最高齢の政治犯 16年の長期勾留の末、死亡

【写真】死亡する数ヶ月前のジーザス・アレグレ氏=ニュービリビッド刑務所、カパティッドゥ提供 (C) Kapatid

【15日=東京】フィリピンのマニラ市にあるニュービリビッド刑務所最高警備施設に16年間収監されていた最高齢の政治犯ジーザス・アレグレ氏(75)が13日、搬送された病院で死亡した。政治犯の支援グループ「カパティッドゥ」によると、アレグレ氏は、6月11日にはすでに相当衰弱し意識障害もあったという。13日搬送された時点で、アレグレ氏は立つこともできない状態だったといい、刑務所内で適切な処置はなされなかったという。勾留者の人道的な処遇を定めた国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)に抵触する疑いがある。

 カパティッドゥや現地の報道によると、今年2月時点で、アレグレ氏の健康状態は悪化していた。慢性閉塞性肺疾患や糖尿病、虚血性心疾患、慢性腎臓病の可能性があると診断されていたという。

─ リゾート開発に反対すると

 アレグレ氏は、逮捕される前、アレグレ家族は漁と小作農で生計をたてていた。アレグレ家族が耕作していた農地の地主がリゾート開発を決定した時から、彼らと地主との間に土地紛争が持ち上がった。2005年4月14日に、西ネグロス州サガイ市タバオ村で、殺人容疑で逮捕された。その後、アレグレ家族6人のうち4人に虚偽の殺人容疑で逮捕され、有罪判決を受けた。支援団体は「容疑はでっちあげだ」と主張し、解放を求めていた。  アレグレ氏の配偶者モレタ氏(74)と息子セルマン氏(47)は、今も別々の刑務所に収監されている。

 カパティッドゥは新型コロナ感染症の影響を受けやすい高齢者や政治犯の釈放を最高裁などに求めており、アレグレ夫妻もそのリストに入っていた。

─ 政治犯の死亡、今年3人目

 アレグレ氏は、今年に入って死亡した3人目の政治犯となった。

 一人目は、2021年5月9日、農民組織まとめ役マキシモ・レドタ氏(58)。フィリピンで最も密集しているとされるマニラ首都圏ケソン市のグマカ刑務所で脳梗塞のため死亡。2日後の5月11日には、フィリピンの農民組織「フィリピン農民運動(KMP)」副議長、KMP中部ルソン支部議長のジョセフ・カンラス氏(59)が、虚偽の武器不法所持の容疑で勾留中、新型コロナに感染し死亡した。

 刑務所を管轄するフィリピン矯正局の統計によると、2020年10月20日時点の収容者数は定員の4倍以上である。刑務所における1000人あたりの死亡率は19年の15.25人から17.89人に増加した。他方、18年の全国死亡率は5.6人だった。極度の密集状態と一日一人当たり70ペソ(約150円)の生活費の低さは死亡率を押し上げている可能性がある。

〈Source〉
Commentary | Pro-active doable measures to protect and save lives of prisoners, Bulatlat, May 19, 2021.
Group urges release of critically ill political prisoner, Philstar, June 13, 2021.
Political prisoner dies after 16 years in jail, Bulatlat, June 14, 2021.
クラリッサ・シングソン, 2021, 「ネグロスからの手紙──虐殺と弾圧の島で 第3回 カリーナ、政治犯になった娘よ」『世界』岩波書店, 941: 268-273.

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