フィリピン政経フォーカス(4月9日~4月16日)

【写真】3カ国首脳会談を批判する派系団体連合バヤンのポスター(マルコス大統領:左、バイデン大統領:中央、岸田首相:左)/via Facebook page of ace Book of BAYAN - Bagong Alyansang Makabayan, April 12, 2024.

― スケジュール
 4月10日夜にワシントンに到着したマルコス大統領は、4月11日と12日の2日間の米国での公務を終え、14日の未明にフィリピンに無事帰国した。
 米国でのマルコス大統領の主な公務は以下の通り。
*日比米3ヶ国首脳会合
*比米首脳会合
*ロイド・オースティン米国防長官との会合
*フィリピン-米国ビジネスフォーラム
*民間セクターとの会合:Google社、ウルトラ・セーフ・ニュークリア・コーポレーション、日本商工会議所
*米国フィリピン人社会主催の公式晩餐会

― 日比米首脳による共同ビジョンステートメント要約
 4月11日、マルコス大統領は、バイデン大統領および岸田首相との3ヶ国首脳会合を行なった。会合後には、次のような共同ステートメントが発表された。
 今回の会合は、2023年6月から開始された日比米三国間協力のための枠組みに関する具体的な議論や、同年7月および9月の経済安全保障、開発、人道支援、海洋安全保障および防衛に関する共有アジェンダ、その他、これまでに行われてきた議論を促進させ、政府横断的な日比米3ヶ国の関与を一層拡大し、部門を超えた協力の取組を強化することを意図したものとなっている。
 3ヶ国の首脳は、経済的威圧に対する懸念と強い反対を表明した上で、経済的威圧に対して緊密に連携して対応していく必要性を強調した。3ヶ国の首脳は、戦略的重要インフラの整備を進めることの重要性を確認した上で、「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)ルソン経済回廊」立上げの発表を歓迎した。さらに、以下5つの点における協力・連携について3ヶ国で強化していくことを確認した。
1. 重要物資のサプライチェーン強靱化に向けた連携
2. 無線アクセスネットワーク(RAN)に係る協力等をはじめとする情報通信分野における連携
3. サイバー分野における連携
4. 民生用原子力を含むクリーンエネルギー分野における連携
5. 防衛当局間協議や共同訓練等を通じた安全保障・防衛の協力に加え、海上保安機関間の連携・協力を通じた海上保安の協力

― 米国の「鉄壁の」防衛コミットメント
 3ヶ国首脳会合は、バイデン大統領の次のような力強いメッセージによって開始された。
 「日本とフィリピンに対する米国の防衛約束(支援)は鉄壁だ」。 「以前にも述べたように、南シナ海でフィリピンの航空機、船舶、軍隊が攻撃された場合、両国の相互防衛条約が発動されることになる。」
 3ヶ国首脳会合の後に開催されたフィリピンメディアとの会見において、マルコス大統領は、今回の会議の目的がフィリピン、米国、日本の三国間協力を正式化することであったことを明らかにした。マルコス大統領は、「この3ヶ国同意が、これまでの関係の継続的な進化であり、それは、今回の「合意の大部分が経済的な提案、経済援助、3ヶ国のパートナーシップに関するものであることからも証明される」と述べ、さらに、安全保障と防衛が、「誰を対象としているというものではない」として暗に中国との敵対を目的としたものではないことをアピールした。
 マルコス大統領は、帰国後の15日に日本が比米の合同軍事演習「バリカタン」に本格的に参加することになるだろうと記者団に告げ、日本の参加を歓迎した。マルコスは、さらに、日本との間で効果的な軍事協力を展開するために、近々、地位協定および円滑化協定が締結されるだろうとの見通しを示した。批准するには、上院の3分の2にあたる16人の賛成票が必要となるが、フアン・ズビリ上院議長は上院での可決に自信を見せている。

― 中国からの批判
 中国政府は、3カ国首脳会合の翌日12日に、米国、日本、フィリピンが地域の平和と安定を損なう(自分たちの)行為を無視し、「中国の脅威」に対処するために軍事関係を強化すると誓約した3ヶ国首脳会談に強い反対を表明した。
 中国外務省の毛寧報道官は12日の定例記者会見で、「中国は関係国によるブロック政治の実践に強く反対する。緊張を煽り、促進し、他国の戦略的安全保障と利益を損なういかなる行為にも断固として反対する。 この地域で排他的なグループを形成することに真剣に反対している」と述べた。
 さらに、「一部の国は、中国の主権と権利を侵害し、海上で挑発するため、域外諸国の支援を求め続けている。彼らの行為が緊張を高めている。域外の特定の国が火に油を注いで対立を煽り続けている」と付け加えた。

― 経済協力への期待
 3月9日、ホセ・ロムアルデス駐米フィリピン大使は、この歴史的な3ヶ国首脳会合を前に、今後5年から10年で1000億ドル規模の投資が見込まれていると会合への期待を語った。
 3ヶ国首脳会合を終えフィリピンに帰国したマルコス大統領は、米国と日本は、グローバルインフラ投資パートナーシップ(Partnership for Global Infrastructure and Investment: PGII**)の下にルソン経済回廊を立ち上げ、フィリピンのインフラ開発と流通網、そして、オープンRANの導入、半導体産業のための労働力開発、原子力の平和的利用のための能力構築、鉱物安全保障パートナーシップ(MSP)フォーラムへのフィリピンの加入に対する支援を約束したと語った。つづけて、マルコス大統領は、米国滞在中に原子力エネルギーに関してウルトラ・セーフ・ニュークリア・コーポレーションとフィリピンのエネルギー多様化のための話し合いを行い、さらに、これまでもフィリピンへの多大な支援を行なってきたGoogle社の役員とインターネットインフラ支援について話し合ったことを強調した。
 加えて、マルコス大統領は記者団に対して、3ヶ国首脳会合が中国からの投資を損なうことはないと語った。

** PGIIは、2022年6月にドイツで開催されたG7首脳会議で発表された途上国インフラ投資協力の枠組み。G7各国は、2027年までに民間資金を含めて6000億ドルの途上国インフラ投資支援を目指すとしている。(日米比首脳会談、半導体や重要鉱物サプライチェーン強靭化で合意,JETRO 日本貿易振興機構(ジェトロ),2024年4月15日.)

― マルコスの楽観論を否定する中国
 3月14日、中国共産党中央委員会機関紙『人民日報』姉妹紙『環球時報』英文版Global Timesは、専門家の意見として、中国を刺激し、中国を批判している最中に中国からの投資を望むことは非現実的であるとして、帰国後のマルコスの中国投資への楽観的な期待を否定する論考を掲載した。

― 国内からの批判
 12日、左派系団体連合バヤンは、3ヶ国首脳会談の成果を批判する声明を発表した。声明は、この首脳会談が既存の二国間同盟を「ミニラテラル(多国間)」に統合することで、アジアにおける米国の経済的、政治的、軍事的優位性を強化するというバイデン大統領の計画の一環であり、米国と日本がフィリピン国民を犠牲にして中国と戦争させるものであると述べ、PGIIがフィリピン国内の軍事拠点を繋ぐ構想に基づくものであることを指摘して、経済的な支援も外国の軍隊の基地能力を延長するものだと非難している。
 マルコス大統領の姉であるアイミー上院議員も、大規模投資を皮肉混じりに歓迎しつつも、PGIIが軍事化を生じさせるだけではないかとの懸念を表明している。

〈Source〉
Biden, Kishida hold high-profile summit on stronger alliance, Philippine News Agency, April 11, 2024.
Biden says US support for Philippines, Japan defense ‘ironclad’ amid growing China provocations, AP, April 11, 2024.
China blasts US-Japan-Philippines summit, lodges representations, Global Times, April 12, 2024.
Marcos back in Manila from trilateral meeting in Washington, GMA News Agency, April 14, 2024.
Marcos says visiting forces deal with Japan ‘very close’ to completion, Inquirer, April 15, 2024.
Military Makikinabang? Imee Casts Doubt On Luzon Economic Corridor Backed By US, Japan, politico, April 14, 2024.
No War in Our Name: Expose and Oppose the Imperialist Trilateral Summit!, Face Book of BAYAN – Bagong Alyansang Makabayan, April 12, 2024.
PBBM: PH-US-Japan trilateral meeting a ‘continuing evolution’ of friendship, Philippine News Agency, April 15, 2024.
PH, US eyeing inclusion of Japan in ‘Balikatan’, Inquirer, April 16, 2024.
PRESS ROUNDUP – PRESIDENT FERDINAND R. MARCOS, JR. PARTICIPATES IN HISTORIC JAPAN-PHILIPPINES-U.S. TRILATERAL SUMMIT, The Embassy of the Republic of the Philippines, April 15, 2024.
日比米首脳による共同ビジョンステートメント, 首相官邸, April 11, 2024.
日米比首脳会合, 外務省, April 11, 2024.

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