フィリピン政経フォーカス (10月18日~10月29日)

【写真】公聴会を乗っ取ったかのようだった容疑者であるはずの3人:ボン・ゴー上院議員(左)、ドゥテルテ前大統領(中央)、デラロサ上院議員(右)/via . Go denies hand in handling donations for Covid-19 response, Philippine News Agency, April 2, 2020 Facebook of Ronald Bato Dela Rosa, October 28, 2024. 'Bato' denies involvement in, existence of Davao death squad, Philippine News Agency, October 23, 2024.

― 全責任は私が負う
 「私の命令に従って警察が行ったすべてのことに対して、私だけが全ての法的責任を負う。責任は私が負う。刑務所に行くのは私だ。私の命令に従った警察を許してほしい。私は彼らを哀れに思う。彼らはただ職務を遂行しただけだからだ。」
 「私は、違法薬物の問題に妥協することなく断固として対処するために、できる限りのことをしようと努めてきた。出発する前に、この世を去る前に、私がここに残しておきたいのはそれだけだ。成功も失敗もあったが、完璧なものではなかった。間違いもたくさんあった。おそらく犯罪も多かったのだろう。」

 10月28日、とうとう議会の召喚に応じたドゥテルテ前大統領は、上院のブルーリボン委員会(政府関係の不正行為を調査する上院の委員会)の公聴会の冒頭において、ドラッグ戦争の責任に関して口を開いた。

― 私が命令したのはこれだけ
 「私はこのように(警察署長に)言った。犯罪者たち(麻薬密売人たち)と戦うよう奨励し、銃を抜くよう奨励せよ。それが私の指示だった。彼ら(警察官)に戦うよう奨励せよ、戦うときは彼らを殺せ、そうすれば私の街の問題は解決するだろう。」

 大統領時代にダバオ暗殺団の存在を認知していたのかを聞かれたドゥテルテ前大統領は、その質問を否定する一方で、事実として、当時のフィリピン国家警察署長は、デラロサを含めて全員、ダバオ暗殺団の幹部であったことを認めた。即決処刑奨励についても否定し、大統領として命令したのは、ただ、上記のような命令だけであったことを強調した。
 一方で、ドゥテルテ前大統領は、ダバオ市長時代にダバオ暗殺団を組織していたこと、この日公聴会に参加している元警察署長たちがその幹部であったことを明らかにした。

― ドラッグ戦争の判断はフィリピン国民がすべきこと
 ドゥテルテ前大統領は上院でのぶら下がりインタビューで、「国民と国を守るために」ドラッグ戦争を実施しなければならなかったと述べ、記者団に対し「私が大統領として行ったことを説明するためにここに来た」と語った。
 このような物議を醸し出している反ドラッグキャンペーンを主導したことを後悔しているかとの質問に対し、「ドラッグ戦争については、フィリピン国民が判断することだ」とだけ答えた。

― 良識も分別もない上院調査
 ドラッグ戦争の犠牲者の遺族を法廷で支援してきた全国人民弁護士連合は、声明で、下院での調査でドラッグ戦争における超法規的殺害疑惑と、その殺害に対する報奨金制度疑惑について、既に「重大な事実が明らかになった」と述べた。しかし、今日の上院によるドラッグ戦争調査で、「それ(上院調査)がその関係者や被告たちの発言の場になってしまっていることに、我々は愕然としている」として、判明しているはずの超法規的殺害および報奨金制度の疑惑がこの公聴会で否定されていることを批判した。
 この声明は、さらに、ドラッグ戦争遂行の中心人物であったデラロサ上院議員とボン・ゴー上院議員が調査を行う側として参加している「良識も分別もない」状況についても批判した。

― ドラッグ戦争の責任者が公聴会を乗っ取っている
 カバタアン党のラウル・マヌエル下院議員も、ソーシャルメディアでの声明において次のような主張を展開している。

 「偽りの反人民的なドラッグ戦争の責任者である高官らが上院の公聴会を乗っ取っている。」
 「上院委員会で調査されるはずだった人々に、自分たちの目的を達成するための場が与えられた。」
 「彼らは立法調査を台無しにしている。上院はバトとゴーの利己的な行動を黙って見過ごすべきではない。」
 「彼らは質問・調査される側であって質問する側ではないはずだ。」

― 見せ物となり果てた上院調査
 人権同盟カラパタンは、ドゥテルテ前大統領が上院の審議を「いつもの罵り言葉まみれの暴言の場」、「三つのリングが重なるサーカス(three-ring circus:ドゥテルテ、デラロサ、ゴーの3人の演者のいる見せ物)」に変えてしまったと述べた。
 同団体は、公聴会でのドゥテルテ前大統領について、何も新しいことを示さず、「責任から逃れようともがきながら、答えるたびに罵りの言葉を吐くいつものドゥテルテ前大統領だ」と述べた。

― 怒りを露わにするサラ副大統領
 10月18日、サラ副大統領は記者会見の席で、マルコスとの対立が囁かれるようになる以前から、既に精神的に抑圧された関係(toxic relationship)にあったことを明らかにした。サラは、マルコス大統領の頭を切り落とす自分を想像していることで、既にそのような関係になっていることに気づいたと記者たちに語った。
 サラ副大統領は、つづいて、マルコス大統領の姉であるアイミー上院議員に対して、もし、現政権によるサラへの攻撃が続くようなら、英雄墓地に眠るマルコス大統領の父、マルコス・シニア元大統領の遺骸を掘り起こして海に捨ててやると語ったことを明らかにした。多くの反対を押し切り、行き場のなかったマルコス・シニア元大統領の遺骸の英雄墓地への埋葬を認めたのが、サラの父、ドゥテルテ前大統領なのだが。

― メンタル検査 vs.ドラッグ検査
 マルコス大統領への怒りも露わに攻撃的な発言をしたサラ副大統領に対し、アンティポロ選出のロメオ・アコップ下院議員は、彼女が不安定な精神状態にあり、精神的な欠陥があるとして、暗に副大統領としての資質を疑うようなコメントを発した。他の一部の下院議員からも、サラは精神医学的な検査を受けるべきだと、アコップ議員の発言に追随する声が上がっている。
 このような批判に対して、サラ副大統領は、22日、記者たちの前でアコップを含むサラに敵対する議員たちに対して、次のようにやり返した。

 「今すぐにでも、テレビ中継でも、精神医学的な検査でも受け入れましょう。しかし、反論されるとすぐに精神が不安定になる(すぐに怒る)議員たち全員にもテストを課すべきです。そして、独立した専門家によって、それはなされるべきでしょう。さらに、精神医学的な検査だけでなく、ドラッグの検査についても同様に課すべきでしょう。」

 これは、敵対議員に対してだけでなく、その領袖でありまたドラッグ常用者疑惑のあるマルコス大統領に対する強烈な皮肉に他ならない。

― 実は、自身への調査の矛先を変えるための演出?
 アコップ下院議員は、サラの反論は自身が窮地に立たされている機密費不適切使用疑惑に関する調査の矛先を変えるためだと批判、調査がそのようなことによって妨害されることはないことを記者たちに強調した。
 18日の下院での副大統領機密費の用途に関する調査において、サラ副大統領は、マルコスとサラが大統領と副大統領になった経緯を語り続けた。サラはマルコスを大統領にする上で彼に大きな貸しがあり、機密費はその見返りだと仄めかすような発言に終始した。
 現在、下院の調査委員会では、2022年12月、僅か11日間で「隠れ家」に使われたとされる1600万ペソの「あり得ない」支出への追及が進められている。

〈Source〉

Drug war critics question Go, Dela Rosa participation in Senate probe, ABS-CBN, October 28, 2024.
Duterte allowed to speak first at Senate drug war probe, Inquirer, October 28, 2024.
Duterte: I’ll throw Marcos Sr.’s body into West PH Sea if attacks continue, Inquirer, October 18, 2024.
Duterte: My PNP chiefs were ‘death squads’ heads, Inquirer, October 28, 2024.
Duterte on drug war: I did what I had to do to protect the people, Inquirer, October 28, 2024.
Duterte takes ‘full legal, moral responsibility’ for drug war, Inquirer, October 28, 2024.
Palace refutes Duterte’s claim that crime remains rampant in PH, Inquirer, October 28, 2024.
Sara Duterte OK with psych exam if poll bets will take drug test, Inquirer, October 23, 2024.
VP Sara Duterte’s outburst shows flaw in her character – Acop, Inquirer, October 21, 2024.
VP Duterte says she daydreamed ‘cutting off’ Marcos’ head, Inquirer, October 18, 2024.

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