フィリピン治安当局による人権侵害の改善を求める米国防権限法修正案可決

【写真】米国防権限法修正案を提案するスーザン・ワイルド下院議員/via Twitter of Rep. Susan Wild (posted on July 15, 2022)

【19日=東京】7月14日に米国下院で可決された2023会計年度国防権限法案において、米国務省からフィリピン国家警察(PNP)に対する援助の条件として、人権に関する条項が組み込まれた。上院でも承認されれば、米国務長官が「フィリピンの人権状況は基本的人権基準を満たしている」と米国議会に承認しない限り、国務省からPNPへ援助として充当、または、その他の方法で利用される資金は許可されないことになる。

― 米国国務省はフィリピン政府が人権に関する4条件を満たすまでPNPへの援助を中止

 フィリピンにおける人権状況をPNPへの資金援助の条件とするよう訴えたのは、ペンシルベニア州のスーザン・ワイルド下院議員である。ワイルド下院議員は、7月14日付けのプレスリリースにおいて、2023会計年度国防権限法は、米国の国家安全保障を強化し、グローバルパートナーとの連携を向上させ、民主的価値観を忠実に守り、そして、米軍人への支援を大幅に増大させるものであると評価し、フィリピンの人権状況に関するものを含め、同議員が提案した5つの修正案が同法に反映されたと述べた。

 ワイルド下院議員による修正案5つのうち以下の2つが、フィリピンの人権に関する要請である。
 ・国務長官に対し、米国市民に対するものも含め、PNPやAFPが犯した人権侵害に焦点をあて、現在のフィリピンにおける人権状況を評価し報告するよう要請。
 ・国務長官が「フィリピン政府は人権に関する4つの条件を満たしている」と下院外務委員会および上院外交委員会へ保障するまで、国務省の資金をPNPへ充当しないよう要請。

 4つの条件とは、以下の通りである。
1.人権を侵害したPNPメンバーを調査、起訴し、PNPのフィリピン司法当局への協力を確実にすること。
2.労働組合員やジャーナリスト、人権擁護活動家、政府批判者、宗教指導者、市民社会活動家などの権利をPNPが効果的に保護すること。
3.人権を侵害した警官および国軍兵士などを調査し、起訴し、裁判にかけることができる司法制度を保障する措置を講じること。
4.国内および米国の安全保障支援の不適切な使用に関する監査・調査に従うこと。

― 米国民の税金は、政敵を標的にする比国家治安部隊への援助に使用されるべきでない

 フィリピン英字紙インクワイアラーによれば、ワイルド下院議員は議会において、米国籍の活動家ブランドン・リーが「国家の敵」との烙印を押され、フィリピンイフガオ州の自宅で撃たれ、胸から下が麻痺するという重傷を負った事件について言及し、「ブランドンは、米国政府が攻撃者の側ではなく彼の側に立っていることを知るに値する」と述べた。

 同議員は、米国民によって支払われた税金は、国内の政敵を標的にするフィリピン国家治安部隊への武器供与、それらへの訓練、その他の援助を提供するために使用されるべきではないと訴えた。

― 米国やフィリピンの市民団体、人権団体などによる長年の働きかけが結実

 ワイルド下院議員は、2020年9月にも、その他19人の議員と共に、フィリピン人権法案を提出した。同法案は、フィリピン政府が同国国軍(AFP)とPNPにおいて一定の改革を実行するまで、同国への安全保障支援の提供を停止することを意図している。当時の米国通信労組のプレスリリースによれば、この法案は、同労組や、マラヤ運動、国際人権連合フィリピン(ICHRP)、カバタアン同盟、そしてフィリピン人の抑圧に加担することを拒否するフィリピン系米国人コミュニティなどによる、長年にわたる政治家への働きかけが結実したものであると、マラヤ運動のメンバーが述べた。マラヤ運動はフィリピンの自由と民主主義を達成するための米国を拠点とした支援活動で、カバタアン同盟は米国に拠点をおくフィリピン人学生らの同盟。

 2023年会計年度の米国防権限法修正案に、フィリピン人権法案が意図したフィリピン政府に対する人権状況改善の要請が盛り込まれた格好だ。ICHRPコーディネーターのドゥルー・ミラーは、米国とフィリピンの人びとの友情の深さは真の連帯によって実証され、また、ワイルド下院議員の発言は両国のより賢明な関係への大胆な一歩となったと述べた。米国に拠点をおくカバタアンのクリッシ・ファブロ外部副代表は、この動きは、フィリピンにおける人権を守るための大きな一歩となると歓迎した。

 フィリピン政府からのコメントは、今までのところない。

〈Source〉
Amendment to US law prohibits aid to PNP until human rights issues resolved, Inquirer, July 15, 2022.
CWA, Filipino-American, and Human Rights Groups Applaud Newly-Introduced Philippine Human Rights Act, Communications Workers of America, September 23, 2020.
Rep. Wild Votes to Pass Annual Defense Bill Supporting Servicemembers and America’s National Security, Congresswoman Susan Wild, July 14, 2022.
US Lower House amends bill prohibiting assistance to the Philippine police, Bulatlat, July 16, 2022.
US security aid law sets conditions to protect human rights in PH, Inquirer, July 16, 2022.
US House members agree to amendment stopping assistance to PNP, GMA News, July 15, 2022.
US lawmaker wants to block security aid to PNP over human rights concerns, Rappler, July 15, 2022.
US House agrees to block aid to PNP until PH meets basic human rights standards, philstar, July 15, 2022.
U.S. Congress Rep. Susan Wild holds press conference calling for the passage of the Philippine Human Rights Act, ICHRP, October 24, 2021.
米下院、過去最大の国防総省予算可決 バイデン氏の要求額上回る, ロイター, 2022年7月15日,

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