クラリッサ・シングソン(カラパタン・ネグロス支部事務局長)
青年活動家グループ、アナックバヤン・ネグロスの議長ハーリン・バローラ(26歳、愛称ベベ)がでっち上げの容疑で逮捕されてから、すでに一月以上が経過した。ベベは武器・弾薬不法所持、爆発物不法所持、選挙管理委員会の銃禁止令に違反した容疑で起訴され、まもなく西ネグロス州バコロド市にある拘置所に移送されることになる。ベベの支援者らは、3月28日にもまた、プレスカンファレンスを開き、ベベの無実と釈放を訴えた。
私が亡命先のドイツでこの事件を知ったのは、事件が起きた当日2月19日だった。私はベベのことを知っているし、また、彼女に対する容疑はねつ造されたものだと分かっていたので、このような容疑で逮捕されたことにショックを受けた。
私がドイツへ亡命するまでの経緯は、『世界』の連載「ネグロスからの手紙 特別編(上・中・下)」をご覧頂きたい。
― フアニト・マグバヌアの代わりに?逮捕されたべべ
ベベは、2月19日午前6時頃、西ネグロス州イサベラ町カマン-カマン村の農民コミュニティで、一時的に滞在していた家に家宅捜索に入った西ネグロス州警察と国軍・特別行動部隊から構成される合同部隊によって逮捕された。令状はなく、でっち上げられた武器不法所持容疑の現行犯逮捕だった。
目撃者によると、午前2時頃、武装した500人以上の工作員が、カマン-カマン村モンタラ地区にある8軒の家を家宅捜索した。合同部隊は、「あなたたちは私を逮捕する権利を持たない」と抗議するベベを、殴り、抑え込み、そして、弾の入ったバッグや銃をベベのわきに置いたという。
この時、合同部隊は、共産党軍事部門新人民軍(NPA)のリーダーであるロメオ・ナンタ、別名フアニト・マグバヌアを捕らえようとしていた。彼らはナンタを発見することはできず、令状が出ていないベベを逮捕した。
― 抑圧や搾取を生みだす封建的な社会の仕組みを変えたかった
ベベは、農民団体のまとめ役をしている農場労働者の両親のもとに、4人姉妹の2番目の子として生まれた。子どもの頃から農民たちの苦難や不平等を身をもって体験し、ベベは封建的な社会の仕組みから生まれる抑圧や搾取に気づいていた。彼女の両親は、長い間、それを終わらせるために闘っていた。こういった経験が、ベベを啓発し、そして、彼女が公正な社会を目指して闘い奮闘する動機付けとなっている。
他の子どもたちと同じように、ベベは学位を取って収入のよい仕事に就くことを願い、高校へ入学し、よい成績を修めた。ベベはジャーナリストになりたかったが、彼女の家族には学費を支払う経済的余裕はなく、大学進学を断念せざるを得なかった。
ベベは、ネグロス島において農民らを組織化する青年活動家になり、その利発さを発揮した。彼女は、2012年以来青年リーダーとして、都市貧困層や農村のコミュニティにおいて、サトウキビ大農場(アシエンダ)などにおける劣悪な労働環境の改善を目指し、人びとに民主的権利を伝え、人びとを組織化、動員してきた。
歴史映画鑑賞やクロスステッチが好きで、控えめで謙虚。どちらかというと「インドア派」的なベベのイメージとはうらはらに、彼女が見せる困難に立ち向かう姿勢や迫害の中にあっても勇気を持ち続ける姿は、彼女の誠実さと強さを表していた。
― ボランティアの教員補佐、人権侵害の調査チームメンバーとして
ベベの書くことへの関心は、彼女が学生ジャーナリスト、高校出版部の編集スタッフになった時に、開花した。ベベはまた、詩のような文学作品や、長年にわたって彼女にインスピレーションを与えてきた人びとの物語を書くのが好きだ。
活動家になって何年かして、書くことへの情熱を持ち続けたベベはキリスト教会労働教育研究機構(Ecumenical Institute for Labor Education and Research, Inc.:EILER)が運営するバンタイ・バリック・エクスウェラと呼ばれる教育活動に、ボランティアの教員補佐として参加した。これは、農村の子どもたちに読み書きを教える活動だ。
ベベは、中山間地域に位置する不便な農村地域まで何キロも山を登り、時には川を歩いて渡ったりしながら、学校へ通えない子どもたちに勉強を教えに行った。ベベはまた、人権侵害に関するキャンペーンや監視チームのメンバーで、ネグロス中で発生する人権侵害の現場調査に常に参加していた。そのチームは、定期的に中山間地域の農村を訪問し、解決されない人びとの困難や問題について調査し、監視し、支援していた。逮捕された時も、ベベは、台風オデットの被害を受けた人びとと、地方自治体に要請する支援内容を相談していた。
― 自らの知恵やエネルギー、いのちを人びとに捧げた青年ら
ドゥテルテ政権が人びとのニーズを満たすことに失敗している間に、地方共産党の武力紛争を終わらせるための全国タスクフォース(NTF-ELCAC)を介したその殺人的な反乱鎮圧作戦は人びとの民主的な権利を侵害し、人びとの中に恐怖を振りまき続けている。
SAC-Japanの「おはよう!フィリピンニュース」でも紹介されたマイルス・アルバシン(逮捕当時21歳)や私が「ネグロスからの手紙」で紹介したカリーナ・デラ・セルナ(逮捕当時19歳)が数年前に、そして今、ベベが逮捕された。これらの攻撃は、このファシスト政権が続く限り、決して止むことはないだろう。彼らは、どんな困難があっても、自らの知恵やエネルギー、いのちを人びとのために捧げた人たちである。
ベベを解放するための呼びかけに参加してください!
すべての政治犯を解放せよ!
〈筆者プロフィール〉
1978年生まれ。大学在学中から人権擁護活動のリーダーとして活動。カラパタン・ネグロス支部事務局長・全国協議会メンバー、女性団体連合ガブリエラ・ネグロス支部議長などを務める。現在、亡命中のドイツを拠点に活動。