ゴードンvsドゥテルテ
核心に近づくパンデミック基金汚職疑惑

ブルーリボン委員会公聴会:リチャード・ゴードン委員長(真ん中)、ジャネット・ガーリン前健康省長官(右上)、リカルド・モラレス フィルヘルス総裁(右中)、フランシスコ・ドゥケ健康省長官(右下)/via PNA

【29日=東京】リチャード・ゴードン上院議員は、ブルーリボン委員会委員長として、また、次期大統領選挙への自身の立候補を視野に入れて、ドゥテルテ大統領やその取り巻き政治家が関与する新型コロナ感染症対策にまつわる汚職疑惑への追及を強めている。

― ドゥテルテ大統領に対する正面からの批判が活発化

 次期大統領選挙の立候補に向けた動きが本格化するに伴い、ドゥテルテ大統領に対する正面からの批判が、フィリピン議会上院通称ブルーリボン委員会で活発化している。この委員会は、政府の腐敗を調査するために上院に組織される。ドゥテルテ政権の新型コロナ感染症対策にまつわる汚職への調査と追及は、次期大統領選の最前線の一つである。

― 証拠は既に揃っている

 ゴードン委員長は、既に証拠は十分に揃っているとの発言を何度も繰り返している。さらなる証拠固めの作業として、疑惑の中核を担ったと思われる重要人物からの証言が期待されている。特に、ファーマリー社のクリズル・マゴ薬事規制担当執行役員の「爆弾証言」は、フィリピン全国に大きな衝撃を与えた。マゴ役員は、ファーマリー社の命令の下、有効期限を改ざんして医療用フェイスシールドを納入したと証言したのである。
 さらに、既に勾留されているファーマリー社オン・リンコン役員も身柄の保護と引き換えに情報提供することに同意していると、ヴィンセント・ソットⅢ世上院議長が明らかにした。

〈これまでの経過〉

― 汚職疑惑のファーマリー社

 ブルーリボン委員会は、公共事業としてのパンデミック基金をめぐる汚職疑惑に関して、9月以降、個人用防護具の購入事業委託先であるファーマリー社との取引に焦点を絞り、追及を行ってきた。そこで挙げられる疑惑は、次のようなものであった。
・なぜ、価格が既に下がっている時期であるにもかかわらず、市場価格よりも高額に購入したのか? 
・なぜ、国内生産が可能であった時期であるにもかかわらず、中国企業に委託したのか?
・なぜ、現在台湾で指名手配されているような企業に委託したのか? 
・なぜ、委託金額に対してあまりにも経営規模の小さな企業に委託したのか?
・なぜ、提出を義務付けられているはずの契約書類すら存在しないのか? 
・なぜ、ドゥテルテ大統領は中国人を経済顧問として雇用したのか?

― 重要人物に近づくブルーリボン調査

 数多くの言い訳と脅迫じみた発言を繰り返すドゥテルテ大統領に対して、ブルーリボン委員会は、ファーマリー社の役員5人とファーマリー社とドゥテルテ大統領との仲介役と見なされるミカエル・ヤン元大統領経済顧問にターゲットを絞り、議会上院への召喚を試みた。当初、誰も召喚に応じなかったため、ブルーリボン委員会は、上院の権限を用いた逮捕状の発行に踏み切った。逮捕状を出された1人、ファーマリー社オン・リンコン役員は、PCRテスト陽性の判定を受けたために、逮捕状発行直前にすでに身柄を保護されていた。
 ヤン元経済顧問は、9月10日に議会上院の公聴会に姿を現し、ファーマリー社やドラッグ密売人との関係について質問された。ヤン氏はファーマリー社役員と知人であることを認めつつも、同社とドゥテルテ大統領との仲介者ではないと主張し、ドラッグ密売への関与を否定した。
 だが、オン役員は「ヤン元大統領経済顧問に中国バイヤーとの仲介を依頼した」と公聴会で証言した。つまり、この証言から、ヤン元大統領経済顧問は、ファーマリー社の請け負った委託事業に積極的に関与していた可能性が示唆されたのである。

― 決め手に欠ける?ドゥテルテ大統領の反撃

 ゴードン上院議員に対し、ドゥテルテ大統領も数多くの反撃を試みてきた。「民衆こそが二人の(泥沼と化す)闘争の巻き添えになる」、「どうせ汚職はなくならない(私は既に諦めた、また別の人がやるだけ)」というような説明、「証拠は何もない」、「でっち上げだ」という開き直り、そして、「考えられる最悪の手段を行使する」という脅迫等、ドゥテルテ大統領の最近の会見コメントは、ゴードン委員長やブルーリボン委員会の活動に対する上記に類する発言で大半が占められている。
 また、ドゥテルテ大統領は、他の上院議員や閣僚に対しブルーリボン委員会調査への参加や支援を行わないように呼びかけ、ゴードン上院議員が過去に携わったスービック湾の公共工事や同議員が代表を務めるフィリピン赤十字社に関して調査を実施し、汚職や不当価格の摘発を声高に連呼して「仕返し」を試みている。

〈Source〉
Duterte to Gordon: Return P86 million, Manila Times, September 24, 2021.
Ex-Duterte adviser Yang shows up at Senate probe with interpreter, Inquirer, September 10, 2021.
Gordon on Duterte’s getting Chinese adviser Yang: Would Xi Jinping hire a Filipino?, Inquirer, September 26, 2021.
Senators secure Pharmally exec offering to turn witness, Inquirer, September 27, 2021.
Senate witness says ‘substandard’ face shields delivered to DOH, GMA, September 24, 2021.
台湾で指名手配されていた! 汚職調査渦中にある謎のファーマリー社, Stop the Attack Campaign, September 8, 2021.
ドゥテルテ大統領の最大の対抗馬?次期大統領選挙 英雄パッキャオの動向に注目, Stop the Attack Campaign, October 11, 2021.
ドゥテルテ大統領を脅かす新たな火種 フィリピン会計監査委員会監査報告書, Stop the Attack Campaign, September 1, 2021.


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