フィリピン政経フォーカス
(8月4日-8月17日)

【写真】オーストラリア最大の軍艦をフィリピンに派遣/via Australia Sends Largest Warship to Military Drills with Philippines and US, VOA, August 14, 2023.

エスカレートする南シナ海の摩擦/2024年予算審議始まる/警官ミスによる10代少年殺害

トピック1:エスカレートする南シナ海の摩擦

― 攻撃へのエスカレーション
 8月6日に中国海警局が、南シナ海アユギン礁で補給活動を行なっていたフィリピン沿岸警備隊に対して放水銃で攻撃を行なった。フィリピンは、アユギン礁で故意に座礁させた船を利用してフィリピン軍を駐在させ続け、アユギン礁を実効支配してきたが、このことに対して中国はこれまで反対し、座礁船の撤去と兵士の撤退をフィリピン政府に対して強く要求してきた。今回の放水銃での攻撃は、これまでの妨害から行動を一段階エスカレートさせたことを示しており、フィリピン国内で中国に対する懸念が更に高まっている。

― 中国の主張
 8月14日、ケソン市で開催されたフォーラムにおいて在マニラ中国大使館の周志勇次席公使は、フィリピンが中国に対して「対決姿勢」をとることは南シナ海をめぐる意見の相違を解決するのに役立たないと述べた。同氏は「フィリピン側がすべての背後にいる黒幕(米国)に対して引き続き警戒し、南シナ海の平和と静けさに向けて舵を取り続けることを期待する」と述べ、そのような行動で利益を得るのは不純な動機を持つ勢力(米国)だけだと付け加えた。
 また、同日、中国共産党のウェブ英字新聞China Dailyは、フィリピンメディアとは異なる次のような主張を展開した。
 「近年、中国は地域の平和と海洋協力の促進に多大な努力を払っており、地域諸国は南シナ海の平和と安定という共通の利益に対する理解を深めている。現在、大きな注目を集めている『南シナ海行動規範』交渉について、中国とASEAN諸国は、既に同規範の第2読会に成功し、国際法に準拠した実効性のある実質的な地域ルールとなるよう、交渉を加速させている。こうした中、フィリピンは座礁した軍艦に対して大規模な建造・補強を行う一方的な行動を繰り返し、それが海難事故(放水銃での攻撃)を引き起こした。中国は、『過剰な反応をした』との見方もある。しかし、これまで中国は専門的かつ自制的に応じてきた。フィリピンに座礁船への食糧補給などの一時的な特別な取り決めを行なってきたからである」(記事を一部抜粋)

― オーストラリアはフィリピンに最大の軍艦を派遣
 8月14日、南シナ海での緊張の高まりの中、フィリピン、米国、オーストラリアの合同軍事演習がフィリピン領海にて開始された。今回の演習は、オーストラリア軍とフィリピン軍が中心となり、米軍はサポート役に徹する。オーストラリアは、自国最大の強襲揚陸艦HMASキャンベラを今回の演習で派遣し、その本気度を示した。演習は8月31日まで行われる予定である。

トピック2:2024年予算審議始まる

― 上院にて予算案の議論始まる
 上院歳出委員会は、8月10日、開発予算調整委員会(DBCC)による説明を受けて、2024会計年度国家予算案5兆7680億ペソの審査と精査を正式に開始した。「繁栄のためのアジェンダ:将来を見据えた持続可能な経済の確保」をテーマとした2024会計年度の国家予算案は、GDPの21.7パーセントを占め、2023年度国家予算よりも9.5パーセント増大した。
 社会的および経済的変革を可能にする環境を促進するため、社会サービス分野に2024年度予算案の最大の配分(38.0%)2兆1800億ペソが充てられ、保健、社会および教育関連サービスに資金を提供する。 一方、予算の29.6%に相当する1兆7100億ペソは経済サービス部門に提供され、Build-Better-Moreプログラムを通じて公共インフラへの高額投資を継続する。
 上院は、9月30日までに2024年度国家支出計画の第3読会および最終読会で承認することを目標としている。

― 上院予算審議
 上院では、既に積極的な議論が開始されている。特に、来年末までに達すると予想される国の債務15兆8000億ペソ(今年7月に14兆ペソに達した)に対して、何人もの上院議員から質問と懸念が提起された。質問に対してロザリア・デ・レオン財務長官は「債務は管理可能である」との回答を繰り返した。

トピック3:警官のミスによる10代少年殺害

―「判断ミス」
 8月9日、ジェルホード・ジェンボイ・バルタザールは、マニラ郊外の漁村で頭を撃たれ、溺死した。警察が逮捕しようとしたため、彼はパニックになって水に飛び込んだ。17歳の少年は武器を持たず、そのことを当局も認めていたことを考えると、警察官が彼を射殺したのは「判断ミス」だと言える。
 ソーシャルメディアに投稿された動画には、被害者の父親ジェシー・バルタザールが、水から引き上げられた息子の遺体を抱きしめる姿が映されていた。動画で彼は、警官が威嚇射撃をしただけだと主張しているのに、なぜ息子が頭を撃たれたのか疑問を呈した。

― 国家警察の対応と再教育の勧告
 国家警察は、関係した6人の警官の停職処分を発表した。
 また、北部警察管区は、警察官の再教育コースの設置を発表した。リチャード・パルパラトック国家人権委員長はこのことを歓迎したが、これは全国的に行われるべきだと述べ、ナボタス市の警察官がバルタザールを誤認逮捕で射殺した事件を受けて、警察全体に再教育を受けるよう勧告した。

〈Source〉
Australia Sends Largest Warship to Military Drills with Philippines and US, VOA, August 14, 2023.
China tells PH after water cannon attack: ‘Confrontational attitude won’t do anyone good’, Inquirer, August 14, 2023.
CHR chief recommends retraining for entire PNP after Navotas teen’s shooting, ABS-CBN, August 14, 2023.
House Begins Scrutiny of Proposed 2024 National Budget, Department Budget and Management, August 10, 2023.
PH, Australia hold first-ever bilateral amphibious drills, pna, August 14, 2023.
Philippines: Six officers suspended after shooting teen in Manila, BBC, August 10, 2023.
Senators raise concern about PH’s ballooning debt, Inquirer, August 15, 2023.
What lessons should the Philippines learn from the maritime incident?, China Daily, August 14, 2023.

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