【コラム】人びとの展望

【写真】第1回閣議, July 5, 2022. via Tweet of #31M & #32M strong 💪🏼❤️💚 @hannahhazel_98 on July 5, 2022.

トレリー・A・マリグザ(正義と平和のために働く女性たちのネットワークJaPNet議長)

 2022年のフィリピン選挙は、マルコス―ドゥテルテ政権をもたらした。選挙管理委員会は、フェルディナンド・マルコス・ジュニア(「ボンボン」マルコス)とサラ・ドゥテルテ・カルピオ(サラ)それぞれが、3170万票と3220万票を獲得したと宣言した。しかし、次のような根拠に基づき、大規模な不正が行われたのではないかという懸念も広がっている。それらは、1)自動的・電子的な不正行為-不透明で脆弱な自動選挙システム、2)大量の票の買収と大衆の欺瞞-偽情報に基づく偽りの選択、3)反対派への攻撃-赤タグ付け、嫌がらせ、弾圧、である。

―「データの科学的操作による歴史修正だ」

 「ボンボン」マルコス大統領の政治課題は、ケンブリッジ・アナリティカ・グループを利用して汚名に塗れたマルコス家の名誉を回復させること、不正に得た富を取り戻し、確保し、増やすこと、そして、政治権力の支配を維持することにほかならない。
 オンライン・ニュースサイト・ラップラーによれば、ケンブリッジ・アナリティカの従業員から内部告発者に転身したブリッタニー・カイザーは、「フェルディナンド・マルコス・ジュニアがアナリティカに、ソーシャルメディアにおけるマルコス家のイメージを『再ブランド化』するよう依頼した」と明かした。アナリティカは、マイクロターゲティング※※と偽情報戦術を展開した。個人データを使用して有権者の思考や感情を操作し、その依頼を遂行していたという。さらに、「これは、データの科学的操作による歴史修正である。ある家族や個人、政治家について、人びとが何を信じているかを把握するために十分な調査を行い、それを否定させるために何ができるかを分析するのである」と、カイザーはラップラーに語った。

ケンブリッジ・アナリティカは、英国に本社を置く選挙コンサルティングに特化した会社。2016年の英国のEU離脱国民投票や米国の大統領選でそれぞれ、離脱派、トランプ派の陣営に立ち勝利の原動力となったとされる。(前嶋和弘,ケンブリッジ・アナリティカ社問題, 論座,2020年5月17日.)
※※マイクロターゲティングは、対象とする有権者の性格や信条、行動を把握することで、より効果的な選挙戦略を構築する手法を指す。近年、その効果が向上し、選挙結果を左右しかねない可能性があり、その規制が議論されている。マイクロターゲティングでは、有権者を年齢や性別、居住する地域などの人口動態データよりも、もっと細かい単位で把握することを目指す。データ分析者は、データブローカーがもたらす消費者データと有権者登録、国勢調査を照合し、それを使って個々の有権者が誰に投票するかを予測する。(吉田拓史,マイクロターゲティングの台頭 データ科学は有権者を操作可能か,アクシオン,2020年1月29日.)

― 閣僚の多くはマルコス家とドゥテルテ家の同郷人、マルコスの取り巻きや父マルコス・シニア政権時代に仕えた家族

 フィリピンのシンクタンク・イボンは、大統領の90%、上院議員の60%、下院議員の51%、知事の80%、市長の53%が、わずか200?250の家族の出であるという事実から、政治的王朝の広がりと悪化が示唆されると述べる。現在、「ボンボン」マルコス大統領の家族や親族が、少なくとも20人、政府機関の要職に就いている。
 マルコス・ジュニアの閣僚と主要な被指名者を介した政治的権力と影響力の配分は、現政府のプログラムやプロジェクトの大きな特徴になるであろう。閣僚の多くは、マルコス家とドゥテルテ家の同郷人(アルセニオ・バリサカン、アントニオ・エルネスト・F・ラグダミオ、リリア・ギリエルモ)、マルコスの取り巻きやマルコス政権時代に仕えた家族(スーザン・V・オプレ、ビエンヴェニド・ラグエスマ)、活発な選挙活動担当者(ヴィクター・ロドリゲス、JC・レムリア、ベンヤミン・アバロス・ジュニア、ローズ・ベアトリクス・クルス―アンヘレス、エルウィン・T・・トゥルフォ)、前職員、その他のマルコス家やドゥテルテ家に忠誠を誓っている者たちである。彼ら・彼女らのほとんどは、経済学者として高い学問的・職業的業績を持っている。

「ボンボン」マルコスに指名された同郷人など
アルセニオ・バリサカン:国家経済開発長官
アントニオ・エルネスト・F・ラグダミオ:大統領特別補佐官
リリア・ギリエルモ:内国歳入長官
スーザン・V・オプレ:移住労働長官(Department of Migrant Workers)
ビエンヴェニド・ラグエスマ:労働雇用長官
ヴィクター・ロドリゲス:行政長官(Executive Secretary)
JC・レムリア:司法長官
ベンヤミン・アバロス・ジュニア:内務自治長官
ローズ・ベアトリクス・クルス―アンヘレス:大統領通信作戦長官(Presidential Communications Operation Office)
エルウィン・T・トゥルフォ:社会福祉開発長官

 さらに、彼の政権が追求しがちな親市場・大企業偏重の政策が見て取れる。例えば、ベンジャミン・ジョクノ財務長官(パンデミック時に国内最高報酬を得た公務員)は、コラソン・アキノ政権下の予算行政管理長官時代に付加価値税(VAT)導入を推し進めた人物である。
 国家情報調整庁(NICA、以下、情報調整)の新長官リカルド・デ・レオンは、かつて、「ボンボン」マルコスの姉アイミー・マルコス上院議員の補佐官を務めていた。デ・レオン情報調整長官は、マルコス一家が米空軍機で国外に飛び出す際、アイミー・マルコスに同行した人物である。デ・レオン情報調整長官は、2005年に警察庁副長官を退官した。
 彼は今後、国家情報に関連する政府の全活動の調整を担当する機関を監督することになるが、NICAは「地域共産党の武装闘争を終わらせるための国家タスクフォース(NTF-ELCAC)」のメンバーであるため、政府の反乱対策で大きな役割を果たすことになるであろう。また、大きな議論を呼んでいる反テロ法の施行にも重要な役割を果たすことになる。多くのひとびとがNTF-ELCACの廃止を要求しているが、彼はそれを維持している。この組織は、活動家、進歩的なグループ、教会/教会指導者などに赤タグ付けをする役割を担っている。
 デ・レオン情報調整長官は、西フィリピン海の問題への対応として、情報収集活動を改善するための軍の近代化に重点を置いている。「ボンボン」マルコス大統領は、人びとは統治とは無関係であり、関与する必要もないと考えているが、新情報調整長官はまた、国内情報を強化するために、地方自治体を活用し地域社会を巻き込もうと考えているようだ。

― 反汚職委員会・官房長官室廃止、内閣官房を大統領に忠実な者の監督下に

 この記事を書いている時点では、保健省(DOH)や環境天然資源省(DENR)のような重要な閣僚のポジションは埋まっていない。
 「ボンボン」マルコス大統領は、2022年6月30日に署名した大統領令第1号を通じて、大統領汚職防止委員会(PACC)と官房長官室を廃止した。PACCの機能などは法務担当事務次官室に移管された。PACCは、2017年10月4日の大統領令第43号に基づき、様々な政府機関や法執行機関と緊密に連携し、行政府におけるあらゆる形態の汚職を排除することを使命として創設された。
 また内閣官房は、マリア・ゼナイダ・アンピン率いる大統領府秘書室(PMS)の直轄・監督下に移管された。「ボンボン」マルコス大統領に忠実なアンピンを介して、「ボンボン」マルコス大統領は、より閣僚らをコントロールしやすくなると想定される。

〈筆者紹介〉
トレリー・マリグザ。教育学修士(数学専攻、理学専攻)。さまざまなNGOの活動やフィリピン合同教会のジェンダー・正義プログラムなどに関わる中で、ジェンダーや環境、よき統治に関するコンサルタント業務に従事している。また、ビジュアル・アーチストとしても活動。

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Painting:Maria Sol Taule, Human Rights Lawyer and Visual Artist

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