不屈のジャーナリスト、ノノイ氏が死去 ジャーナリスト連合を創設

【写真】亡くなったホセ・ハイメ・エスピナ氏/Photograph by Basilio H. Sepe

【8日=東京】フィリピン・ジャーナリスト連合(NUJP)前代表で、ジャーナリストのホセ・ハイメ・エスピナ氏が7日、肝臓がんのため死去した。59歳だった。愛称は「ノノイ」。ジャーナリスト連合は、フィリピンのジャーナリストの全国組織で、1986年に設立された。エスピナ氏は創設者の一人だった。2020年12月までジャーナリスト連合の代表を務めた。ドゥテルテ政権によって「レッド・タッキング」(共産主義者のレッテル貼り)の対象者にされ、政府側から様々な攻撃や嫌がらせを受けていた、と現地の報道は伝えている。

─「自由であることを主張するから自由なのだ」

 報道によると、エスピナ氏は新型コロナウイルスに感染していたが、快復していたという。亡くなる直前まで、プレスの自由や表現の自由についての提言や声明、ジャーナリストの擁護や救援の活動に奔走した。

 エスピナ氏らがジャーナリスト連合を発足させたのは「ピープルパワー革命」の前年。マルコス政権下でのジャーナリストの弾圧の時期を経て、民主化の過程で設立された。同時期には、独立メディア・ラップラーCEOのマリア・レッサ氏らが、フィリピン・インベスティゲイティブ・ジャーナリズムセンター (PCIJ) を設立した。エスピナ氏はフィリピンのジャーナリズムの転換期の目撃者でもあった。

 エスピナ氏は、レッサ氏が2020年に不当逮捕された際には「言論の自由やプレスの自由を圧殺するのものだ」との声明をジャーナリスト連合として発した。また、ドゥテルテ政権が国内最大のメディアグループABS-CBNの放送免許剥奪の動きを受け、2020年2月21日にABS-CBNの本社前で集会を開き、支持者や従業員と一緒に抗議したという。

 ジャーナリスト連合は「彼の長年にわたる組合とジャーナリズムという職能への貢献に感謝し、その威信を守ることで彼を称えることを約束する」との声明を出した。声明の中で、ジャーナリスト連合はノノイ氏が生前によく口にしていたこんな言葉を紹介した。

「プレスは、自由であることを許されているから自由なのではない。自由であることを主張するから自由なのだ (The press is not free because it is allowed to be, It is free because it insists on being free)」

 エスピナ氏はマニラ生まれ。フィリピン大学で人文学を専攻。高校時代からジャーナリストとして活躍した。のちにパナイ島イロイロ市にあるフィリピン大学ビサヤ校の学生向け雑誌の編集者となった。マルコス政権が忌み嫌い「蚊のようなプレス(mosquito press)」と呼んだコミュニティ・メディアグループCOBRA-ANSにも参加した。この「蚊のようなプレス」は、インクワイアラー紙とフィリピンスター紙の創刊につながった。エスピナ氏はフィリピン大学の編集者職能組合から最高の栄誉であるマルセロ・H・デル・ピラール賞を授与された。ジャーナリストとしては有力メディアのインクワイアラーでのキャリアが最も長い。人権弾圧に関する取材経験も長い。政権当局だけではなく、左派系のモロ・イスラム解放戦線(MILF)やフィリピン共産党の軍事組織新人民軍(NPA)にも独自の取材ルートを持っていた。趣味は音楽。バンドを組んで活動していた時期があった。

─ 岩波書店『世界』にも寄稿

 エスピナ氏は亡くなる直前に、岩波書店の月刊誌『世界』の5月号に「19人のジャーナリストが殺害 増加する『自己規制』」と題したコラムを寄稿した。ドゥテルテ政権によるジャーナリストへの攻撃がエスカレートする実態を日本の読者に伝え、国際的な連帯を呼び掛けた。

 SACはノノイ氏と2020年2月にネグロス島・バコロド市内で会った。胸に「Journalism is not Crime (ジャーナリズムは犯罪ではない)」とプリントされたTシャツを着ていた。そんなTシャツを着て危険はないかと心配した。「大丈夫?」と尋ねたが、「問題ないよ」と相好を崩した。不屈のジャーナリストにはちょっとハラハラするユーモアもあった。

〈Source〉
A post on Facebook of National Union of Journalists of the Philippines, July 7, 2021.
A post on Facebook of Paghimutad – Negros Island Alternative Media, July 7, 2021. 
Jon Allsop, 2020, “Maria Ressa’s Conviction, and the Philippines’ Dire Information Climate,” Columbia Journalism Review.
‘Mosquito Press’ Cited in NAM Rites, Philippine Daily Inquirer, August 26, 2013.
US Embassy Hosts 9th Regional Media Seminar on Human Rights, Manila Bulletin, July 7, 2020.
Veteran Journalist Nonoy Espina Passes Away, ABS-CBN News, July 7, 2021.
ホセ・ハイメ・エスピナ, 2021, 「19人のジャーナリストが殺害 増加する『自己規制』」『世界』岩波書店, 944:266. 

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