【8日=東京】米国の人権NGOが贈る今年度のウィリアム・D・サベル人権賞を受賞したフィリピン人権擁護NGOカラパタンが、フィリピン最高裁のアレクサンダー・ゲスムンド長官と司法省へ要請書を提出した。要望書では、人権アクティビストや弁護士、労働組合員、教員、医療従事者ら人権擁護者への殺害や恣意的逮捕・拘禁の停止などを求めた。オーストラリアやカナダなど国内外の百を超える団体が賛同し、日本からは国際人権監視NGOストップ・ザ・アタックス・キャンペーン(SAC)やフィリピントヨタ労組を支援する会も名を連ねた。
提出は5月18日。その後も賛同団体を追加で募り、6月7日現在で103団体になった。
─「超法規的殺害の調査とその責任の追及を」
要望書では、国家が法的な手続きを経ないで市民を殺害する超法規的殺害の調査とその責任の追及を求めたほか、超法規的殺害の被害者を法的に保護することも求めた。また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う生活状況の悪化が進行するなか、市民が自宅から食料や日用品持ち寄り、助け合う「地域の食糧庫(コミュニティ・パントリー)」運動の主催者にまで「レッド・タッギング(共産党とのレッテルを貼り差別する)」が及ぶ現状に深い憂慮を示した。
要望書では、政府による人権侵害の実例を詳しく記述している。
2020年12月30日にカピス州で先住民族のリーダー9人が殺害されたことに続き、今年3月には、労働組合員や漁民のリーダー、都市貧困層の活動家ら8人が殺害された。ほぼ全員が、「抵抗した」という理由で、国家警察や国軍の作戦の過程で殺害されていると指摘した。
─ 「抵抗したから撃った」という方便
「抵抗したから撃った」という方便は、フィリピン国家警察が同国における違法薬物撲滅作戦のなかで主張し続けてきた殺害の理由だ。カラパタンは要望書で「(同じ方法が)いま活動家の殺害に導入された」と主張 「抵抗したから撃った」という方便している。
また、2020年に制定された反テロ法に反対する申立人を支援する弁護士や、人権派弁護士も脅迫にさらされ、今年3月には、人権弁護士アンジェロ・カール・ギレンが刺されて受傷した。また、次々に、人権擁護者が冤罪により逮捕され、勾留されていることを指摘した。
─「レッド・タッギング」で標的
殺害された人たちはいずれも、以前から「レッド・タッギング」されていた。最近では、「地方共産党の武力紛争を終わらせるための国家タスクフォース」の政府高官が、「地域の食糧庫」を始めたアナ・パトリシア・ノンをはじめ、その活動に携わる大学、ジャーナリスト、司法機関や上院職員の組合員を含む公共部門の組合幹部、教育者、保健師らも「レッド・タッギング」の標的になっていると、カラパタンは指摘した。
〈解説〉最高裁判事15人中13人をドゥテルテ大統領が任命
アレクサンダー・ゲスムンド最高裁長官は、2017年8月にドゥテルテ大統領によって最高裁判事に任命された。これで、ドゥテルテ大統領が退任する2022年6月30日、最高裁判事15人のうち13人が同大統領に任命された判事で構成されることになる。
ゲスムンド最高裁長官の最近の注目すべき判決の一つは、外国企業にフィリピンの建設業者と同様のライセンスを与えることを許したことだ。また、2018年には、レイラ・デ・リマ上院議員の逮捕を正当であると判決した。レイラ・デ・リマ上院議員は、2017年より、違法薬物取引の容疑で逮捕・勾留されている。本人は容疑を否定している。リマ上院議員は、ドゥテルテ大統領の違法薬物撲滅作戦や人権活動家などへの超法規的殺害などを、明確に批判してきた。それだけでなく、ドゥテルテ大統領のダバオ市市長時代には、フィリピン人権委員会の議長として、ドゥテルテ大統領が組織したとされるダバオ暗殺部隊に関する調査を率いた。
〈Source〉
Rights groups, victims urge SC anew to take urgent action to protect rights defenders vs red-tagging, arrests, killings, Karapatan, May 18, 2021.
Chief Justice Alexander Gesmundo, Philippine Center for Investigative Journalism, March 5, 2021.
Duterte chooses Alexander Gesmundo as new chief justice, Rappler, April 5, 2021.
By 2022, Supreme Court filled with Duterte appointees, Rappler, July 30, 2018.
De Lima on death squad probe: ‘Davao under spell of ruthless king,’ Inquirer.Net, March 9, 2017.
コロナ禍に物資持ち寄り、助け合い 各地で「地域の食品庫」運動 政府は拡大に神経とがらす, Stop the Attacks Campaign, 2021年5月9日.
コロナ禍で助け合う「地域の食料庫」運動 下院が主催者を表彰へ 国家警察幹部は「身辺調査しない」と主催者に謝罪, Stop the Attacks Campaign, 2021年5月29日.