【コラム】心に湧く新たな希望

【photo】an example of fact check for fake video on facebook/VERA FILES FACT CHECK: Ferdinand Marcos DID NOT leave ‘90%’ of his wealth to Filipinos - VERA Files, VERA Files, July 10, 2020.

トレリー・マリグザ(正義と平和のために働く女性たちのネットワークJaPNet議長)

 私たちは、不安や疑問を抱えたまま、この瞬間を迎えています。私たちは、困難な人間関係、挫折した夢、この不確かな日々の風の中で揺らいでいるような希望をもたらしました。私たちは、すべてが正しくなるときを待ち望んでいます。
 私は、どっぷりと悲嘆に浸かることには耐えられない。しかし、今よりももっと深く、まじめに、頻繁にその痛みに立ち入らなければならないということを分かっています。現実否認や理屈のこじ付けを乗り越えなければならないのです。私たちは大きな変化に試され、遅れた約束に失望し、不可能な問題に敗れ、答えのない祈りに苛立ち、報われない批判に裏切られ、非論理的な現実や無意味な悲劇に困惑しているのですから。

― マルコス独裁の被害者たちと、利益を得た者たち

 フィリピンにおける選挙期間のこの6ヶ月は、民主主義の茶番劇のようなものでした。私たちは、今回の選挙で、マルコス・シニア(次期大統領「ボンボン」マルコスの父)時代を最善の時代として認識している人びとに私たちは囲まれているのだと気づきました。それが私たちの現在を、非常に緊張したものにしています。私たちは、マルコス時代の繁栄を提供できる人は「ボンボン」マルコスの他にないといった前提を受け入れるよう仕向けられた環境に、陥りました。それは、知らず知らずのうちにでしょうか、それとも、誰かの意図に基づいてなのでしょうか。
 マルコス・シニアによる戒厳令の時代に利益を得る権限をもった人びとは、その時代を肯定的に評価するでしょう。そして今、その人びとがまた、その権限を取り戻そうとしています。すべては認識と利益の問題です。もし、あなたが宴会で友人と一緒にゴーヤを食べたら、二人とも「苦い宴会だった」と言うでしょうけれど、ベーコンやラムチョップを食べられた人にとってはそうではないのです。

― 歴史的事実を消すことはできない

 戒厳令下における投獄や拷問、殺害、失踪といった残虐行為のおぞましさは、国家警察と国軍の虐待の物語です。自らの権力を維持するために、マルコス・シニアは、国軍や国家警察、一般法執行機関による腐敗を放任したからです。残虐行為は、たとえ上位者ぶる指揮系統の承認がなくとも、共産主義者の脅威からマルコス・シニア政権を守るという一般的な方針の下で、そして、暗黙の了解の下に沈黙する個人によって実行されたものです。これは、マルコス・シニアの遺産である指揮責任の原則に関わることです。退任するドゥテルテ大統領もまた、国軍を懐柔するために、国軍兵士や警察官は悪いことをしない、共産主義者と疑われる者は膣に銃を撃ち込まれればいい、自分は味方だといった発言を繰り返し、国軍や国家警察の責任を追究しない文化を根付かせました。戒厳令が敷かれていなくてもこのようなことが起こっているのだから、戒厳令のもとでどんな卑劣な行為が繰り広げられてきたか、想像できるでしょう。
 しかし、マルコス・シニアによる戒厳令を私たちがどのように評価するかなど、本来、重要なことではないはずです。マルコス・シニアによってなされた残虐行為は、実際に、歴史の中でフィリピンの人びとによって裁かれてきました。残虐行為の生存者による生々しい証言や犠牲者の墓碑銘に加えて、マルコス家への有罪判決は花崗岩に刻まれたようなもの、つまり、消し去りようがない事実なのです。
 1935年と1973年の憲法は、大統領が6年の任期を越えて再選されることがないようにしました。しかし、その場合、子孫は考慮されませんでした。1987年憲法は、政治家一族を排除する法律の制定を議会に促しましたが、議会内の政治家一族の抵抗により基本的に実現しませんでした。

― 歴史の転換点、新たな希望

 今年の選挙は、我が国の歴史の転換点になるはずです。汚職に染まらず、国民のために無私の奉仕をする、より優れた候補者を率いて、より大きな、より良い夢を見ることができるという希望がありました。しかし、残念なことに、大多数の国民は騙されやすく、作り話、半信半疑、フェイクニュース、全くの嘘の餌食になってしまいました。私たちは、大多数の人々の心に取り憑いている幽霊を追い払うことに失敗しました。私たちは、私たちを影に引き戻す過去の怪物の手を切り落とせずにいます。私たちは、過去の怪物を公然と私たちの世界や統治に受け入れてしまったのです。

 しかし、人びとによる新たな革命、つまり老朽化したシステムを解体し、真実と前向きな変化を作り出し、フィリピン同胞への愛、お互いを大切にし、そして、具体化した民主主義によって創り出される運動からは、希望が湧いてきます。この選挙期間中に国民のために達成されたいかなる利益も、無駄にされることなく認識されなければなりません。真実と歴史とより良い未来を奪われてはなりません。今は人を欺く仕組みが支配しているかもしれませんが、嘘が完全にまかり通ってしまわない限り、人びとだけが判断できるのです。
 私たちは、人道的で、責任感があり、真実に基づき、公正で公平な国家を追求していきましょう。この目覚めを、暗闇の中でちらつくだけでなく、私たちが夢見てきた国への道を照らし続ける、燃えるような光をもたらすものにしていきましょう。共に、暗闇の中にいる人びとに知らせ、力を与えましょう。新しい1日が始まるとき、新しい希望が心に芽生えます。夜がどんなに暗かったとしても、太陽が昇る時、神が常にそこにおられることを思い起こさせてくれるでしょう。

JaPNet(Women Working for Justice and Peace Network=正義と平和のために働く女性たちネットワーク)は、メトロバギオとコルディリエラで、人権や正義、平和のために活動する女性やLGBTQIAとその支持者の幅広いネットワーク。

〈筆者紹介〉
トレリー・マリグザ。教育学修士(数学専攻、理学専攻)。さまざまなNGOの活動やフィリピン合同教会のジェンダー・正義プログラムなどに関わる中で、ジェンダーや環境、よき統治に関するコンサルタント業務に従事している。また、ビジュアル・アーチストとしても活動。

美しい国フィリピンの「悪夢」

フィリピン政府が行っている合法的な殺人とは?

詳しく見る

最新情報をチェックしよう!
>ひとりの微力が大きな力になる。

ひとりの微力が大きな力になる。


一人ひとりの力は小さいかもしれないけれど、
たくさんの力が集まればきっと世界は変えられる。
あなたも世界を変える一員として
私たちに力を貸していただけないでしょうか?

Painting:Maria Sol Taule, Human Rights Lawyer and Visual Artist

寄付する(白)