【コラム】それでも歩みは止めない:若い活動家たちが「慰安婦」問題に関わるワケ(後編)

【写真】1992年9月18日、マリア・ロサ・ヘンソンさんが比人「慰安婦」被害者として初めて名乗り出て記者会見を行った。その記念すべき日から30年が経ち、記念のイベントが行われた=2022年9月17日撮影、マニラ首都圏パラニャケ市、リラ・ピリピーナ提供。

福田美智子(パマナ・リン・タヨ:Pamana Rin Tayo)

 今回は、10月30日のインタビュー記事の続きをお届けします。フィリピンの「慰安婦」サバイバーの団体「リラ・ピリピーナ」で活動するユースボランティアの皆さんに「慰安婦」問題ならでは、そしてフィリピンならではの大変さについて語ってもらいました。

ジェニーさん(仮名)マニラ首都圏在住、28歳
ジョイさん(仮名)ビサヤ地方在住、30歳
マリエルさん(仮名)ビサヤ地方在住、20歳
ジョシュアさん(仮名)主にマニラ首都圏在住、25歳

― 集会を始めて5分後に警察がやって来た

Q:「慰安婦」問題に関わる大変さは?

 ジョシュア:やはり多くのロラたちが亡くなったこと、存命のロラも多くに認知機能の衰えがあることです。あと自分にとってつらいのは、どう言えばいいんだろう、感情的なしんどさがあることです。ロラたちはもう晩年期でずっといてくれるわけではないこと、そして彼女たちが生きている間には正義を得られないだろうことは受け入れざるを得ません。でも個人的なつながりがあるからそれが余計につらいんです。
 別の課題は、どうやってこの活動にもっと多くの若者を巻き込むか、この問題についての議論を深めるかということです。
 マリエル:「慰安婦」問題に限りませんが、前政権や現政権による活動家への弾圧もあります。コロナ禍も市民運動の抑圧に利用されました。こんな状態で知名度の低い「慰安婦」問題の活動をするのはすごく大変です。私達の街ではボランティアは二人だし、マニラだってフルタイムのスタッフはいません。資金的にも厳しいです。
 ジェニー:たいてい極左とか共産主義者とレッテルを貼られますしね。
 マリエル:実際、命の危険を感じますよ。最近、戦争に関係する史跡の前で集会を開いたんですが、すぐに警察がやってきて解散させようとしてきました。10人にも満たない小規模で平和的な集まりだったのに。ジョイが「あと5分だけ」と警察と交渉したんですけど。
 ジョイ:リラ・ピリピーナの30周年記念のイベントでした。開始から 5 分後、警察の車が2台やってきて、ずっと私たちの方を向いていました。もともと、警察署長は「30分以内なら歩行者の迷惑にもならないし、許可を取らなくてもよい」と言っていたんです。でも彼らは私たちが混乱を引き起こしていると言ってすぐに解散させ、私たちが引き上げるまでまわりをうろついていました。若いメンバーは捕まるかもと怖がっていました。ソーシャルメディアに写真をアップロードできたし、成功だったとは思いますけどね。
 行政側が、戦争中の日本の残虐行為に触れたがらないんです。以前、市長と話す機会がありました。街の広場に活動家や超法規的殺害の被害者を追悼する碑があって、そこに「慰安婦」像も建てたいと話したら、やはり良い反応ではありませんでした。そんなことをしたらネガティブな影響がある、日本がここでやったことは忘れて前に進むしかないと言うんです。おそらく、日本がトップクラスの支援国だからでしょう。この島でもJICAが出資する洪水制御プロジェクトがあります。

【写真】2021年に実施したオンラインイベントのフライヤー。ロラだけでなく韓国のハルモニや比の先住民族の女性などにも連帯を表すデザインになっている。PARTも協力し、ミャンマー人学生や英国人ジャーナリストなど多彩なスピーカーが登場するイベントとなった=2021年4月24日投稿、リラ・ピリピーナFBページより。

 ジョシュア:「70年以上も前に起きたことだ。正義を追求することに何の意味がある」という反応は時々ありますね。でも、日本人が戦時中の日本の残虐行為を忘れて、歴史の修正と歪曲をすれば、侵略戦争や軍国主義、軍隊による性的暴力が再び起きることにつながるのではないですか。実際フィリピンでは歴史修正主義が権力者の道具にされ、独裁者が台頭しました(注:マルコス現大統領のこと)。
 マリエル:でも変化もあって、ソーシャルメディアで「慰安婦」問題が“リバイバル”しているようにも思います。「自分の祖母が『慰安婦』だったことを知った』というようなつぶやきをよく見るようになりました。私達Z世代の若者にとって、「慰安婦」について話すことはタブーではありません。フィリピン人女性が被害者なので、フィリピンの若者はよりロラたちに共感するのだと思います。

【写真】「慰安婦」問題に関わる若い世代を対象にした韓国での国際会議に参加したリラ・ピリピーナのユースボランティア達=2022年8月、韓国昌原(チャンウォン)市、Yi Jacquiさん提供。

― 先人の努力を無駄にはできない

Q:フィリピンで活動家になるということは、時には命の危険にさらされること。それでも活動を続けるモチベーションは何なのでしょう?

 ジョシュア:私はロラたちの証言、そして過去の活動の写真にも大きな影響を受けました。暴力やトラウマを経験しながらも正義のために闘うロラたちの姿に、希望を感じたんです。彼女たちの努力を無駄にしたくないといます。
 マリエル:私たちは歴史的に間違ったことが起きたと知っています。それを正すために行動をする、本当にシンプルなことだと思います。より尊厳ある生き方のために血を流した先人たちの長年の闘いを継続したい。それだけです。 
 ジョイ:未来のため、次の世代のためという思いが強いです。今行動しなければ、誰がそれをやるんでしょう?特に私達は、人々の闘いやその重要性を学ぶことができたという恵まれた立場にあります。今のフィリピンの女性運動がこうしてあるのは、以前から闘ってきた人たちのおかげです。だからこそ、歴史上起こったことが二度と起こらないようにするためにも、若者としてこの運動に参加することは重要だと思います。
 ジェニー:同感です。私たちの動機の根底には、歴史の中で起こったことがあります。例えば、私の祖母は「慰安婦」にさせられたし、戒厳令時代の叔父は活動家でしたから、その苦労を無駄にはしたくないんです。私たちは家族や先人達と世代間にわたるトラウマ(inter-generational trauma)を共有していると感じます。
 以前の私の主な動機は学ぶことでした。でも、実際にリラ・ピリピーナに身を置いてみて、私達の闘いは未来のためでもあると気付きました。今も世界には戦争があり、フィリピンの海にも脅威があります。だから平和のために歴史から学ぶのはとても大事だと思います。それもあって、私は祖母のことをもっと知ろうとしています。記事や映像、リラ・ピリピーナの資料から、祖母が私に語りかけているような気がするのです。祖先の物語を再発見しているような感覚があって、それが私のモチベーションになっているのでしょう。
 ジョイ:それに、私たちは、日本や韓国、「慰安婦」サバイバーがいる他の国々の若者ともつながって、お互いの経験や教訓を分かち合うこともできると思っています。

【写真】若い活動家のモチベーションとインスピレーションの源泉となっているロラ達。90代の今も活動に身を投じている。写真はロラ達を支援する教会でのミサや記念イベントの様子。この教会の敷地には、マニラ市で撤去された「慰安婦」像が設置される予定だったが像は行方不明に。現在は台座だけが残されている=9月17日撮影、首都圏パラニャケ市、バクララン教会提供

〈参考ホームページ〉
リラ・ピリピーナFBページ https://www.facebook.com/lilapilipina1992
リラ・ピリピーナウェブサイト https://lilapilipina.org/

〈筆者紹介〉
ふくだ みちこ。「パマナ・リン・タヨ(PART)」設立メンバー。2013〜14年、フィリピンのアテネオ・デ・マニラ大学とコスタリカの国連平和大学の修士課程で「ジェンダーと平和構築」を学ぶ。アテネオ大在学中はリラ・ピリピーナの活動拠点でありロラたちのシェルターであるロラズセンターに下宿。卒業後もリラとの活動を継続し友人らとPARTを立ち上げた。
パマナ・リン・タヨ(PART)FBページ https://www.facebook.com/PamanaRinTayo

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