フィリピン政経フォーカス(7月16日-7月23日)

【写真】ホワイトハウスで会談するマルコス大統領(左)とトランプ大統領(右)/via Facebook Page of Bongbong Marcos, July 23, 2025.

― 米国で2国間協議に臨むマルコス大統領
 2025年7月20日から22日にかけて、マルコス大統領は米国を公式訪問した。ワシントンD.C.を中心とした滞在で、21日にペンタゴンおよびトルーマンビルでのヘグセス国防長官、ルビオ国務長官との事前協議、22日にホワイトハウスでトランプ大統領との会談が行われた。
 今回の訪米は、安全保障や地域情勢、そしてトランプ関税が重要な焦点であった。

― 関税交渉 1%削減の成果
 会談の中心的テーマは、トランプ政権が提起したフィリピン製品に対する20%への関税引き上げであった。これに対しマルコス大統領は、現行の17%からの急激な引き上げがフィリピン経済、とりわけ輸出産業に与える打撃を強く懸念し、交渉による回避を試みた。
 交渉の結果、トランプ前大統領はSNSを通じて「フィリピンは19%の関税を受け入れることで合意した」と発表した。この削減幅はわずか1%にとどまるものの、当初想定された20%への引き上げは見送られる形となった。
 マルコス大統領は記者団に対し、「1%の削減でも象徴的な意味は大きく、関係深化の一歩となった」と語った。また、フィリピン政府はこの合意について「枠組み合意にすぎず、最終的な文書は未調印であり交渉は継続中である」と慎重な姿勢を見せている。
 会談後、トランプ大統領は自身のSNSを通して、フィリピンとの関税交渉の結果について次のように語っている。
「素晴らしい訪問だった。貿易合意を結び、フィリピンはアメリカとの自由市場化を進め、米国製品にはゼロ関税。ただしフィリピン製品には19%の関税を課す。」

― 安全保障
 マルコス大統領は、米比両国は安全保障分野での協力関係の強化を確認したと表明。とりわけ南シナ海における中国の行動を念頭に置き、両国は共同軍事演習の継続、情報共有、軍事施設の利用に関する協議を進める方針で一致した。
 また、スービック湾への米国弾薬拠点設置の構想も話題に上り、現在、実務レベルでの協議が開始されたことが明らかにされた。これにより、フィリピン国内での米軍プレゼンスが拡大し、地域の抑止力強化につながる可能性がある。マルコス大統領は、安全保障に関して「比米同盟は南シナ海の平和と安定を維持する要」と語り、今回の訪米が外交・防衛面における明確なメッセージであると評価した。

― 中国政府の反応
 比米協議に関して、中国政府の報道官は、「米国とフィリピンによる安全保障協力は第三国を標的としたものであり、地域の対立を煽る危険性がある」と表明し、南シナ海の平和と安定を損なう恐れがあるとの懸念を示した。
 また、中国共産党メディアGlobal Timesの社説では、マルコス大統領の米議会・政府要人との会談について次の3つの批判が展開された。
 ・「戦略的手先」にされている
 フィリピンは、米国の「インド太平洋戦略」における前線の手先として利用されており、関税や軍事分野で米国の要求に応じる立場に追い込まれていると指摘。
 ・交渉力の脆弱性
 特に関税交渉では、20%から19%への引き下げが「限定的で象徴的な譲歩」にすぎず、本質的な交渉力は弱いと分析。米国が個別交渉でASEAN諸国間に分断を生み、フィリピンの独立性を低下させているとの見解を示した。
 ・長期的に持続しない同盟依存の懸念
 フィリピンが米国の戦略に追随することで中国との関係悪化を招き、米国のインド太平洋戦略の変化によっては「見捨てられる可能性」もあると警告した。

〈Source〉
Tariffs shadow Marcos’ visit despite US officials underscoring alliance, Global Times, July 23, 2025.
US-Philippines trade talks yield modest tariff shift after Trump-Marcos meeting, Reuters, July 23, 2025.

― ICCの逮捕状あれば応じる
 7月17日、ルーカス・ベルサミン官房長官は記者会見において、国際刑事裁判所(ICC)がロナルド・デラロサ上院議員に対して逮捕状を発行し、それが国際刑事警察機構(インターポール)を通じて送達された場合、フィリピン政府はそれに対応するとの意向を示した。ベルサミン官房長官は、ICCがドゥテルテ前大統領の件と同様にデラロサ上院議員にも関与を問う可能性があるとの見方に触れたうえで、対応にあたっては適切な手続きが講じられると述べた。

― 私はここにいる
 7月18日、デラロサ上院議員は記者団の取材に対し、自身がICCからの逮捕対象と報じられていることについて、「この件は現政権が注目をそらすための手段にすぎない(デラロサの逮捕の報道で国民の不満の矛先をそらそうとしている)」と述べた。その上で、「私は自分のしたことに責任を持っている。何かを隠すつもりも、逃げるつもりもない」と語った。
 翌日には、仮に逮捕状が発行された場合の対応について問われ、「彼らが私を逮捕したいのであれば、そうすればよい。私はここにいる」と述べ、逮捕に対する恐れや回避の意志がないことを明言した。また、インターポールを通じての逮捕の可能性が問われた際にも、「その橋を渡るときが来れば考える」と語り、状況を見て判断するとの立場を示した。

― 変わらぬ政府の意向
 7月20日、大統領府のカストロ報道官は、デラロサ上院議員に関して、「政府はICCまたはインターポールからいかなる通達も受けていない」と明言した。
 同日、ベルサミン官房長官も記者団に対して、「仮にICCから逮捕状が送達された場合、インターポールとの調整を通じて法的手続きに従って対応する」と、17日の発言を繰り返した。

― 逮捕されるべき時期はとっくにすぎている
 7月18日、人権擁護団体カラパタンは、「ロナルド “‘バト’”・デラロサ上院議員は、ICCの逮捕対象者として、逮捕されるべき時期はとっくに過ぎている」とする公式声明を発表した。クリスティーナ・パラバイ事務局長は、「ドゥテルテ前大統領と共にデラロサ上院議員及びその他8人の共謀者らは、ICCの逮捕状に名前が挙がっている」と述べ、彼らは3月のドゥテルテ前大統領とともに逮捕されるべきであったと主張した 。
 パラバイ事務局長はさらに、「デラロサはこの展開にいつものように強気に反応しているが、数ヶ月前に逮捕の可能性が浮上したときと同じように姿をくらますだろう」と指摘し、「ドゥテルテのドラッグ戦争の犠牲者たちは、バトー・デラロサと他の共謀者たちが責任を問われ、正義の裁きから逃れることを許されないことを要求している」と述べた。

〈Source〉
Dela Rosa to Palace: Go ahead and arrest me, too, Inquirer, July 18, 2025.
ICC has not asked for arrest of dela Rosa, ‘co-perpetrators’ – Palace, Inquirer, July 17, 2025.
KARAPATAN: Bato’s arrest is long overdue, Karapatan, July 18., 2025.

― 一時釈放申請に続いて審理一時停止の申し立て
 6月13日、ドゥテルテ前大統領は、ICCに対し、一時釈放を求める正式な申請を提出した。この申請においては、ドゥテルテが高齢であり健康上の懸念があること、またフィリピン国外に出た場合でも逃亡の危険がないことを理由として、特定の第三国における一時的な身柄解放を求めている。ICC検察官はこの申請に対し、即時の異議を唱えることはせず、一定の理解を示す姿勢を取っている。
 さらに7月14日、ドゥテルテ前大統領の弁護団は、ICC予備裁判部に対して審理の一時停止を求める新たな申し立てを行った。この申し立てでは、釈放申請に関連する重要な証拠および補足資料の一部が未だ入手できていないことを理由に挙げており、裁判所に対して「完全な情報に基づいた審査を求めるための時間を与えてほしい」と訴えている。弁護団は、6月の申請時点では一部の文書が未開示であり、ICCによる判断が偏るおそれがあるとして、より公平な判断を促すためにも準備期間の延長が不可欠であると主張している。

― 遅延を阻むICC検察官の反論
 7月17日、ICC検察官は、弁護団の一時停止申請に対して公式の反論を提出した。ニアン検察官はこの中で、「弁護団は審理の日程を自ら選んだ立場にあり、今になって準備不足を理由とする審理停止の要求は認められない」との立場を明確にした。さらに7月21日には、「釈放による審理の遅延は不必要であり、法的手続きの妨げになる」として、ICCに対し審理の継続を強く求める補足文書を提出した。
 検察官は、ドゥテルテに対する容疑の重大性に鑑み、遅延による司法の空洞化を警戒している。これにより、ICCにおいて弁護団と検察局との間で、手続きの進行方法を巡る厳しい応酬が続いている状況である。

Duterte lawyers seek ‘status conference’ ahead of ICC confirmation of charges in September, ABS-CBN, July 16, 2025.
Duterte team seeks time to get ‘complete’ info for ICC interim release bid, ABS-CBN, July 19, 2025.
ICC prosecutor asks court to deny Duterte bid to delay ruling, Inquirer, July 22, 2025.

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