバイス地方裁判所からドゥマゲテ地方裁判所に移ったために、3年11ヶ月もの間停止されていました。審理会場の変更には最高裁の承認が必要ですが、刑務管理局が2019年8月、9月に審理会場の変更を最高裁に申し立てたのです。そして、約1年9ヶ月後の2021年5月、最高裁が漸くその変更を承認しました。
 刑務管理局は、移転の理由を「マビナイ6の青年たちは政府から銃器と爆発物の不法所持という疑いをかけられた『ハイリスク勾留者』なので、長距離移送には危険が伴う」としました。
 私たち家族は、公判の遅延が予想されるものの、その移転に異議はありませんでした。なぜなら、マビナイ6やセブから来る彼らの弁護士たちの安全を守ることが最優先だったからです。弁護士らは隣の島にあるセブ島のセブ市を拠点としています。弁護士らは、まず、セブ市からネグロス島のドゥマゲテ市まで船で、その後、バイスまで車両で1時間ほど移動する必要がありました。私たちは、車両での移動時間を短縮できれば、移動中に襲われるというリスクを削減できると考えたのです。
 弁護士の安全確保がなにより重要だったのは、2018年11月に、マビナイ6を担当していたベンヤミン・ラモス弁護士が彼の自宅がある西ネグロス州カバンカラン市で銃殺されたからです。彼は人権派弁護士で、土地紛争の案件を担当していましたが、「赤」だとのレッテルを貼られていました。多くの「赤タグ付け」された人権活動家が殺害されています

― マビナイ6の劣悪な勾留生活

 フィリピンでは、従来、判決までに長期間を要するうえに、拘置所での生活は劣悪なものです。
 たとえば、拘置所の食費予算は、一日一人あたり60ペソ、日本円で約130円です。想像してみてください。家族からの差し入れがない勾留者らは、誰かが差し入れを分けてくれない限り、栄養のあるものを食べることはできません。洗面道具などの生活必需品も家族が差し入れますが、マイルス以外の5人の青年らの家庭は経済的理由からそれが叶いません。5人の青年は、支援団体や教会などからの差し入れに頼らざるを得ない状況にあります。
 私たち家族はマイルスとなんとか面会していましたので、その際には、5人の青年らとも必ず会話を持ち、必要なものを届けていました。私はジャーナリストで、夫は小さな畑を持っていますが、私たちにとっても必要なものを揃えるのは大変です。フィリピンのジャーナリストは、最も危険で所得も少ない職業の一つなのです。私たちは、親戚や友人たちからの支援も受けていますが、彼らにも養わなければならない家族があるので、頻繁にお願いするわけにはいきません。
 他方、5人の家族は、防疫措置が始まる前から、面会できずにいました。交通費を捻出できなかったからです。2019年、ジョマル・インディコは、彼の母に言ったそうです。「もう、面会に来なくていいよ、交通費がかかるから」と。ジョマルの母は、畑でとれたバナナやトウモロコシなどの作物を拘置所に差し入れていました。
 防疫措置のために面会が停止されてから、勾留者らは、フェイスブックのメッセンジャーや携帯電話で家族と連絡をとることが許されています。ですが、マイルス以外の5人の家族には、それらを利用する経済的余裕もありません。

― マビナイ6の青年らにさらに降りかかる困難

 2020年9月、バーナード・ギリエンの父ベルナルド・ギリエンが殺害されました。父ベルナルドは、西ネグロス州ヒママイランの彼らが住む農村地域で、国軍と想定される人物によって頭を切り落とされました[1]。彼は、共産党軍事部門新人民軍(NPA)の支援者であると疑われていたといいます。バーナードは、勾留されて以来一度も父親に会えないまま、このような悲惨な現実を突きつけられました。父ベルナルドは、約1200ペソ(約2600円)の交通費を捻出できなかったために、一度も拘置所を訪問できなかったのです。
 マイルスにも、さらなる困難がまっていました。合格していたロースクールへの入学が、事実上、阻止されたのです。刑務管理局が、マイルスのリモート授業に必要なコンピューターやインターネットの使用を許可しなかったからです。でも、私たちは、授業へ参加させるよう要求し続けます。これはマイルスだけの問題ではなく、すべての勾留者や受刑者のためでもあるのだから。私たちは、収監されたすべての人にとって、教育は権利であると信じています。

― 不当逮捕は政府による権力の誇示

 私たちは、逮捕は政府による力の誇示であり、この国の若者に対する共感の欠如の表れだと考えています。
 現政権は、もはや、討議をとおして礼儀正しく話すなどという気はないのです。政府は、憎悪や殺人の道を選びました。人権や土地に関する活動家への赤タグ付け、大方が貧困層であるドラッグ関連容疑者や人権活動家、環境保護活動家の超法規的殺害といった、異論者を黙らせるために使われる国軍の手段からわかるように、それは明らかです。
 幸運にも、マビナイ6の事案は、全国人民弁護士連合の弁護士らが無償で担当してくれています。弁護士らは、マイルスの大学時代の教員や、学生時代の運動仲間です。私たちは、心強く感じています。

― 運動を通じて人びとに奉仕する

 マビナイ6の青年らは、今回の逮捕を活動家としての試練だと考えています。政府が抵抗者や活動家を黙らせようとし、他方で、活動家が現状に対する果敢な抵抗と不正義や不公正の追及を止めようとしない時、活動家らは自らに対する政府の弾圧行為を予測しています。
 マビナイ6の青年らは、自分たちの信じること、つまり運動を通じて人びとに奉仕するという決意を固めています。45カ月、あるいは、3年11カ月を拘置所で過ごすのは大変なことです。しかし、彼らはいまも心を強くもって自由になる日を待っています。


[1] https://www.rappler.com/nation/farmer-allegedly-beheaded-in-negros-occidental/

「私の家には 奴隷 家政婦がいた」

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Painting:Maria Sol Taule, Human Rights Lawyer and Visual Artist

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