Ann O’brien
国が一丸となって共産党と戦うWhole-of-Nation-Approach(全国民的アプローチ)の下で、「村開発プロジェクト」が進められている。対象とされた全国800以上の村に、総額162億4千万ペソ(約356億円、2021年8月4日の為替)が投入された[1]。
今回は、「村開発プロジェクト」の現場で何が起こっているのかお話ししたい。
― 公的資金の投入額が多い地方で、より多くの人権侵害が発生
「貧しい村に援助の手が差し伸べられた」という印象とは裏腹に、開発プロジェクト資金の受領額が上から5番目までの地方[2]で、394件の超法規的殺害(EJK)のうち197件[3]、50%(2016年7月~2021年3月)が、186件の強制失踪のうち6件[4]、33%が発生した。ここで事例にあげる西ネグロス州は、4番目に多く公的資金を受領した西ビサヤ地方に属する。
― EJK被害者394人のうち313人は農民
農民への弾圧に関する報道は少ないが、じつは、EJKの被害者394人のうち、313人[5]が農民だ。
全国砂糖労働者連盟(NFSW)などに届けられた被害届から、「村開発プロジェクト」がどのように推進されているのか、また、「国軍の作戦によってNPAが自首した」との報道の裏側で何が起こっているのか、二つの事例を紹介する。
― 「名簿を見せろ。国軍のサポートを受けろ」
ネグロス島のカバンカラン市で2019年1月、ある農民グループが、NGO PDGとの関係を断ち国軍の支援に切り替えるよう国軍から迫られた。このグループは、PDGの法的サポートを受け、包括農地改革計画に沿った農地分配の手続きを進めていた。だが国軍は、PDGは共産党軍事部門新人民軍(NPA)のフロント組織だ、ベルギーから資金を提供されていると非難した。
PDGは1987年に設立され、農村開発プロジェクトや包括農地改革計画などに関わる法的サポートを行っている。2018年11月6日に殺害されたベン・ラモス弁護士が代表を務めていた。
ラモス弁護士は、殺害された当時、2018年10月20日に東ネグロス州サガイ市のサトウキビ大農場で9人の農民が虐殺された事件(Sagay 9)などの真相究明にもあたっていた。殺害された9人の農民は、地主との間に8年にわたる土地紛争を抱えていた。
― 「NPA、あるいは、そのサポーターであると自首しろ」
前述のサガイ市で、未成年者を含む55人のNFSWメンバーが、村長に招集された。会場で待っていた国軍兵士は、NPA兵士、あるいは、NPAのサポーターであると自首するよう、また、隠し持っている武器を差し出すよう農民グループのメンバーに迫った。
数日後、55人はまたもや国軍兵士から指示されセミナーに参加することになった。エアコン付きの会場で、軽食も提供された。そして、セミナーが終わると突然、55人は国軍本部へ連れて行かれ、数人のグループごとにテーブルの上に並べられた武器と共に、「自首したNPA」として写真を撮られた。
現在彼らは、元の村で生活しているが、この事件以降、NFSWとの連絡を絶っている。
― 高まる国外からの関心と監視
こうした国軍などによるハラスメントによって、農民団体メンバーらが続けてきた農地の分配や労働環境改善などを訴える活動が、窮地に追いやられている。
だが、明るい兆しもある。農民団体や人権活動家などのこれまでの努力が結実し、国際社会がフィリピンにおける人権侵害に対し監視を強め、行動を起こしている。
「おはよう!フィリピンNEWS」でもお伝えしてきたように、国際刑事裁判所の元主任検察官が違法薬物捜査における殺人の徹底的捜査を求めたり、フィリピン政府からテロリスト扱いされる人権擁護団体カラパタンがウィリアム・D・サベル人権賞を受賞したり、米政府が違法薬物撲滅戦争を率いた元警察庁長官、現上院議員のロナルド・デラ・ロッサのビザを無効にする[6]など、フィリピンにおける人権侵害に対する関心や監視が高まっている。
現場で不公正に抗ってきた人びとが思うように活動できなくなっている中で、外部にいる私たちの役割はいっそう大きくなっている。
[1] DILG: P16.24B or 99% of Barangay Development Fund released to LGUs, Philippine Information Agency, July 7, 2021.
[2] SUPPORT TO BARANGAY DEVELOPMENT PROGRAM OF THE NTF-ELCAC, Official Cazette, December 28, 2020.
[3] KARAPATAN Monitor January-March 2021, July 26, 2021. Karapatan.
[4] KARAPATAN Monitor January-March 2021, July 26, 2021. Karapatan.
[5] KARAPATAN Monitor January-March 2021, July 26, 2021.
[6] Dela Rosa confirms his US visa has been canceled, CNN Phpilippines, January 22, 2020.