【4日=東京】先住民族ルマドの人たちが民族的な教育を受けるための学校が、2017年5月23日から2019年7月までの約2年間で500件を超える暴力的な攻撃の対象になったことがわかった。フィリピンのNGO「私たちの学校を救済するネットワーク(Save Our Schools Network)」が調査した。国軍や国家警察の急襲による被害が目立ち、多数の逮捕者も出ているという。ルマドの学校は、フィリピン教育省によって「左翼思想の教育場所」との理由で閉鎖される事態が相次いでおり、2019年だけでも55校が閉鎖されたという。
―「卒業できる人はほんの一握り」
国軍と国家警察の合同部隊は2021年2月15日、フィリピン警察はセブ島にあるサンカルロス大学タランバンキャンパス内にあるルマド学校を襲撃し、19人のルマドを含む21人の学生とその他教員やルマド年配者を不当に逮捕した。その後、フィリピン警察は、教師やルマド年配者の容疑は学生たちの誘拐と共産主義洗脳であると主張している。
フィリピン大学ディリマン校キャンパス内ルマド避難所学校12年生のクリスリン・エンポンは「かつてルマドの学生は1万人ほどいました。でも今となっては、学校の閉鎖や襲撃のために通えなくなり、卒業できる人はほんの一握りです。コロナ禍においても、攻撃が止まることはありません。とても悲しいことです。」と述べた。
― 市民が支援、2021年1月までに215校が設立
ルマド学校は、1987年憲法に基づいて施行された1997年先住民族法を根拠法として設立されている。同法は、フィリピン社会から排除されてきたルマドに、他のフィリピン人と同様の機会を与えることを目的とする。それまで補償の対象にすらならなかったルマドが、適切な知識を利用して先住民族の権利を獲得・主張する選択肢を与えられたのである。
独自の宗教を有する者が多いルマドは、キリスト教徒や独自学校を数多く運営するイスラム教徒と比べて、教育機会が極端に少ない状況にあった。キリスト教徒が実質的に優遇され続け、また、度重なる紛争や先祖代々の土地から追い出されるという経験をしてきたからだ。
市民活動の支援に支えられて設立された学校は、2021年1月までに215校にのぼる。
─ 子どもたちも弾圧の対象に
学校内では、フィリピンの公立学校と同様の学習にとどまらず、先住民族の権利や独自の文化について学ぶ機会が準備された。しかし、ドゥテルテ政権における声を上げる市民への弾圧戦略の下で、住民の集会の場であり、権利を学ぶ場となっているルマド学校は、その弾圧の恰好の標的となった。
先住民族への弾圧はターゲットは大人たちだけではない。
ルマドは、ミンダナオ島のイスラム教に改宗していない先住民族の総称。
写真・文 栗田英幸/愛媛大学アジアアフリカセンター准教授
<Source>
Defense of Lumad schools, sanctuaries sought as attacks continue, Bulatlat, June 29, 2021.
Fighting For An Education: Lumad Schools In The Philippines Under Attack, The Organization for World Peace, March 2, 2021.
‘We are defending a sanctuary of learning and of life’, World News, January 30, 2021.
クラリッサ・シングソン, 2021, 「ネグロスからの手紙──虐殺と弾圧の島で 第6回 殺された126人の先住民族」『世界』岩波書店, 945:204-209.
国軍が発砲し、先住民族ルマドの3人が死亡 ミンダナオ島スリガオデルスル州 人権監視NGOカラパタン発表, Stop the Attacks Campaign, June 17, 2021.
避難中に一斉逮捕された先住民族ルマドの子供たちが釈放 支援団体は「故意に釈放を遅らせた」と批判、Stop the Attacks Campaign、2021年5月25日