今週は、国会に提出された来年度(2023年)予算案、エドサ革命の引き金となったベニグノ「ニノイ」アキノ(以下、ニノイ・アキノ)の殺害日(8月21日)を記憶するニノイ・アキノ・デーが紙面を賑わせました。
◆今週のトピックス
―トピック1:2023年度予算案
債務拡大の止まらないフェルディナンド「ボンボン」マルコス・ジュニア(以下、ボンボン・マルコス)政権は、8月22日に来年度予算案を国会に提出した。22日の英字大衆紙インクワイアラーは、予算案を取り巻く財政状況として来年のフィリピン政府の債務が過去最高の1兆6千億ペソ(3兆8976億円:1ペソ2.44円)、債務総額も今年末までに空前の14兆6300億ペソ(35兆6385億円)に達することを報道した。
8月21日に予算行政管理省によって提出された国家予算は、総額で5兆2900億ペソ(12兆8864億円)。予算行政管理省アメナ・パンガダマン長官は、教育、インフラ、健康、農業、社会的セーフティネットを優先事項として、「積極的で弾力性のある」2023年度国家予算が国民に実感されるだろうと述べた。9月16日までに公聴会を終え、10月1日休会前の議会承認を目指す。それぞれの分野の増加率は、教育省8.2%、公共事業道路省120.4%、保健部門10.4%、農業関連部門39.2%である。社会福祉関係では、コロナおよび自然災害からの被害対策に手厚い予算が振り向けられた。
既に、さまざまな部署から予算増額要求とその根拠がメディアを通して訴えられ、省庁内部や省庁間での予算の綱引きが加熱化している。
―トピック2:ニノイ・アキノ命日に誓う
8月21日、ニノイ・アキノが殺害された日は、ニノイ・アキノ・デーとしてフィリピンの祝日となっている。この記念日では、今年も民主主義を守り、民主主義のために闘うことの重要性を再認識するための式典や催しが全国各地で開催された。
例年、ニノイ・アキノ・デーには大統領やいくつもの政府機関がニノイ・アキノの勇気ある行動を祝し、また民主主義の大切さに触れるコメントを述べてきたが、ボンボン・マルコスからは何のコメントも発せられなかった。また、昨年は祝辞を発していたフィリピン広報機関や上院も、今年はニノイ・アキノ・デーに関して沈黙している。バタンガス州とケソン州の海上警察のソーシャルメディアでは、マルコス政権への反対運動を盛り上げたニノイ・アキノ元上院議員を「英雄ではない」と宣言する投稿もあった。さらに、警察組織の投稿において、ニノイ・アキノ元上院議員をゲリラだと非難した。それらソーシャルメディアのハッシュタグでは、「反乱ではなく団結」「ニノイは英雄ではない」「ニノイはNPA(新人民軍)」が付けられている。このような警察組織によるアキノ元上院議員をNPAと同一視する発信に関して、国家警察はすぐに投稿を削除させ、その犯人を調査し、罰を与えることを約束した。
一方、人権団体からは数多くのステートメントがボンボン・マルコス政権への批判や皮肉と共に発せられている。また、大衆紙も著名な活動家や式典に参加する人たちによる民主主義の大切さやニノイ・アキノ元上院議員の勇気に関するコメントを数多く掲載した。
◆今週のトピックス解説―どうなる?NTF-ELCAC
― 予算減額は本当か?
フィリピン政府による人権抑圧を憂う人たちにとって、最も関心を集める予算項目の1つが、地域共産党の武装闘争を終わらせるための国家タスクフォース(NTF-ELCAC)です。22日に提出された予算案では、NTF-ELCAC予算として100億ペソ(244億円)が計上されましたが、これは2022年度予算160億ペソから大幅な減額となっています。記者会見で記者の質問に答えたパンガダマン予算行政管理省長官も、「減額」を強調しました。ボンボン・マルコス政権内では、NTF-ELCACの赤タグ付けや人権抑圧の作戦に対して賛否両勢力が存在しています。そして、NTF-ELCACの予算削減は、一見すると赤タグ付け否定派であるクラリスタ・カルロス国家安全保障顧問の意見が反映されたようにも見えます。しかし、この「減額」がボンボン・マルコス政権によるNTF-ELCAC役割縮小を示唆していると考えるのは、時期尚早です。
― 隠された赤タグ予算はどこに?隠された赤タグ予算はどこに?
NTF-ELCACの作戦の財源がそれ以外の予算項目に隠されている可能性があるためです。Alliance of Concerned Teachers(憂慮する教師連合)のフランス・カストロ議員は、この危険性を強調しています。パンガダマン長官は会見で、この100億ペソの予算がバランガイ開発資金のために用意されたものであると説明しましたが、昨年準備されていたNTF-ELCACのバランガイ開発資金は65.5億ペソです。つまり予算は昨年から大幅な増額になっているのです。赤タグ付けやさまざまな非人道的な作戦に利用されていた資金はNTF-ELCAC予算には用意されていません。本当に非人道的な作戦を実施しないのであれば、ボンボン・マルコスはその意図を国内外に積極的にアピールするはずです。カストロ議員は、この資金が他の予算に隠されていると推察し、これから丁寧な予算案の分析作業を行なっていく意図を明らかにしています。
― NTF-ELCACのそもそもの役割
NTF-ELCACそもそもの任務は、「紛争地域や脆弱なコミュニティにおける基本的サービスや社会開発パッケージの提供を優先・調和させ、社会の包摂性を促進し、国の平和課題の追求に社会のあらゆる部門の積極的参加を確保することにより、包摂的かつ持続可能な平和を達成するための国民全体によるアプローチを効率的かつ効果的に実施すること」です。そこに赤タグ付けや非人道的な抑圧戦略を付け加えたのは、NTF-ECLACの委員たちに他なりません。そして、NTF-ECLACの動向は、赤タグ否定派のクラリスタ国家安全保障顧問に監視されているため、そこに予算をつけることは使い勝手を著しく損ねてしまいます。
赤タグ付け予算を探す質疑が、これから加熱化する予算案を巡る議論の一つの大きな焦点となることは間違いありません。
〈Source〉
2023 national budget needs efficient balancing act: DBM chief, pna, July 14, 2022.
DBM submits proposed P5.268-T 2023 budget to Congress, pna, August 22, 2022.
Ninoy Aquino remembered on 39th death anniversary, ABS-CBN, August 23, 2022.
NTF-ELCAC budget for 2023 may be higher, not lower, says solon, Inquirer, August23, 2022.
NTF-ELCAC proposed 2023 budget reduced to P10B, GMA News, August 22, 2022.
PH debt seen to hit new high of P14.63T by end-2023, Inquirer, August 22, 2022.
PNP takes down social media posts that red-tagged Ninoy Aquino, Inquirer, August 21, 2022.
Rights activists vow to protect Ninoy’s place in history, Inquirer, August 22, 2022.
Rodriguez admits asking SRA to draft import order, Inquirer, August 24, 2022.