フィリピン政経フォーカス(4月21日-5月7日)

【写真】カミール・ビリャール上院議員候補(左)の支持を呼びかけるサラ副大統領(右)/via Facebook of Camille Villar, April 26, 2025.

― 暴力事件?の全容
 2月23日、ダバオ市のバー「バリオ・オブレロ」において、パオロ・ドゥテルテ下院議員(ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の長男)が関与する暴行事件が発生したと報じられている。被害者とされるクリストン・ジョン・パトリアは、ドゥテルテ議員から身体的暴行(physical injuries)と深刻な脅迫(grave threats)を受けたとして、4月30日、司法省に刑事告訴を行った。
 パトリアの供述書によれば、事件の全容は次のようなものである。
「2月22日、パトリアはパオロ・ドゥテルテ議員からの依頼で、議員やその友人たちのために女性を手配し、翌日未明にダバオ市のバー『バリオ・オブレロ』で合流した。バーでの飲食中、ドゥテルテ議員は、同行していた友人の一部に女性の同伴がなかったことに不満を示した。さらに、手配された女性の一人が、約束されていた1万3000ペソの支払いに対し、実際には1000ペソしか受け取っていないと抗議したことが、議員の怒りを増幅させた。」
 刑事告訴と同時に、パオロの暴力行為が撮影されたビデオがSNS上で拡散されている。その発信源は、明らかになっていない。

― 女性団体からの批判
 パオロ議員の暴行容疑に関して、複数の女性団体から批判がなされている。
 売春女性の支援団体「タリカラ」のジャンネット・アンポグ事務局長は、「買い手がいて、女性たちは売られている。ポン引きがいる。移送や性的搾取もあった」として、この映像に映っていた事件は売春を可能にするシステムや女性に対するより深く深刻な暴力の存在を暴露するものだと述べた。
 また、女性権利団体ガブリエラのジャン・リンド博士は、「現職の議員として支援を提供する代わりに、(パオロ)ドゥテルテはその地位を悪用し、女性の弱みを食い物にした。これらの女性たちは、まず彼女たちを見捨てるシステムによって、次に彼女たちの絶望を利用する男性たちによって、二度虐待される」と批判する。

― 政権からの政治的攻撃?
 サラ副大統領は、兄パオロ議員に対する告訴を「マルコス政権による政治的攻撃」と位置づけ、政権が自分たちに不利な問題から国民の目を逸らすために、政治的ライバルを攻撃していると主張する。彼女は、政権が抱える深刻な問題である2025年度予算の「空欄項目」や20ペソ米の販売中止を隠蔽するために、パオロ議員への告訴が利用されていると述べた。さらに、告訴が選挙直前に行われたことについて、政権による意図的なタイミングであり、政治的攻撃だと批判した。
 大統領府のクレア・カストロ報道官は、サラ副大統の発言に対し、次のように述べた。
「女性を自身の満足のために雇う行為が問題となっている。なぜそれを大統領のせいにするのか?告訴に対して正面から答えるべきだ。」
 さらに、カストロ報道官は、サラ副大統領が議論のレベルを上げるべきであり、政権批判を繰り返すのではなく、具体的な対応をすべきだと指摘した。

〈Source〉
Claire Castro: Sara Duterte could have `leveled up’ discourse on issues, Inquirer, May 5, 2025.
Complainant vs. Paolo Duterte confirms viral video of alleged incident, GMA News, May 5, 2025.
Pulong Duterte on assault complaint: It’s up to Davao voters, Inquirer, May 4, 2025.
Rep. Duterte faces physical injuries, grave threats raps at DOJ, ABS-CBN, May 2, 2025.
VP Duterte calls rap filed vs brother over alleged bar incident a political attack, ABS-CBN, May 4, 2025.
Women’s groups on Paolo Duterte video: There’s deeper violence vs women, Inquirer, May 5, 2025.

― サラによる支持表明
 4月20日、サラ副大統領は、2025年中間選挙の上院議員選挙において、アイミー・マルコス上院議員およびカミール・ビリャール下院議員の両名を正式に支持することを表明した。
 サラ副大統領は声明で、2人を支持する理由として、「繁栄し、団結したフィリピンへの共通のビジョン」を持っていることを挙げた。また、「2人の議員は国民に奉仕する姿勢を明確にしてきた」と述べた。
 サラは同時に、自身が率いる政党「Hugpong ng Pagbabago(変革のための連合)」を通じて、彼女らの上院選挙活動を全面的に支援することを表明した。

― サラのカミール支持動画
 カミール下院議員は、サラ副大統領がカミールへの投票を呼びかける次のような動画を自身のフェイスブックで公開している。
 「今の時代、誰が本当の友だちなのか、もう分からなくなっています。しかし、ビリャール・ファミリーは私の家族を本当に愛してくれました。決して見捨てたりしませんでした。カミール・ビリャールは、私たちと共に上院にいるべき人です。私たちの一票をカミール・ビリャールに!」

― マルコスの支持リストから除外?
 2025年5月1日、バタンガス州リパ市で行われたマルコス政権支持上院議員連合「新しいフィリピンのための連合(以下、連合)」の選挙支援集会にて、マルコス大統領は支持する上院候補者を一人ずつ紹介した。しかし、その中で、支持候補者の1人であったはずのカミール・ビリャールの名前が挙がらなかった。
 しかし、ビリャール側は、連合支持リストからカミール下院議員が外されていないと答える。2回の支持集会でマルコス大統領からの読み上げリストから外されたのち、5月6日のカビテ州でのマルコス大統領も出席した連合支持集会にて、カミール下院議員も参加した。彼女の紹介には、上述のサラ副大統領による支持動画も公開された。
 しかし、その集会でマルコス大統領の口から直接、カミールを支持するとの発言はなかった。

〈Source〉
Camille Villar back in Marcos’ speech as Alyansa to end campaign May 9, GMA News, May 7, 2025.
Facebook of Camille Villar, April 26, 2025.
Marcos Jr. omits Camille Villar in Alyansa endorsement speech, ABS-CBN, May 3, 2025.
Sara Duterte endorsed Imee, Camille Villar due to ‘common vision for prosperous, united PH’, ABS-CBN, April 21, 2025.

― TikTokと偽情報拡散を通じた中国の影響に警鐘
 フランシス・トレンティーノ上院議員は、フィリピン海事海洋に関する上院特別委員会において、国内のSNS空間が外国の影響を受けた偽情報拡散にさらされているとして、特に中国政府と関係があるとされるPR企業InfinitUs Marketing Solutions Inc.やTikTokインフルエンサーの活動に警鐘を鳴らした。
 トレンティーノ議員は、このPR企業が中国大使館と連携し、SNSを通じてフィリピン軍を「挑発的」と描写するプロパガンダ動画を流布していたとされる件に言及し、「国家反逆罪に該当する可能性がある」と明言した。提示された証拠には、中国大使館が2023年9月11日付で同社に発行した93万ペソの小切手の写しが含まれており、これは大統領や他の中国批判的な官僚への攻撃を含むサービスへの支払いだったとされる。また、中国語で書かれた契約書には、「SNSでの世論誘導」や「フィリピン人の中国への否定的印象を変えること」などの任務が記されていた。これらの動画は、中国の主張を支持し、フィリピンの立場を貶める内容だとされている。
 さらに、同日に公開された別の記事では、トレンティーノ議員が選挙管理委員会(Comelec)を標的としたソーシャルメディア上での偽情報キャンペーンの存在にも触れ、これはフィリピンの選挙制度に対する信頼を損ねる深刻な脅威だと述べた。彼は、このような情報操作が外国から仕掛けられている可能性があることを示唆し、デジタル空間を国家安全保障の一部と見なすべきだと主張。政府に対しては、SNS上での情報操作やプロパガンダに対抗するための法的枠組みと監視体制の整備を求めている。彼の発言は、情報戦が実際に国家主権を侵害し得るという現実を反映している。

― 企業の回答とさらなる疑問
 InfintUs社共同設立者でCEOのポール・リーは、これらの主張を完全に否定。問題の小切手は、2023年6月9日に中国大使館が開催したイベントの運営費用であり、政治的な活動とは無関係だと反論した。
 しかしトレンティーノは、提出された請求書に含まれたPRイベント用のCOVID-19関連物品(マスクや検査キット)の請求が、それら保護具の使用がもはや義務付けられていないイベントの3か月後に出されたことを問題視し、「この委員会を混乱させようとしているのか、それとも真っ赤な嘘をついているのかのどちらかだ」と声を荒らげてリーを追及した。
 トレンティーノは、ポール・リーら同社役員に名を連ねている外国籍関係者にはスパイ行為などの刑事責任も問われうるとの見解を示している。

〈Source〉
PR firm tied to alleged China troll ops may face treason – Tolentino”, Inquirer, May 6, 2025.
Tolentino: Disinformation vs Comelec shows need to guard digital space, Inquirer, May 6, 2025

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