「反テロ法」成立1年 頭上に「ダモクレスの剣」がある

【写真】王の頭上から吊るされたダモクレスの剣。フェリックス・オーブレー作『ダモクレスの剣』/via Wikimedia, public domain

【5日=東京】フィリピンのジャーナリストの全国組織、ジャーナリスト連合(NUJP)が、反テロ法が成立してちょうど1年経った3日、反テロ法に反対し、プレスの自由の擁護を訴える声明を出した。反テロ法は、治安当局が裁判所から令状なしに容疑者を逮捕、拘留できる期間を14日間とし、さらに10日間延長できるというもの。テロの定義も曖昧で、政府の恣意的な運用が人権侵害につながるとの懸念が上がっている。ジャーナリスト連合は声明で、反テロ法を「言論の自由、表現の自由、プレスの自由といった憲法で保障された権利を踏みにじるものだ」と強く批判し、廃止を求めた。

─「ジャーナリストを訴えると脅している」

 ジャーナリスト連合は声明で、政府の「共産党の武装闘争を終わらせるための国家タスクフォース(国家タスクフォース)」の広報担当を務めるアントニオ・パルラーデ中将が「嘘を広めてテロリストを幇助(ほうじょ)した」との理由でジャーナリストを訴える、と脅した点を挙げ、「政府高官は法案成立から1年経った今でも、ドゥテルテ政権が『国家の敵』とみなした人たちからの問題提起を報道しただけで『テロリストを幇助した』としてジャーナリストを訴えると脅している」とした。

 政府側から、ジャーナリストがテロリスト呼ばわりされたり、テロリスト・グループのシンパであるかのようにレッテルを貼られる事態が横行しているという。マニラ・トゥデイの編集者アン・サレム氏が逮捕・拘留されたことや、同じマニラ・トゥデイのフレンチー・メイ・クンピオ氏は現在も刑務所に収監され続けている事例を挙げた。

─「誰もが容疑者にされてしまう」

 ジャーナリスト連合は「テロリズムの定義が曖昧なため、誰もが容疑者にされてしまう」と反テロ法の問題点を指摘し、「有罪が証明されていない者への苛烈な罰則は、頭の上にぶら下がっている『ダモクレスの剣』のようだ」と批判した。ブリタニカ国際大百科事典によると、ダモクレスの剣とは、常に身に迫る一触即発の危険な状態を表現する比喩。

 声明はこう呼びかけて終わっている。

「私たちは真実を語り続けるしかない。ジャーナリズムや、意見や異議の表明を犯罪にしようとするこの反テロ法を拒む人々と手を携えていきたい」

 ドゥテルテ政権が発足以降、2020年12月末現在で、19人のジャーナリストが殺害されている。

〈Source〉
[Statement] Journalists Stand with Filipinos in Rejecting Anti-Terror Act, National Union of Journalists of the Philippines, July 3, 2021.
ホセ・ハイメ・エスピナ, 2021, 「19人のジャーナリストが殺害 増加する『自己規制』」『世界』岩波書店, 944:266. 

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