【東京=26日】7月20日、ティナン83のうちの9人が、あらたに児童搾取の容疑で告訴されたことが判明した。同日、83人のうち人身売買容疑で告訴された6人が予備審査のためにタルラック州検事補事務所に出頭したところ、ミラ・マエ・モンテファルコ タルラック州検事補からその事実を告げられたという。ティナン83にかけられた容疑は、これで7件になった。
ティナン83:6月9日に、タルラック州コンセプション町ティナン村にあるサトウキビ大農場(アシェンダ)ティナンで、農場労働者(農民団体マキサマのメンバー)とその支援者ら83人が一斉に逮捕された。この時、彼らは、包括的農地改革計画(CARP)に基づけばマキサマのメンバーらが分配されるはずの農地の一角で農作業をしていた。逮捕された場所と人数から、被害者らはティナン83と呼ばれている。
7月20日、ティナン83のうちの6人は、6月17日に告訴された人身売買容疑に関する予備審査のためにタルラック州検事補事務所に出頭した。だが、裁判地の変更を求める83人の請願書に対する裁決が下るまで、予備審査は延期されると告げられた。また同事務所において、被告らは、この6人を含む9人への児童搾取容疑に関する告訴状のコピーを、モンテファルコ検事補から渡された。農業労働者連盟(UMA)は7月20日の声明において、これは、司法を利用した明白で低俗な嫌がらせだと非難し、権力の乱用に関する責任を当局に取らせるために、法的手段を尽くすと述べている。
児童搾取の容疑をかけられた9人のうち5人は、ドナ・ミランダ、アンジェロ・スアレス、ピア・モンタルバン、ジョイス・ゴドイ、アラン・ボニファシオ。
― ティナン83にかけられた7件の容疑
6月9日に逮捕されたのちに、83人は「悪質な器物損壊(malicious mischief)」と「違法な集会(illegal assembly)」に関する容疑で告訴された。続いて、17日には、「抵抗と不服従(resistance and disobedience)」、「司法妨害(obstruction of justice)」、「不動産侵奪(usurpation of real rights)」の容疑に関する召喚状が被告らに渡された。さらに、19日、83人のうち農民擁護者6人が「人身売買(human trafficking)」の容疑で告訴され、20日、上記のとおり、「人身売買」容疑で告訴された6人を含む9人が「児童搾取(child exploitation)」の容疑でコンセプション警察によって告訴された。合計7件の容疑がティナン83にかけられたが、「悪質な器物損壊」と「違法な集会」に関する告訴は、6月27日、カパス・バンバン・コンセプション巡回裁判所によってすでに却下されている。
国家人権委員会は、恣意的な逮捕の可能性を疑い調査を開始したと、まにら新聞などが報じた。また、農民グループや支持者らは、ティナン83(当初は93人)の一斉逮捕は不当だとし抗議集会を開き、7月7日には83人のうちの23人がこれらの案件を担当するモンテファルコ検事補に対する行政上の不服を司法省へ申し立てている。同検事補が、土地紛争を管轄する農地改革省(DAR)への照会を拒んだこと、原告の訴状に関する審問を1分足らずで終え供述を途中で遮ったこと、などがその理由である。
告訴とそれに関連する出来事は以下のとおり。
・6月11日 83人が「悪質な器物損壊」と「違法な集会」で告訴された。
・6月12日 合計120万ペソの保釈金を支払い83人が保釈された。
・6月17日 コンセプション地方裁判所における「悪質な器物損壊」と「違法な集会」に関する予備審査の中で、「抵抗と不服従」、「司法妨害」、「不動産侵奪」の容疑に関する公聴会(6月29日開催予定)の召喚状が被告らに渡された。
・6月19日 83人のうち農民擁護者6人が人身売買の容疑で告訴された。
・6月20日 農地改革省(DAR)が、アシェンダ・ティナン内の200ヘクタールの土地の受益者178人を公表した。この件については、事項において述べる。
・6月27日 カパス・バンバン・コンセプション巡回裁判所のアントニオ・パンガン裁判官が、「違法な集会」と「悪質な器物損壊」に関する告訴を却下。
・7月7日 83人のうちマキサマのメンバーとその支援者23人が、審問を行ったモンテファルコ検事補に対する行政不服を司法省へ申し立てた。
・7月8日 83人は「抵抗と不服従」、「司法妨害」、「不動産侵奪」の容疑に関する裁判地の変更を求める請願書を提出。
― 単純な「地主vs農民」の対立としては語れないアシェンダ・ティナンの土地紛争
ティナン83逮捕の背景には、「農民団体マキサマ」と、ノエル・ヴィリアヌエヴァ コンセプション町長(前下院議員)一家らが1998年に設立した「ティナン多目的共同組合」との土地紛争がある。農民団体マキサマは、CARPに基づけば自分たちに分配されるはずの土地を耕作していたのだが、ティナン多目的共同組合は「農民団体マキサマが自分たちの土地を侵奪した」と訴えた。これが、マキサマのメンバーを含む83人の逮捕につながった。
だが実際、マキサマのメンバーは当該地の所有者であり、その事実をDARも認めていた。1995年の時点で、当該地の土地所有裁定書(CLOA)はマキサマのメンバーを含む236人の農場労働者に対して発行されていた。2016年まで、CLOAの存在は受益者であるマキサマのメンバーらに明かされなかった。だが、同年にCLOAの存在を知ったメンバーらは、DARに対し手続きを進めるよう訴え、DARもマキサマのメンバーらが受益者であることを承認し、手続きを進めるよう指示してきたのである。CLOAは、CARPの対象者であると認められた者が授与される証書で、これを受け取った者は、30年かけて地代を完済し、その土地の所有者となる。
一方で、オンライン・ニュースサイト・ラップラーによれば、ヴィリアヌエヴァ町長は、現在、1998年にティナン多目的共同組合に対してCLOAが発行されていたと主張している。当初236人にCLOAが発行されていたが、再度審査され、236人のうちの50人が受益者リストから除外され、あらたに100人ほどが加えられていたという。だが、ヴィリアヌエヴァ町長が主張するCLOAの写しはDARに保存されていない。同町長は、写しを保存していないDARを非難している。
6月20日に、DARがあらためてCLOA保持者の名前を公表した。だが、公開されたリストには236人ではなく178人が挙げられ、マキサマのメンバー94人に対して約76ヘクタール、多目的共同組合員84人に対して124ヘクタールが分配されることになっていたとラップラーが報じた。つまり、当初、CARPの受益者として承認されていなかった多目的共同組合員が加えられていた。
そのうえ、7月6日に、DARの役人が、CARPにおける当該地の受益者としてさらに58人を加えるか否かを審査していると明らかにした。マキサマの弁護を担当するジョベルト・パヒル弁護士はラップラーの取材に対し、多目的共同組合からwin-win解決を持ち掛けられたと述べた。マキサマが農地分配の受益者増員に応じれば、83人への告訴は却下されるというのである。ラップラーによれば、もし、受益者を増員すると、マキサマのメンバーへ分配される土地は半分、ひとり当たり約0.8ヘクタールとなり、他方で、多目的共同組合には40ヘクタール増大した164ヘクタールが分配されることになる。
ラップラーのジョアン・マナバットらは、「多くの研究が、同業者である農民同士の対立と、農民らを分割統治する戦術とを結びつけて考えている」と指摘している。地主や大農場主らは、強力な政治家一族の手先である官僚を利用して、マキサマと多目的共同組合とが紛争を抱えるにいたったように、農民らを分断し統治しているというのである。
〈Source〉
CHR probes alleged arbitrary arrest of Tarlac farmers, activists, Inquirer, June 14, 2022.
Land rights champions face more charges from Tarlac prosecutors, KODAO PRODUCTIONS, July 21, 2022.
Tarlac farmers in land row seek CHR help vs cops, Inquirer, June 14, 2022.
‘Win-win’ solution halves MAKISAMA-Tinang’s share of agrarian reform land, Rappler, July 20, 2022.
ティナン83の農民ら、モンテファルコ検事補に対する行政不服を申し立て, Stop the Attacks Campaign, 2022年7月12日.
土地分配求める農民ら逮捕 人権委も独立調査開始, まにら新聞, 2022年6月16日.