続くボホール小農民・活動家への抑圧 栗田英幸 (愛媛大学准教授)

【写真】不当逮捕されたカミロ・タバタさん=FARDEC提供

 6月26日、ボホール島の農民支援団体である農民開発センター(FADEC)のプログラムコーディネーターであるカミロ・タバダさんとフィリピン合同キリスト教会(UCCP)のナサニエル・バレンテ牧師がフィリピンの警察と軍によって逮捕されました。フィリピンの人権擁護組織カラパタン(KARAPATAN)や現地NGOのボホール貧農連合-フィリピン農民運動(Humabol-KMP)によれば、提示されている武器所持という証拠は捏造されたものであるとして、その逮捕の違法性を主張しています。

─ 貧しさから脱却できない構図

 ボホール島はビサヤ諸島のほぼ中央にあり、国際的なリゾート地として人気のセブ島のすぐ隣にあります。フィリピンで10番目に大きな島で、125万人が暮らしています。政府の観光業へのテコ入れもあり、近年、セブから近い自然豊かな観光地として知られるようになってきましたが、その住民のほとんどは、稲作を中心とした小規模な農業と小舟を用いた漁業によって生計を立てています。

 逮捕された二人は、そのボホール島の北東部を中心として農民支援のための活動に従事してきました。

 この地域では、多くの小規模な米農家が農業関係の購入・販売先を選べない状況の下に置かれているため、小農家は政治家と一部商人の言いなりにならざるを得ず、貧しさから脱却することもできませんでした。

 そんな小農家に対して、農民開発センターやフィリピン合同キリスト教会は、組織化や技術に関する支援を行なってきました。具体的には、協同組合を結成して肥料農薬等を共同購入し、共同の精米機で精米し、共同倉庫で管理販売することを開始しました。結果、従属を強いる商人から多くの農民が解放されるようになってきています。

─ 警察や軍の暴力行為、殺害も

 実際、上記のような農民の共同活動に対して、精米機を導入準備が始まった2006年頃から警察や軍は暴力行為を強めて行きました。

 直接間接的な警察や軍による暴力的行為は、警察や軍の超法規的な取り締まりを支持していたアロヨ大統領の任期が終了する2010年まで続きましたが、その間に精米機導入の中心となっていた活動家ビクター・オレバールが殺害され(2006年)、数多くの活動家や参加農家が不当な捜索・逮捕や脅迫を受けています。

 2010年以降、その圧力は弱まりましたが、なくなったわけではありません。活動家への「共産主義者」、「ゲリラ」といったタグ付けと監視は継続されていました。

─ 6人を一斉逮捕、日本からも解放求める署名活動

 ドゥテルテ大統領による超法規的な取り締まりへの再支持によって、ボホールでも再び警察と軍による暴力が強化されています。特に今年に入ってからの警察と軍による暴力行為は顕著です。

 農民開発センターの活動を担う活動家や協力農家は活動を止めるように軍や警察から何度も脅迫されています。さらに、今年2月には農民開発センターの活動家や協力者計6人が、やはりでっち上げの殺人容疑で警察に訴えられ、今年4月には上記農民運動の協力者であるアルフィー・サルサーレさんと農民リーダーであるオスカー・バロンガさんが、武器所持というでっち上げ証拠で逮捕されています。

 6人への訴えは、日本を含めた署名活動と検察当局への働きかけにより取り消されました。しかし、不当逮捕されたサルサーレさんとバロンガさんに関しては、新型コロナウィルスが蔓延する刑務所を何度も移動されながら、いまだに別々の刑務所で勾留されており、人権擁護団体より釈放を求める活動が続けられています。

─ 政治構造の基盤への脅威

 ボホールに限らず、フィリピン全国で9・11以降展開されている警察や軍による超法規的抑圧的な活動が、対象であるテロリストや麻薬売人を超えて市民活動に向けられているのは、これまで機能してきた大統領を頂点として地方政治家や有力者を媒介とした支配構造、言い換えるなら選挙集票システムが、特に1987年憲法の下で実質的な力を得た市民活動によって、大きく揺らいできたからに他なりません。

 米の流通を田舎の町長が商人を通じてコントロールし、商人やその支援者である町長に依存させることによって、選挙票を管理するのは、フィリピン全国のあちこちの田舎で一般的に行われていました。

 農民開発センターのような農民を従属から自由にさせる活動は、農民の生活改善には不可欠ですが、大統領を頂点とするフィリピンの政治構造の基盤を脅かすものでもあるのです。一方的に抑圧されているように見える弾圧ではありますが、大きな民主化の流れに対して、追い込まれた政治家によるなり振り構わない抵抗と捉えることもできるのです。

〈筆者紹介〉
博士(国際文化)。東北大学工学部、東北大学大学院国際文化研究科、東北大学大学院農学研究科の長き学生生活を経て、2001年より愛媛大学法文学部に勤務。愛媛大学法文学部助教授(国際開発論)を経て、現職。専門、平和学、開発学、環境学、経済学。著書に『グローカルネットワーク──資源開発のディレンマと開発暴力からの脱却を目指して』 (晃洋書房、2005年)など。

〈Source〉
Karapatan indicts Duterte for fascist attacks on the people on his last year, asserts call for ICC to probe PH rights crisis, Karapatan, June 30, 2021.
Peasant group cries foul over arrests of village councilor, pastor, Bohol Island News, June 26, 2021.
ANINAW Productions’ post on Facebook, April 8, 2021.
ANINAW Productions’ post on Facebook, April 30, 2021.

〈関連記事〉
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