2018年12月27日、日本であの事件を知った時、私は背筋が凍る思いをした。フィリピン東ネグロス州で一斉に家宅捜索が実行され、ギフルガン市などで7人が殺されたのだ。
― 「人違いだ」、息子の声が耳から離れない
100人以上(うち約80人はギフルガン市在住)に武器不法所持の逮捕状が出されたと治安当局は主張し、数十人が逮捕された。 被害者は、夜明けに寝ているところを訪ねてきた国家警察に家から引きずり出されたり、家の中に一人残されたりして、撃ち殺された。当局は抵抗したから撃ったと主張した。
友人の親戚は、殺されたあとに米の袋に詰められ、さらにその上から蹴られたりした。被害者の母親は、「人違いだ」と国家警察らに何度も訴えている息子の声が耳から離れない、と私に話した。彼は、人違いで殺されたのだ。
それぞれの場所で殺された被害者の亡骸は、ギフルガン市の中心にある警察署に運ばれ、市民から見える警察敷地内の駐車場に何時間も置かれた。
人権団体が実施した現地調査でも、私の聞き取りでも、被害者は抵抗していないと証言した。
― 捨て去られた罪悪感
ドゥテルテ政権以前から、不公正に声を上げる者、権力者に抗う者は、報復を受けてきた。ネグロス島は大土地所有制が色濃く残る地域で、大方の農民が自分の土地を持っていない。農場労働者や小作人は、一日三食食べること、子どもに義務教育を受けさせることも困難な暮らし向きだ。社会的・経済的格差が大きく、権力者の不正がまかり通る。
だから、農民組織などによる運動が根強く残っている。そして、運動に関われば国軍や国家警察の標的になる。これは、ここの常識だ。 だが、この事件で、タガが外れた。市民を弾圧する者たちの中にかろうじて残されていた罪悪感すら、捨て去られたのだと私に思わせた。
無記名だったり、事実関係が間違っていたりする「逮捕状」を携え、それぞれの家に押し入り、国家警察は堂々と無抵抗の市民を殺していった。泣き叫ぶ子どもの制止を振り払って。
あれから2年。政府を批判したり、社会の変革を求める農民組織や労働組合、人権団体などは、共産党軍事部門新人民軍(NPA)のフロント組織とみなされ、メンバーたちへの暴力は悪化している。
― フィリピン「武器不法所持取締作戦」(動画)
アニメ「『武器不法所持取締作戦』の実態」は、フィリピン農業労働者連合UMA (The Unyon ng mga Manggagawa sa Agrikultura) によって2019年に制作された。日本語字幕は、SACがUMAの承諾を得て加筆した。
(もこ)