私たち Stop the Attacks Campaign は27日、茂木敏充外相に対し、超法規的殺害の即時停止をフィリピン政府に要請することなどを求める申し入れを郵送しました。今年に入り、フィリピンでの超法規的殺害がエスカレートしていることを憂慮し、日本政府に対して緊急に対応を促すことにしたのです。
― 超法規的殺害に沈黙を続ける日本政府
申入書では、4月5日午後5時までに文書で回答するよう求めています。安倍晋三前政権はフィリピンのドゥテルテ政権を「戦略的パートナー」として、国軍や国家警察などに巨額な経済的支援や人的支援を続けてきました。その一方で、超法規的殺害に対しては抗議をすることなく、沈黙を続けています。
こうした日本政府の姿勢に対して、現地の関係者からは「日本政府によるフィリピン国軍、国家警察への援助は、市民殺害のほう助に等しい」との声も上がっています。
― 国軍や国家警察への経済的・人的支援の停止も
詳しくは以下をお読みください。また、PDFはこちらをご覧ください。
*
フィリピンにおける超法規的殺害の停止を求める緊急申入書
外務大臣 茂木 敏充 殿
国際人権監視 NGO Stop the Attacks Campaign
2021年3月26日
私たちは、ドゥテルテ政権下、悪化の一途を辿るフィリピンにおける人権侵害に関して強い危機感を持って います。国連人権理事会の報告書(2020年6月)においても、法的手続きを無視した国家警察による「捜査」、国軍・国家警察による殺人を含む暴力の横行、そして、それらが不問に付されている事実が報告され、深い憂 慮が示されました。
今年になってからも人権侵害はエスカレートするばかりで、超法規的殺害が多発しています。「麻薬取締」「共産党軍事部門・新人民軍(NPA)=テロリスト撲滅」に名を借り、農民や人権活動家ら、政権に異を唱える者たちが次々と殺害されています。
直近では、2021年3月7日の日曜日にルソン島カラバルソン地方で国軍と国家警察による一斉家宅捜索が実行され、9 人が殺害され、6人が逮捕されたことは貴殿もご承知のことと存じます。被害者のうち2人は、大規模ダム(カリワダム)建設に反対していた先住民族でした。「血の日曜日」と言われるこの事件の翌日には、人権団体カラパタン・ネグロス支部(KARAPATAN Negros)に殺害予告が送られてきました。そこでは、都市貧困層のグループや農民組織などのリーダーたちの氏名が挙げられ、「次はネグロスだ」と書かれていました。 ネグロスでは、トクハン・スタイルと呼ばれるこのような一斉家宅捜索は 2018年12月から実行されており、すでに20人が殺され、100人以上が逮捕されています。
日本政府は安倍晋三前政権以来、フィリピンのドゥテルテ政権を「戦略的パートナー」として、治安部門な どに巨額な経済的支援や人的支援を続けてきました。ODAの供与や防衛装備品の援助、そして民間企業による警戒管制レーダーの輸出を後押ししたことからしても、日本政府はドゥテルテ政権に対し、超法規的殺害をは じめとする人権侵害に強い非難の意を伝え、人権状況の改善を求める責任があります。しかし残念ながら、日 本政府はこれまで黙認を続けています。
2019年5月と11月に日本で開催したフィリピンの人権侵害に関するスピーキングツアーでは、全国砂糖労働者連盟の事務局長ジョン・ミルトン・ロサンデ氏や人権団体カラパタンの弁護士マリア・ソル・タウレ氏、 フィリピン農業労働者組合副議長・元下院議員アリエル・バリン・カシラオ氏らが、「日本政府によるフィリ ピン国軍、国家警察への援助は、市民殺害のほう助に等しい」と訴えました。
事態は深刻になるばかりです。そのため、私たちは日本政府に対し、以下の諸点を緊急に申し入れます。
(1) 超法規的殺害をただちにやめるよう、フィリピン政府に要請すること
(2) 超法規的殺害をはじめとした人権侵害についてフィリピン政府に説明を求めること
(3) 超法規的殺害に関する国連人権理事会や国際刑事裁判所による調査を受け入れるよう、フィリピン政府へ要請すること
(4) フィリピン国軍や国家警察への経済的・人的支援の停止並びに開発援助及び防衛装備移転などを中止すること
私たちは日本政府がフィリピン政府に対して速やかに適切な対応をとられることを求めます。また、上記4点に対する回答も求めます。2021年4月5日午後 5 時までに、国際人権監視 NGO Stop the Attacks Campaign (ストップ・ザ・アタックス・キャンペーン)の電子メール(sac01@protonmail.ch)まで文書にて回答されるよ うお願いいたします。
【賛同団体】 2021年3月26日現在
一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター
医療法人ことぶき共同診療所
インドネシア民主化支援ネットワーク
神奈川県勤労者医療生活協同組合港町診療所
カラバオの会(寿・外国人出稼ぎ労働者と連帯する会)
草の根援助運動
国際環境 NGO FoE Japan
特定非営利活動法人 日本国際ボランティアセンター
名古屋 NGO センター政策提言委員会
日本国際法律家協会
【参考資料】
最近発生した人権侵害の一部を以下に挙げる。(Stop the Attacks Campaign フェイスブックページなどより)
1) 2019 年 3 月、ドラッグ撲滅対策の予備調査に着手するという国際刑事裁判所の動きに呼応し、国際 刑事裁判所に関するローマ規定から脱退。
2) 現ドゥテルテ政権発足以来 2020 年までに、国家警察の報告によると、約 8,000 人がドラッグ関連捜査において殺害された。他方、国家人権委員会は、実際には約 24,000 人が殺害されていると想定し ている。(Human Rights Watch, https://www.hrw.org/news/2021/01/13/philippines-drug-war- killings-rise-during-pandemic など)
3) 2020年8月までに、権利を主張する農民組織メンバーや人権活動家、弁護士など328人(うち264人 は農民)が殺害され、不当逮捕者数は 3,500 人以上に上る。(フィリピン人権団体 KARAPATAN)
4) 2020年5月、現政権に批判的な同国内最大手の民放テレビ局に業務停止命令。
5) 2020年、同大統領や「地方共産党の武力紛争を終わらせるための全国タスクフォース: NTF-ELCAC」
のスポークスパーソンなどによる、公けの場での政権に批判的な人物や団体に対する「レッド・タッ
ギング(共産主義者だとのレッテルを貼り差別する)」と攻撃のエスカレート。
6) 2018年12月27日早朝、ネグロス島東ネグロス州において、国軍や国家警察による合同部隊が人権 活動家や農民組織メンバーなどの自宅を一斉家宅捜索し、6 人を殺害、数十人を虚偽の罪により逮捕。
7) 2019年3月30日早朝、ネグロス島東ネグロス州において、合同部隊が人権活動家や農民組織メンバ ーなどの自宅を一斉家宅捜索し、14 人を殺害、数十人を逮捕。治安当局は、容疑者が抵抗したので撃ったと説明しているが、人権団体等による調査から、全被害者が無抵抗であったことが明らかになっ ている。(FINAL REPORT OF THE NATIONAL FACT-FINDING AND SOLIDARITY MISSION IN NEGROS ORIENTAL, PHILIPPINES April 4-8, 2019, KARAPATAN)
8) 2019年10月31日、西ネグロス州バコロド市において、労働組合や農民組織などの事務所やメンバ ーの自宅が一斉家宅捜索され、55人が逮捕、11人が虚偽の武器不法所持の罪状により起訴された。
9) 2020年12月、ボホール島ボホール州において、農民団体などの関係者少なくとも6人が虚偽の罪で 警察によって訴訟を起こされた。彼らは、JICA 支援案件であるボホール灌漑事業が引き起こした問題の解決にも積極的に取り組んできた。
10)2020年12月30日早朝、パナイ島のカピス州とイロイロ州において、合同部隊が一斉家宅捜索を実行し、先住民族の農民 9人を殺害、16人を逮捕した。
11)2021年2月、紛争から逃れるためにミンダナオからセブ市にあるサン・カルロス大学に避難していた19人の青年と教員数人が、国家警察によって連行された。当局は「保護した」と主張したが、実際、泣き叫ぶ青年たちは手錠をかけられ強引に連れて行かれた。
12)2021年2月、前年8月に 反テロ法によって逮捕された先住民族の農民2人が、逮捕されたあと6日間にわたり拷問されていたことが発覚した。(動画はこちら。Distraught Aetas caught in a war, Rappler, February 11, 2021)
13)2021年3月7日早朝、ルソン島カラバルソン地方において、合同部隊が農民組織や漁民組織、都市貧 困層グループのメンバーの自宅を一斉家宅捜索し、9 人を殺害、6 人を逮捕した。被害者のうち 2 人 は、カリワダム建設に反対していた。