批判的なメディアに対して強まる政府の抑圧

【写真】手続きを終えて裁判所から出るラップラーCEOマリア・レッサ氏とその弁護士(2019年4月3日撮影)/Philippine news site asks top court to scrap Duterte's ban on its reporters, April 11, 2019. https://jp.reuters.com/article/us-philippines-media/philippine-news-site-asks-top-court-to-scrap-dutertes-ban-on-its-reporters-idUSKCN1RN15W

【1日=東京】政権に批判的なメディアに対する政府機関による抑圧行為が次々と実施されている。政府に批判的な27のウェブサイトが国家安全保障顧問および国家通信委員会(NTC)の指示によって遮断され、法曹界からも指示は「越権行為」であるとの批判がなされた。さらに、ドゥテルテ政権に強力な批判を行なってきたラップラーには、ドゥテルテ政権の終了直前に、証券取引委員会(SEC)から事実上の操業停止命令が再発行された。

― 政府によるウェブ遮断要請

 6月17日、27組織のひとつである独立系ニュースサイト・ブラットラットは、読者からウェブサイトにアクセスできないとの問い合わせを受けた。ウェブサイトが意図的に遮断されていたことを知ったブラットラットは調査を進め、21日には信頼できる情報源から、覚書のコピーを入手した。その覚書には、国家安全保障顧問で退役将校のヘルモヘネス・エスペロン・ジュニア大統領顧問が、ブラットラットなど27の独立系メディアや進歩的組織のウェブサイトを「テロリストやテロ組織と提携し支援している」との疑惑のためにNTCに遮断依頼したと記載されている。
 このような「要請」を受けて、NTCは6月8日に、国家安全保障委員会から報告されたウェブサイトの即時遮断を求める「厳格かつ即時の遵守を求める」命令を出した。NTCは、インターネットサービスプロバイダーに対して、命令を受け取ってから5日以内に遮断を実行するよう指示した。ブラットラットを含めた対象グループは、この遮断「要請」を知らされていなかった。

― 複数の声に耳を傾けよ:国際ジャーナリストからの批判

 6月23日、国際ニュースネットワークのジャーナリストたちは、政府によるウェブサイト遮断に対して深刻な懸念を表明するとともに、その違憲性を訴える行動を呼びかけた。
 世界有数の通信社の記者やメディア関係者が所属する外国特派員協会(FOCAP)は、「報道機関の正当性は、そのジャーナリズムの質、すなわち報道が真実で正確であり、公共の利益に資するかどうかにかかっているはずだ」、「政府に敵対すると思われる政党との関係を理由にウェブサイトへのアクセスを制限することは、憲法が保障する表現の自由の権利に反する」と述べ、NTCのガマリエル・コルドバ委員に対し、命令を取り消し、政府の政策が「複数の声」を考慮に入れなければならないことを認識するよう求めた。

― 真実を支持・促進することが国家安全保障:エスペロン

 エスペロン顧問は、6月22日の声明において、「特に多くのフィリピン人が様々なソーシャルメディアを通じて情報を得るこのデジタル時代において、真実を支持し促進することは、公共の利益と結びついた国家安全保障の責任である」と述べ、ウェブサイト遮断の正当性を述べた。彼はさらに、遮断した組織の発信する誤った情報は、「依然として国家の最大の敵であり、実際、共産主義者テロ集団が敵意と不和を植え付けるために用いる強力なツールであり、フィリピン国民を分断し、客観性と真実から我々を引き離す」と説明を加えた。
 エスペロンは、言論の自由の権利は、反テロ法の下でも保護されていると断言した。しかし、この権利は責任を持って使用されるべきであると付け加えた。

― NTCの危険な越権行為だ:弁護士会

 6月24日、フィリピン統合弁護士会は、NTCは国家安全保障顧問の要請に基づいてニュースサイトを遮断する権限を有さないとして、次のように発言した。

「ウェブサイトを遮断することは、その所有者に口止めをすることだ。このような思い切った決断は、法廷では伝聞証拠(根拠のない情報)でしかないような発言に基づいてなされるべきではない。」
「また、反テロ評議会の指示命令の範囲を、(根拠なく)テロリストのレッテルを貼っただけで、(テロリストの)「関連組織」にまで拡大することもできない。」

 フィリピン統合弁護士会は、今回のような拡大解釈によるウェブサイトの遮断が「正当な活動」をしている人権擁護団体や他の進歩的なグループを黙らせるために使われる可能性があるとして、その危険性を語った。

― ラップラーへ再度の法人証明書取り消し命令

 27組織のウェブサイト遮断「要請」と同時期に、昨年のノーベル平和賞によって更に国際的な注目度を高めたラップラーに対して、6月28日、SECが法人設立証明書を取り消す決断を再度確認する命令を出した。
 2018年に控訴審は、ラップラーが外国人投資家に証券を発行したことが外国からのメディア支配を禁止する憲法に違反するとしたSECの調査報告書を支持した。この判決は問題改善のための猶予期間を有するものであり、後日、この証券はフィリピン人に寄付され、指摘された問題点は改善されたはずであった。ラップラーは再考の申し立てを行なっていたが、今回のSECによる命令、要するにラップラーの法人設立証明書の取り消し命令の再確認は、その再考申し立てに対するSECの回答である。このSECの対応に対し、ラップラーは、SECの対応が改善前の状況を再確認するに留まっている点で、再考手続きではなく、改善前の調査の再評価でしかない点を批判した。

 6月29日、ラップラーは次のような声明を発表した。
 「私たちには、最高裁判所までの法的救済措置があります。私たちの見解では、裁判所の承認なしに直ちに実行されるものではないので、私たちは通常通りです」

〈Source〉
Bulatlat, Pinoy Weekly websites promote terrorism: Esperon, PNA, June 22, 2022.
IBP: NTC ‘has no power’ to block news websites after Esperon request, ABS-CBN, June 25, 2022.
SEC issues revocation order vs Rappler in last 2 days of Duterte presidency, Rappler, June 29, 2022.
SEC has upheld order to shut down Rappler, says Ressa, Philstar, June 29, 2022.
What you need to know about the blocking of Bulatlat website, 26 others, Bulatlat, June 24, 2022.
Journalists slam Philippine government for blocking 2 domestic news sites, Benar News, June 24, 2022.

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