フィリピン政経フォーカス
(2月21日~3月6日)

【写真】オーストラリア連邦議事堂でのマルコス大統領(左)の演説中、フィリピンで続く人権侵害を訴える緑の党上院議員(右)/via ICHRP Applauds Senator Janet Rice’s Protest During Marcos Address to Australian Parliament, ICHRP, March 1, 2024.

― 赤タグ付け報道官への有罪判決
 2月29日、最高裁判所が、マニラ地方裁判所の裁判官に赤タグを付けた間接侮辱罪で、政府の対反乱対策特別委員会および地方共産党の武力紛争を終わらせるための全国タスクフォース(NTF- ELCAC)の元報道官ロレイン・バドイ・パルトーサに有罪判決を下したことが公表された。バドイは3万ペソの罰金の支払いを命じられ、今後同じ行為を繰り返さないよう警告された。さらに、命令に応じなければ、より厳しい刑罰が科せられる可能性がある。
 バドイは、2022年9月23日のフェイスブックへの投稿で、フィリピン共産党(CPP)とその軍事部門新人民軍(NPA)を非合法化する司法省請願を却下した判事に対して、反政府勢力の「友人」であり「真の同盟者」であると語った。
 同判決は、弁護士グループが2022年10月にバドイに対して行なった請願に対するもので、2023年8月15日にすでに下されていた。その判決の公表が本年2月29日まで遅れた理由は謎に包まれたままである。

― 司法省によるキボロイ提訴命令
 司法省は、既に米国にて逮捕状が出されている新興宗教団体「イエス・キリストの王国(KCJ)」指導者アポロ・キボロイに関し、軽微な性的虐待と適格人身売買の提訴をダバオ市検察局に命じた。
 司法省ヘスス・クリスピン・レムリア長官は3月4日、司法省が4年以上係争中の審査申請を認めたことを受けて発表した。審査請求が認められた後、ダバオ市検察局は、共和国法 第7610号 または児童虐待防止法違反、特に未成年者への性的虐待の罪でキボロイを立件するよう命じられた。
 2014年に、キボロイはKCJ元会員によって性的虐待の容疑で告訴されていたが、ダバオ市検察局はその告訴を棄却している。

― 殺人警察官には厳しくなれない判決
 「息子の人生の価値はそれだけですか?」
 これは、「誤認」殺害された17歳のジェルホドゥ・「ジェンボイ」・バルタザールの母親、ロダリサ・バルタザールの言葉だ。彼の殺害に関与した警察官6人のうち5人がナボタス裁判所から釈放を命じられた後に発せられた。
 被害者の家族はまた、有罪判決を受けた警官の量刑の軽さと、同じく釈放を命じられた別の被告の無罪にも反対した。
 判決は、実行犯1人に対して懲役4年から6年、道徳的損害賠償および民事損害賠償として5万ペソの支払いも命じた。他の4人の警察官は、銃器の不法投棄の罪で有罪となり、最長4か月と1日の懲役刑を言い渡された。しかし、彼らはタギッグ市のマニラ首都圏刑務所での予防拘禁中にすでに刑期を終えていたため、裁判所は釈放を命じた。
 司法省は、ペドロ・ダブ・ジュニア裁判長による判決を検討する中で、あらゆる法的救済を尽くしていくと遺族に保証した。

― ビジネス取引契約
 オーストラリア訪問中のマルコス大統領は、3月4日に開催されたフィリピン・ビジネス・フォーラムで、15億3000万ドル(860億ペソ)相当の投資を伴ういくつかの商談を発表した。
 マルコス大統領は、同フォーラムにおいて、公務員法、外国投資法、小売貿易自由化法、再生可能エネルギー法の法改正を挙げ、投資拡大に向けた「目的のある改革」に取り組んでいると述べた。また、国の財政的インセンティブ構造の見直し、事業登録を合理化する法改正、包括的税制改革プログラム(CREATE法)にも言及し、参加した企業にフィリピンへの投資を呼びかけた。

― オーストラリア政治家はフィリピンの人権にも目を向けよ
 オーストラリアでのマルコス大統領の演説を受け、国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチはオーストラリアの議員らに対しフィリピンで続く人権問題を重く受け止めるべきだと訴えた。
 同団体は、「マルコス大統領のオーストラリア訪問は、オーストラリアの指導者らにとってフィリピンの人権侵害に取り組む重要な機会となる。それらを無視すれば、マルコスと蔓延する不処罰の文化が勇気づけられるだけだ。フィリピン国民は、人権を尊重し擁護することに関して、温かい言葉や空虚なレトリック以上のものを必要としている」と述べた。
 29日の演説において、オーストラリアの緑の党ジャネット・ライス上院議員は、マルコス大統領の演説中、「人権侵害を止めよう」と書かれたプラカードを掲げ続けた。その後、議会はライス上院議員を議場から退席させ、後に上院は議員を問責した。
 緑の党の外務報道官ジョーダン・スティール・ジョン上院議員は、マルコス大統領の議会演説への出席を拒否し、議会の外で行われているフィリピン人コミュニティの抗議活動に激しい連帯演説を行った。

― 上院議長更迭の外部圧力?
 憲法改正をめぐる上院と下院の対立が先鋭化し、下院の誘導による極秘裏でのフアン・ミゲル・ズビリ上院議長更迭の噂が囁かれる中、3月4日、24人中14人の上院議員がズビリ上院議長のリーダーシップを支持する声明に署名した。
 ズビリ上院議長は、自らを信じ支えてくれた上院議員たちに感謝を述べ、上院議長職を続ける強い意欲を示した。
 宣言に署名しなかったマルコス大統領の姉のアイミー・マルコス上院議員は、同日のインタビューに対して、ズビリ議長更迭の外部圧力が確かに存在することを認めた。

― 既に公職停止命令を受けている疑惑の仕掛け人
 新たな上院議長の座を狙っていると噂されるのはホセ・ピメンタル(ジンゴイ・エストラーダ)上院仮議長である。しかし、彼は4日のインタビューにおいて、自らの議長就任に関する噂をデマであると否定した。
 ジンゴイ上院仮議長は、幾つもの収賄疑惑と訴訟を抱えており、今年1月にも収賄罪で有罪判決を受けている。直接収賄の罪で懲役8-9年と罰金300万ペソの支払いを言い渡され、間接収賄では懲役2-3年、公職停止、選挙権の永久特別資格剥奪という刑罰が科せられている。刑罰に関しては、彼の上告の結果が示されるまで、執行されることはない。

〈Source〉
14 senators sign statement of support for Zubiri leadership, Inquirer, March 4, 2024.
DOJ orders filing of child abuse, trafficking case vs Quiboloy, Inquirer, March 4, 2024.
DOJ to review decision on Navotas teen’s slay, Inquirer, February 28, 2024.
ICHRP Applauds Senator Janet Rice’s Protest During Marcos Address to Australian Parliament, ICHRP, March 1, 2024.
Imee Marcos confirms ‘outside’ attempt to change Zubiri leadership, Inquirer, March 4, 2024.
Jinggoy Estrada acquitted of plunder, convicted of bribery in pork barrel scam, Rappler, January 19, 2024.
Jinggoy Estrada will be new Senate leader? ‘There’s no truth to it,’ he says, Inquirer, March 4, 2024.
Judge attacked online for junking terror tag on CPP-NPA, Inquirer, September 25, 2022.
Lorraine Badoy is guilty of indirect contempt for red tagging judge – SC, Inquirer, February 29, 2024.
Marcos vows ‘pushback’ if sovereignty over WPS ‘questioned, ignored’, Inquirer, March 5, 2024.
P86-B business deals signed during Marcos’ trip to Australia, Inquirer, March 5, 2024.
Philippines’ Marcos Addresses Australian Parliament Amid Abuses, Human Rights Watch, February 27, 2024.

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