フィリピン政経フォーカス(5月20日-5月28日)

【写真】上院議長を視野にサラ副大統領(左から2番目)との親密さをアピールするアイミー上院議員(左から3番目)/via Facebook of Senator Imee R. Marcos, May 23, 2025.

― 下院議長を介してマルコスに忠誠を誓う大多数の下院議員
 中間選挙で苦戦を強いられたマルコス大統領は、その翌日の5月13日、政治的断裂を超えた「団結」を国民に呼びかけた。5月26日、マルティン・ロムアルデス下院議長の続投に関して圧倒的多数の支持を集めたが、このことを受けて、フィリピン下院副議長のデイビッド・スアレス議員は、下院における新たな超多数派の形成が、同日に行われたマルコス大統領の「団結」の呼びかけが依然として有効であることを示していると語った。
 スアレス議員によれば、285人の議員のうち、279人が、下院議長マルティン・ロムアルデス議員の議長続投を支持する支持声明に署名している。この超多数派には、Lakas–CMD、ナショナリスタ党、国民統一党(NUP)、国民主義人民連合(NPC)、フィリピン連邦党(PFP)、パーティーリスト連合財団(PCFI)、そして自由党(LP)の議員が含まれている。

― 上院議長の続投か、アイミーか?
 5月23日、フィリピンの上院副議長であるジンゴイ・エストラーダ議員は、フランシス・エスクデロ上院議長がその職を維持する可能性があると述べた。エストラーダ議員は、上院の指導部に変化がある可能性を否定しないものの、エスクデロ議員が引き続き上院議長を務めることに楽観的な見方を示している。
 一方で、再選されたアイミー・マルコス上院議員は、上院議長職への関心を示しており、同僚の一部から支持を得ていると述べている。彼女は、予算プロセスや選挙制度の改革など、議会改革の必要性を強調している。

― 閣僚の動向
 5月22日、マルコス大統領は、中間選挙での与党連合「Alyansa para sa Bagong Pilipinas」の不振を受けて、全閣僚に対して自主的な「儀礼的辞任(courtesy resignation)」の提出を要請した。
 翌日、マルコス大統領は、経済政策の継続性と安定性を重視し、経済担当閣僚の留任を決定した。留任が決定したのは、財務大臣、予算管理大臣、貿易産業大臣、国家経済開発庁(NEDA)長官のポスト。
 その他、外務長官のエンリケ・マナロは、国連常駐代表に任命され、後任にはテレサ・ラザロ次官が就任する予定。また、天然資源環境省長官のトニー・ロイサガも交代となり、後任にはエネルギー長官のラファエル・ロティラが就任する見込み。

〈Source〉
Escudero might retain his post as Senate president, says Estrada, Inquirer, May 21, 2025.
Marcos retains economic managers, shuffles other Cabinet secretaries, ABS-CBN, May 23, 2025.
Marcos’ unity call prevails in House as proven by supermajority – solon, Inquirer, May 26, 2025.
Mining appeal, green wish list greet next DENR chief, Inquirer, May 25, 2025.

― ドゥテル市長?
 フィリピン内務地方自治省(DILG)のジョンビック・レムリア長官は、ドゥテルテ前大統領がダバオ市長として宣誓就任できるかどうか、国際刑事裁判所(ICC)に照会する意向を示した。
 ドゥテルテ前大統領は、先の中間選挙でダバオ市長に当選したが、現在、オランダ・ハーグのICCに拘束されており、ドラッグ戦争における人道に対する罪で裁判を待っている。
 レムリア長官は、「ドゥテルテ前大統領の(ダバオ市長選での)勝利を認識している。彼は選挙翌日に選挙管理委員会(Comelec)によって正式に宣言された」と述べ、ICCに対し、フィリピンの領事がドゥテルテ前大統領の宣誓を執行できるかどうかを確認する考えを示した。
 また、レムリアは、ドゥテルテ前大統領が職務を遂行するためには物理的に市長室にいる必要があると指摘し、そうでない場合は、正式に選出された副市長であるセバスチャン・ドゥテルテ(ドゥテルテ前大統領の末子)がその職務を引き継がねばならないと述べた。

― 下院訴追委員会へのデ・リマの参加
 5月25日、レイラ・デ・リマ次期下院議員が、サラ副大統領の弾劾裁判において、下院の訴追委員会に参加することが発表された。これに対し、下院副多数派リーダーであるジア・アディオン議員は、デ・リマの参加が訴追を強化すると述べた。
 アディオン議員は、「下院の規則に基づき、訴追委員会のメンバーは下院議員でなければならない。デ・リマは下院議員となるため、問題はない」と述べた。彼は、また、デ・リマが前政権のドラッグ戦争に関する訴追、特に超法規的殺人(EJK)に関する専門知識を有している(元上院議員、元司法長官)ことから、弾劾訴追の第5条(殺人および殺人共謀の高犯罪)において重要な役割を果たすと期待している。

― ドゥテルテと近しいINCの選挙力
 イグレシア・ニ・クリスト(INC)は、選挙において信者に特定の候補者への「指令投票(command voting)」の実践で知られている。この一団となった投票行動により、INCの支持は候補者にとって非常に重要とされている。2020年の国勢調査によれば、INCの信者数は約280万人で、フィリピンの人口の約2.6%。信者数は、特に2000年以降、急速な上昇を見せており、現在、選挙区によっては勝敗を左右する大きな要因となり得ている。
 今回の中間選挙でINCが指示した上院候補者のうち7人が当選した。特に、ロダンテ・マルコレタ候補は事前の世論調査では「マジック12」(当選圏)外とされていたが、最終的に第6位で当選を果たした。彼はINCの信者であり、INCの支持が大きな後押しとなったと考えられる。
 INCの信者は、特に中部ルソン(Region III)、カラバルソン(Region IV-A)、および首都圏(NCR)に集中している。これらの地域は人口が多く、選挙結果に大きな影響を与える可能性がある。

〈Source〉
De Lima to boost prosecution in Sara Duterte impeachment trial – solon, Inquirer, May 25, 2025.
DILG to ask ICC if Duterte can take oath as Davao mayor, Inquirer, May 27, 2025.
The Iglesia ni Cristo vote: Decoding its impact on the 2025 senatorial race, Inquirer, May 26, 2025.

― 中国海警局船舶との衝突
 5月21日、フィリピンの漁業水産資源局(BFAR)は、南シナ海のスプラトリー諸島付近で海洋調査を行っていたフィリピン政府の調査船が、中国海警局の船舶によって放水砲を浴びせられ、さらに2度にわたり側面から衝突されたと発表した。この「攻撃的な妨害行為」により、フィリピン船の左舷と煙突が損傷し、乗船していた民間人の安全が脅かされたとしている。

― 中国からの非難
 中国外交部の毛寧報道官は、フィリピンが南沙諸島の鉄線礁(サンディー礁)に対して「違法な上陸活動」を繰り返しており、中国の主権を深刻に侵害し、南シナ海行動宣言(DOC)にも違反していると非難した。これに対し、中国海警局(CCG)は、法に基づく管理措置を実施し、現場での検査や証拠収集を行ったと報告している。
 中国側は、フィリピンの政府船舶が中国政府の許可なく鉄線礁および渚碧礁(スビ礁)付近の海域に侵入し、鉄線礁に人員を上陸させて活動を行ったと主張する。これに対し、CCGは放水警告や高速艇による追跡・阻止、現場での証拠収集、中国国旗の掲揚などの措置を講じたとしている。
 毛報道官は、これらの対応は「必要かつ合法的」であり、フィリピンに対して「侵害行為と挑発を直ちに停止する」よう強く求めた。また、アメリカがフィリピンを利用して南シナ海で問題を引き起こし、地域の平和と安定を損なっていると批判した。

中国側が公開した現場映像では、CCGの船舶がフィリピン船の主マストに向けて放水を行い、電子機器への影響を最小限に抑えつつ、侵害行為を防止する措置を取ったとされている。

中国側が公開した現場映像では、CCGの船舶がフィリピン船の主マストに向けて放水を行い、電子機器への影響を最小限に抑えつつ、侵害行為を防止する措置を取ったとされている。

― フィリピンは潜水艦を欲する
 フィリピン国軍(AFP)は、中国による西フィリピン海への侵入が増加する中、潜水艦の取得計画を加速している。ロメオ・ブラウナー参謀総長は、「我々は島嶼国家であり、広大な海洋領域を防衛するためには潜水艦能力が必要だ」と述べている。
 2022年に策定されたフィリピンの「ホライズン3」防衛近代化計画に潜水艦の取得が含まれていたが、当初は優先事項ではなかった。しかし、中国船舶によるフィリピンの前哨基地への集結や補給任務の妨害、さらには高圧放水砲の使用など、攻撃的な行動が頻発していることから、潜水艦の導入が抑止力として重要視されている。
 今年3月には、フィリピン海軍のホセ・エスプレタ司令官と米海軍のクリストファー・キャバノー少将が会談し、対潜水艦戦能力の強化に向けた協力や、無人水中システムの開発、フィリピン海軍要員の訓練などについて議論している。

〈Source〉
China’s countermeasures against Philippines at Tiexian Jiao necessary, legitimate and lawful: FM, Global Times, May 24, 2025.
Philippines accuses China of ‘aggressive’ tactics in South China Sea, Aljazeera, May 22, 2025.
Philippines prioritizes submarine acquisition to counter China’s maritime pressure, Indo-Pacific Defence Forum, May 24, 2025.

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