フィリピン政経フォーカス (6月18日-7月3日)

【写真】レイラ・デ・リマ/via Cover of Facebook of Leila de Lima.

― 上院に出る気満々のドゥテルテ・ファミリー

教育長官の辞任をマルコス大統領に伝えて6日しか経っていない6月25日、サラ副大統領は、父ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領(以下、ドゥテルテ父)、兄パオロ・ドゥテルテ現下院議員、弟セバスチャン・ドゥテルテ現ダバオ市長の3人が2025年の上院選挙に出馬する意向であることを明らかにした。

サラ副大統領によると、セバスチャン市長は2028年の大統領選挙をも見据えているという。サラ副大統領は、セバスチャンが大統領選に出馬する際に「市長としてダバオ市に戻る」と述べた。

― TIME誌の紹介

米国メディアTIME誌は、6月27日の記事でドゥテルテ・ファミリーの上院出馬宣言を次のように記述した。

当初から不安定だったフィリピンにおいて物議を醸しながらも強力な(マルコスとドゥテルテの)2つの政治王朝の同盟は、ドゥテルテ・カルピオ(=サラ副大統領)の最高職への野望がますます明らかになるにつれ、ほころびを見せている。

しかし、統治を狙っているのはドゥテルテ・カルピオだけではない。今週、彼女は地元メディアに対し、父親と2人の兄弟が2025年5月に上院選挙に立候補する予定であることを認めた。

(中略)

マニラを拠点とする地政学アナリストで『ドゥテルテの台頭:エリート民主主義に対するポピュリストの反乱』を執筆したリチャード・ヘイダリアンにとって、ドゥテルテ=カルピオの今週の発表は、具体的な計画の概要というよりは、一族が引き続き重要な地位を維持したいという願望の表明である。「彼女は、ドゥテルテ・ファミリーが依然として侮れない勢力であることを皆に思い出させたいのだ」とヘイダリアンはTIME誌に語った。

― キボロイの隠れ家

何度も隠れ家と思われる家屋を襲撃しているにもかかわらず、フィリピン国家警察は、性的虐待と人身売買で指名手配中の新興宗教イエス・キリストの王国の教主キボロイ牧師の身柄を未だに確保できていない。

そんなキボロイ牧師の居所について、タクロバン市で取り囲んだ記者たちに対してドゥテルテ父は、次のように語った。

「おそらく牧師は降伏したくないのでしょう。だから隠れていなさい。」

「でも、あなたが牧師の居所を知っているのかを私に問うのであれば、私は知っています。牧師がどこにいるかは知っていますが、それは秘密です。」

― 反訴の準備

レイラ・デ・リマ前上院議員は、ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の政権下で「政治的に迫害した」人々に対して、反訴を起こす準備をしている。

昨日のインタビューで、デ・リマ前上院議員は、彼女の弁護団がドゥテルテ前大統領と当時の法務長官ビタリアノ・アギーレ2世に対して反訴を起こすことを検討していると述べた。彼らは彼女に対して、違法薬物容疑をでっち上げ、約7年もの勾留生活を強いたと非難している。

彼女は、国際刑事裁判所(ICC)の調査についても触れ、ドゥテルテ前大統領とデラロサ上院議員はICCの逮捕を免れないと語った。

― 再開した両者の激しい口撃

ドゥテルテ前大統領は7月1日、全ての容疑から解放されたデ・リマ前上院議員によるドゥテルテ前大統領への最近の激しい非難について、「彼女は今、自分の人生に平穏を感じるべきだ」と述べ、次の言葉を続けた。

「今いる場所で平穏を見つけなさい。トラブルを探すな。後悔するだけだ。なぜ私に仕返しをするんだ?私はロックンロールをやらない(ビリビッド刑務所内で有罪判決を受けた麻薬王のロックコンサートで彼女が踊っているフェイクビデオのことを持ち出して揶揄している)。」

ドゥテルテの上記発言に対して、デ・リマ前上院議員は、「これは、私たちの闘いではなく、人々に対するあなたの罪だ。明らかに、前大統領は謝罪も反省もしていない」「彼には倒錯した男らしさを堪能させておこう。だが、結局のところ、彼は自分の犯した罪の責任を問われることになる。私は法の支配を何の疑いもなく尊重してきた。彼はそうだったのだろうか?」と語った。

― 上院選への出馬は?

6月28日、自由党のデ・リマ前上院議員とリサ・ホンティべロス上院議員は、来年の上院選挙に関して、ドゥテルテチームに対抗するためにマルコスチームに合流するというアントニオ・トリアネス元上院議員からの要請を断ったと明らかにした。

彼女らは、自由党があくまで与党政党(マルコス政権)への批判勢力であることの意義を強調し、反ドゥテルテを目的として批判勢力の立場を捨てることはないと語った。

デ・リマ自身は、上院選への出馬の意思について未だ明言を避けている。

― 2国間協議メカニズム

6月17日に生じたアユンギン礁での中国海警局によるフィリピン沿岸警備隊船への一方的な取り締まり行為と、それに伴ってフィリピン国軍兵士に重症者を出した出来事は、フィリピン政府および同盟国をも巻き込んで中国との間の緊張を一気に高めることとなった。

危険な緊張の高まりの中、中国政府とフィリピン政府は、7月2日にマニラで9回目となる南シナ海に関する2国間協議メカニズム(BCM)会議が開催され、以下の3点で共通の認識を示した。

①南シナ海の平和と安定の維持は中国とフィリピンの利益であり、地域諸国の共通の目標でもあることに同意した。両者は、相違点を管理するためにBCMなどのメカニズムを通じて対話と協議を継続することで合意した。

②南シナ海の状況、特にアユンギン礁の状況と管理について率直かつ建設的な意見交換を行った。

③海に関するコミュニケーションメカニズムの改善、両国の海洋警察間の対話の促進、海洋科学技術や環境保護における協力の促進についても意見を交換した。

更に、中国政府はフィリピンに対して、以下2点を主張したことを公表した(筆者:フィリピン政府は認めていない、一方的なものである)。

①南沙諸島とアユンギン礁を含むその隣接海域に対する主権、および関連海域に対する主権的権利と管轄権を再確認した(筆者:中国側は再確認としているが、実際には一方的に主張したに過ぎない)。

②海上での侵害行為や挑発行為を直ちに停止し、南シナ海に関する行動宣言の規定(筆者:南シナ海行動規範のこと。ASEAN-中国間の紛争を予防するための仕組み。両者間の紛争は両者の話し合いで決定すべきで米国等部外者を巻き込むべきではないと暗に主張)を遵守し、対話と協議を通じて意見の相違を解決する正しい軌道に戻るよう求め、中国と協力してアユンギン礁の情勢を管理し、情勢の緩和と二国間関係の安定化を促進するよう求めた。

― バチカン司教の平和への呼びかけ

7月2日、中比の上記2国間会談に対して、フィリピンを訪れているバチカン外務大臣は、両国間の紛争の平和的解決を呼びかけた。

バチカンとカトリック教徒が多数を占めるフィリピンの関係が始まって75年、バチカンの外務大臣が初めてマニラを訪問した。フィリピンを訪れたバチカン外務大臣ポール・リチャード・ギャラガー大司教は、いかなる相違も平和的に解決するためにあらゆる努力をしなければならないと述べた。

「紛争当事者に国際法を遵守するよう奨励する」とギャラガー大司教はフィリピン外務大臣との共同記者会見で記者団に語った。

〈Source〉
China and the Philippines agree to continue dialogues on South China Sea, CMC, July 3, 2024.
De Lima blasts ‘remorseless’ Duterte: ‘You will answer for your crimes’, ABS-CBN, July 2, 2024.
De Lima, Risa reject unity ticket with Marcos camp, Philstar, June 29, 2024.
De Lima readying counter-charges vs persecutors, Philstar, June 30, 2024.
‘Find your peace, don’t seek trouble’: Duterte says on De Lima’s tirades, Philstar.com, July 2, 2024.
PH, China hold dialogue, commit to de-escalate tensions, Philippines News Agency, July 2, 2024.
Sara Duterte says her father, 2 brothers to run for Senate seats, Rappler, June 25, 2024.
Sara Duterte resigns from Marcos Cabinet, ABS-CBN, June 19, 2024.
‘Secret’: Duterte says he knows where Quiboloy is hiding, ABS-CBN, July 1, 2024.
What to Know About the Dutertes’ Desperate Pursuit of Power in the Philippines, Time, June 26, 2024.

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