【東京=25日】3月31日、西ネグロス州バコロド市地方裁判所第42支部(以下、地方裁判所)が、二人の国軍諜報員に対し、殺人罪で懲役40年の判決を下した。全国人民弁護士連合(NUPL)代表のエドラ・オラリア弁護士は、判決は「上官の指示に従っただけだ」と主張する兵士や警官らへの警告になると述べた。
地方裁判所のアナ・セレステ・ベルナド裁判長は、国軍諜報員ラファエル・コルドバとレイギン・ラウスに対し、バヤンムナ党の調整役ベンヤミン・バイリス(事件当時43歳)殺害の件で懲役40年、賠償金30万ペソ(約74万円、2022年4月24日のレート)の支払いを命じた。オラリア弁護士は、「予想通り、殺害を指示した上官が裁かれることはなかった」と遺憾の意を示す一方で、「判決をとおして警官や国軍兵士へ警告を発することになった」と評価した。「警官や国軍兵士は、法的にも、ましてや道徳的にも公正さを欠いた命令に従う義務はなく、たとえその行為が命令によるものであっても、自分自身の罪から逃れることはできない」と、同弁護士は続けた。
― ベンヤミン・バイリス殺害とすみやかな容疑者の身柄拘束
2021年6月14日の16:30、バヤンムナ党の調整役だったバイリスは、西ネグロス州ヒママイラン市でバイク(ホンダTMX155㏄)に二人乗りした犯人によって銃殺された。バイリスは、人権擁護団体カラパタン南部ネグロス支部(9月21日運動)緊急対応チームの一員として、人権侵害が発生した現場へ急行し調査するという役割を担い、山間地域に住む農民や農場労働者に対する国軍などが行使する暴力に抗議してきた。彼はまた、熱心な信徒奉事者でもあった。
バイリス殺害は国軍や警察の関与する数多の殺人事件とは異なり、事件当日に容疑者の身柄が拘束されるという珍しい事件だった。この事件を追及していたベン・ラモス弁護士の報告によると、目撃者の一人だった役所の職員は、バイリスが撃たれたあと即座に、ヒママイラン警察の知人に通報した。容疑者らは隣のカバンカラン市方面へ向かったので、ヒママイラン警察はすみやかに、バイクの車種や服装などをカバンカラン市の警察へ無線で通知し支援を要請した。続いて、パトロール中だったカバンカラン警察の警官3人が高速で走る指名手配中の犯人らを発見し、パトカーで追跡の末、逮捕した。この時、犯人らは偽名を名乗り、一人はピストル一丁と空の弾倉を、もう一人はピストル一丁と実弾2発入りの弾倉を所持していた。
ラモス弁護士によると、事件当日のラジオ番組においてカバンカラン警察は、容疑者が国軍第61歩兵大隊の現役兵士であること、すでにヒママイラン警察へ引き渡され勾留されていることを発表した。だが、翌日6月15日(2010年)、ヒママイラン警察は同ラジオ番組において、容疑者は国軍とは無関係であると主張し、カバンカラン警察の説明を撤回した。だが国軍は、2013年に、容疑者二人が国軍兵士であることを認めた。
― 裁判進展の背後に公正な裁判長への交代
事件当日に容疑者が身柄を拘束されたにも関わらず、彼らが国軍兵士であるということを明確にするだけでも3年、判決が出るまでに10年を要した。
裁判の進展にはベルナド裁判長のバコロド地方裁判所への配属が影響していると、ネグロス島の活動家らは考えている。2019年11月にバコロド市で、労働組合や農民団体などのメンバー52人が一斉逮捕されるという事件が起こった。このうち、11人が武器不法所持などの容疑で起訴されたが、ベルナド裁判長は、バコロド地方裁判所へ配属されてすぐ、現場検証を実施し、保釈中の「容疑者」らから直接事情聴取をしている。このような裁判長の対応は非常にまれであるという。現場検証と事情聴取のあと、ベルナド裁判長は担当する4人の容疑を棄却した。
バイリス殺害事件を中心となって追及していたラモス弁護士は、2018年11月に殺害された。ラモス弁護士はネグロス島の農民たちの弁護を請け負う唯一の弁護士で、殺害された当時、この事件の他に、農地分配を求めて自主耕作運動を行う9人の農民が殺害された「サガイ9事件」(https://sac-japan.org/sagay-9-01/ https://sac-japan.org/sagay-9-02/)なども追及していた。
〈Source〉
Army men convicted in 2010 killing of activist ‘but it’s tragic that people have to die’, Rappler, April 19, 2022.
Conviction of 2 soldiers in murder of Negros activist proves state policy – groups, Bulatlat, April 21, 2022.
Karapatan lauds conviction of Bayles soldier-killers, Manila court dismissal of motion for recon in travelling-skeletons case, Karapatan, April 20, 2022.
Military admits Bayles killers as their own, Karapatan, April 21, 2013.
The extrajudicial killing of Benjamin E. Bayles and the developments in the case, ICHRP, November 18, 2010.