【コラム】スミフルバナナ・プランテーションの
労働者、さらなる窮地に:統一労組NAMASUFA
ポール・ジョン・ディソン委員長(PJ)に聞く

【写真】「契約労働者を正規雇用に!」横断幕を挙げてデモ行進するNAMASUFAの組合員ら=2019年2月14日、フィリピン・マニラ市、勅使川原香世子撮影

勅使川原香世子(明治学院大学国際平和研究所)

 先週2月5日のコラムでお伝えしたように、スミフルバナナ・プランテーションの統一労組NAMASUFA(ナマスファ)の活発なメンバーだったマリーさん(仮名、58歳)が、自ら命を絶つというあまりに痛ましい事件が起こりました。ナマスファのポール・ジョン・ディソン委員長(PJ)は、彼女のことをいつも気にかけていました。マリーさんを含む300人以上が実行した9か月に及ぶマニラでの抗議行動を終え、2018年11月にコンポステラ・ヴァリー州に戻って以来、彼女がふさぎ込むようになっていたからです。マリーさんが亡くなったのは、PJさんと仲間がナマスファの組合員らに食糧を支援しようと相談していた矢先のことでした。
 スミフルに労働環境の是正を訴えた500人以上の組合員は、いまもなお、復職も、あらたな仕事に就くこともできず、窮地に追いやられています。今回は、マリーさんやPJさん自身、そして組合員の現状について、PJさんにお聞きします。

― みなさんがスミフル・フィリピン(スミフル)に不当に解雇されてからすでに3年4か月が経ちました。マリーさんや組合員のみなさんがどのように暮らされているのか教えてください。

 マリーさんは、マニラでのキャンペーンが終わってからふさぎ込むようになりました。彼女は、夫のネルソンさん(52)と中学生と21歳になる子どもと4人で暮らしていました。マリーさんは職を失ったので、ネルソンさんが所有する1/4ヘクタールほどの農地を耕し生活の糧を得ていました。トウモロコシを育てていましたが、自家消費にも満たない量の収穫しかありませんでした。ナマスファは、時々、組合員に食糧などを支援していました。その資金は、国内のNGOや日本の支援者からのものです。
 マリーさんだけでなく、ストライキに参加し、不当に解雇された組合員500人以上は、いまも安定した仕事に就けずにいます。日雇いの仕事に就いたり、コンポステラ・ヴァリー州から引っ越した組合員もいます。家族や親せきの経済状態も厳しいので、援助は期待できません。
 仕事に就けない理由として、まず、労働組合の組合員は雇用者から敬遠されるということが挙げられます。ましてや、スミフルと裁判で闘っている最中ですので、なおさらのことです。
 二つめに、バナナ産業以外の分野で、より「まし」な仕事を見つけることが困難だということがあります。コンポステラ・ヴァリー州では、多くの世帯がバナナや鉱物資源の採掘に関わる仕事をしています。それらの産業に従事している世帯の割合を明確な数値でお答えすることはできませんが、ナマスファ組合員のおおかたの両親もきょうだいも、バナナ・プランテーションや梱包工場の労働者です。家族の中で数少ない大学卒業者は、他の仕事に就く場合もあります。でも、最低賃金が守られた仕事はほとんどありません。私たちが訴えてきたように、バナナ・プランテーションや梱包工場でも、労働者の権利が正当に守られているわけではありません。それでも、他の職種に比べると、まだ、「まし」なのです。これは、これまでの労働組合の闘いの成果です。
 三つめに、バナナ産業における求人が減っているということが挙げられます。バナナの病気であるパナマ病の蔓延に伴いバナナの生産量が減少し、これまで週に5~6日あった仕事が3~4日に減っているのです。

― PJさんもコンポステラ・ヴァリー州に戻れなくなったそうですね。その理由について教えてください。

 2018年10月、スミフルに対するキャンペーンのために、私は300人以上のナマスファの仲間とともにマニラへ向かいました。この時私は、キャンペーンが終わったら、コンポステラ・ヴァリー州へ戻る予定でした。ところが、翌年7月までのマニラ滞在中に、地元コンポステラ・ヴァリー州で次々に深刻な問題が発生し、戻れないという結論に達したのです。
 主に、三つの問題がありました。
 まず、2018年12月15日に起きた放火事件です。両親やきょうだいと暮らしていた自宅兼組合事務所が放火され、私たち家族はすべてを失いました。両親やきょうだいは、身の安全を確保するために、コンポステラ・ヴァリー州から避難する決断をしました。父は、2002年にナマスファが結成された時の中心的なメンバーでした。その後、ナマスファは2006年に労働組合として労働雇用省に登録され、賃上げ交渉などで成果を出してきました。これまで、父に対して殺害予告などはありませんでしたが、父は、2008年に無断欠勤をしたことで解雇されました。あの時父は、病気になった家族の世話をしていて連絡できなかったのです。退職後も、父は、組合活動に協力してきましたが、この放火事件は、両親やきょうだいに、深刻な精神的ダメージを与えました。故郷を離れるのは本当に辛いことですが、他に選択肢がありませんでした。
 二つめは、私が、国軍によって「テロリスト」という烙印を押されたことです。たとえば、2021年6月30日にも、「Kalumuran Mindanao」という名前のフェイスブック・ページにおいて、私は「テロリスト・スポークスパーソン」として名前と顔写真を掲載されました。これが初めてではありません。私たちは、こういった行為は、政府関係者によってなされていると考えています。
 三つめは、私が身を寄せる場所がなくなってしまったこと、そして、パートナーを得て自分の家庭をもったことです。先ほどもお話ししたように、家族で住んでいた家は放火され、家族も移住を余儀なくされました。私もパートナーと、新しい場所で生活を始める決意をしました。
 いま、私は、コンポステラ・ヴァリー州から離れたとある町で、ナマスファも加盟している全国的な労働者団体である5月1日運動(KMU)のオーガナイザーをしています。故郷を離れても、私に対する攻撃は続いています。2020年7月には、私や他の活動家、女性リーダー、人権擁護者を「テロリストの勧誘者」として非難するポスターが、私のいま住んでいる市内のさまざまな大通りに掲示されました。でも、私たちがいつも訴えているように、「労働運動はテロリズムではない」のです。

【写真】5月1日運動(KMU)南部ミンダナオ支部の事務局長に選抜され挨拶するポール・ジョン・ディソン氏=ミンダナオ島ダバオ市、本人提供

― 労働環境の改善を求めたにも関わらず、生活状況は悪化してしまいました。どのように考えますか。組合としては今後、どのような活動をしていく予定ですか。バナナの消費者である私たち日本人に伝えたいことはありますか。

 スミフルが国家労働関係委員会(NLRC)の復職命令を受け入れなかったため、私たちの生活状況は悪化しました。会社側と私たちとの利害関係が一致しなかったとしても、私たちは、スミフルで働き、会社を繁栄させ、雇用を増やし、私たちへの報酬も増加させたいといつも考えていました。しかし、会社は労働者の権利を尊重せず、私たちが利益を生み出す一人であるにもかかわらず、大切にしませんでした。
 フィリピンでは、政府は国内外の資本家に支配されています。スミフルは多国籍企業であり、私たち労働者が彼らと交渉するのは簡単ではありません。外国投資家に投資してもらうために、私たちを守るべき政府が、私たち労働者の権利を犠牲にすることもいとわないのですから。国民に雇用機会を提供するために、政府は外国人投資家が必要なのでしょう。一方、外国資本は、安価な労働力が得られ、福利厚生が不要で、労働組合活動が国家権力と国家によって弾圧されているから、ここに投資するのです。
 今、私たちは新しいリーダーのためのトレーニングやセミナー、ワークショップを実施する計画を立てています。コンポステラ・ヴァリー州では、今も、監視、脅迫、嫌がらせなどが、組合のリーダーらに対して続いています。だからこそ、組合を維持するために、私たちは同州にいる労働者のリーダーらをいっそう訓練したいと考えたのです。
 日本の友人たち。私たちは、スミフルに反対するキャンペーンを継続するよう訴えています。この会社は私たちの経済的・政治的権利を侵害しているので、私たちは日本のみなさんにこの会社の製品をボイコットするよう呼びかけています。私たちは、みなさんの助けなしにこの闘いに勝利することはできません。私たちがこの闘いを続けるために、そして私たちが当然手に入れるべき正義を勝ち取るために、力を貸してください。

〈参考記事〉
解雇の労組委員長 日本の消費者へメッセージ, Stop the Attacks Campaign, May 19, 2021.
木村 英, シリーズ「バナナと日本人」, Tansa, 2019年8月19日.

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Painting:Maria Sol Taule, Human Rights Lawyer and Visual Artist

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