ニューバターン5虐殺事件
止まらない「銃撃戦」という名の虐殺

【写真】ニューバターン5虐殺を非難し、事実究明を求めるSOSのポスター/via facebook of Save Our Schools Network Cebu (SOS), February 25, 2022. https://www.facebook.com/SaveOurSchoolsCebu/photos/a.1722124208083681/2754245451538213/?type=3

【東京=9日】2月24日、フィリピン国軍はダバオ・デ・オロ州ニューバターン町の戦闘において5人のNPA(新人民軍)を殺害したと報告した。しかし、家族や市民組織からは、国軍による政治的殺害の隠蔽であるとの非難と調査の要求が発せられている。市民組織やメディアからは、新たな政治的殺害事件としてニューバターン5もしくはニューバターン5虐殺事件と名付けられている。

― 国軍の報告

 24日に行われたフィリピン国軍第10歩兵師団の報告書によると、「銃撃戦」により殺害されたのは、レイン、チャド、ダダイ、および身元不明の男性2名である。これら人物は15分間の銃撃戦の後、南方に撤退し、さらに、彼らがM653ライフル、口径45ピストル、手榴弾、対人地雷、各種食料品、個人所有物を残したという。

― 殺害された5人

 後日、24日の国軍報告書でレイン、チャド、ダダイとされていた3人の本名と人物が明らかになった。明らかになったのは、ルマド学校(ALDADEV)ボランティア教師のチャド・ボーックとジュリアン・グホ、保健師エリジン・バロンガであり、未だ身元が分かっていないのは、運転手であったと考えられる2人である。ボーック、ジュリアン、エリジンの3人は、ALCADEVでの教育活動を通して、鉱物資源の豊かな先住民族の先祖伝来の土地を鉱山企業から守り、軍事化を批判する活動に従事していた。さらに、ボーックは、昨年2月にセブ市バクウィット校で先住民族人身売買のでっち上げ容疑で告訴・逮捕され、その後に証拠不十分で却下・釈放されている。
 3月1日、ボーックとエリジンの遺体が遺族に返還された。引き取った遺族によると、遺体のあちこちには傷やアザがあった。遺体返還後も、遺族の周りを私服の軍人がうろついている。

― 銃撃戦はいつものでっち上げ?

 フィリピン共産党のマルコ・バルブエナ報道官は、ツイートを通して、銃撃戦が国軍による虚偽の報告であり、このような虚偽の銃撃戦を通した違法な殺害の正当化は今回に始まった訳でないことを発表した。
 また、殺害されたチャド等が所属していたミンダナオ先住民族に適切な教育を提供するSOS(Save Our Schools Network)が、戦闘があったとされるニューバターン町のアンダップ村で住民に確認をとったところ、報告された地域で国軍とNPAとの戦闘はなかった。2月26日、SOSはメディアに対して、「それ(5人が殺害された出来事)は虐殺であり、銃撃戦などではない」との声明を発表した。

― 即時公平な調査を!

 3月1日、下院のバヤンムナ系パーティリスト連合(バヤンムナ、ガブリエラ、ACT、カバターン)の6人の弁護士は、下院においてニューバターン5の殺害について調査する人権委員会の設立と「即時公平な調査」を訴えた。6人の弁護士によると、ボーックは 「先住民族のコミュニティで国軍によって行われている権利侵害を記録し、公表することに積極的」であり、「国軍および地方共産主義者の武力紛争を終わらせるための国家タスクフォース(NTF-ELCAC)による激しい赤タグ付け、脅迫、嫌がらせを受けていた」。彼らは、国軍による銃撃戦に関する「矛盾した説明」は「疑念を抱かせるものである」と述べた。
 先住民族と人権、教員に関する諸団体も調査を求め、「ニューバターン5」の殺害を非難し、国軍に対して、死体を解剖した後、適切に埋葬するよう要求した。
 さらに、ALDADEVの活動に協力していた民間調査機関IBONは、3月1日にIBONのウェブサイトに掲載した声明を通して、ボーックらの活動が、「先祖伝来の土地に対する企業の侵略とそれに伴う軍事化に対する闘争を支援する」、「民主的な社会の基礎となるコミュニティ組織化のための草の根の努力」であり、先住民族の自決と持続可能な発展を高める活動であったことを強調し、「ニューバターン5」が権利、社会正義、開発を獲得しようとする人々に対する政府の暴力であることを強く非難した。

― 選挙の中で加速する活動家への抑圧

 環境市民組織カリカサンPNEによると、選挙活動が開始された2月に、環境保護活動家が特に暴力のターゲットとなっている状況を公表し、懸念を表明した。2月の環境活動家への不当な逮捕や抑圧、殺害等を含む攻撃は236件に上り、1月と比べ483%増加しているとのことである。

〈Source〉
5 alleged NPA rebels killed in Davao de Oro clash: military, ABS-CBN, February 25, 2022.
Groups condemn killing of Lumad school teacher Chad Booc, demand justice, ABS-CBN, February 27, 2022.
Lumad teachers, 3 others killed in massacre not encounter, groups say, Bulatlat, February 26, 2022.
After 5 days, kin retrieve remains of Chad Booc, 2 others, Bulatlat, March 2, 2022.
Attacks on environmental defenders quadrupled in February, Bulatlat, March 5, 2022.
IBON statement on the New Bataan 5 massacre, IBON, March 1, 2022.
Makabayan lawmakers seek probe of ‘lumad’ teachers’ killing, Inquire, March 1, 2022.

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