公聴会後のドゥテルテ/トランプ政権とフィリピン/四委員会合同委員会の進展
公聴会後のドゥテルテ
― ラスカニャスの証言ビデオ
11月7日、ドラッグ戦争に関する下院四委員会合同委員会の第10回公聴会において、ドゥテルテ前大統領およびその息子パオロ ダバオ市長の2代にわたって、ダバオ暗殺団のメンバーとして活動してきたと自認するアルトゥーロ・ラスカニャスの証言ビデオが公開された。ラスカニャスはビデオの中で、次のように証言した。
「私は、ロドリゴ・ロア・ドゥテルテ(元)市長(前ドゥテルテ大統領)とその息子パオロ・ドゥテルテ(現ダバオ市長)がダバオ市の違法ドラッグ取引に直接関与していることを、ここに正直に宣誓します。」
「私は、現在全国で活動しているドゥテルテ暗殺部隊やダバオ暗殺部隊、あるいはトクハン計画(反ドラッグ作戦)を通じて国家主導の超法規的殺害とテロリズムの真実の存在を証明するために、この宣誓供述書を提出します。」
彼は、ダバオ暗殺団が、ドゥテルテ前大統領への盲目的な忠誠心と暗殺団メンバーの金銭欲に基づいて私的な殺人マシーンとして機能していたことを語るとともに、いくつかの超法規的な殺害の背景にある関係性について証言した。
― ガルマとラスカニャスの証言を否定するドゥテルテの元ボディガード
ドゥテルテ前大統領のダバオ暗殺団への仲介者とされるサンソン・ブエナベントゥラは、11月7日の下院四委員会合同委員会の公聴会に出席した。先のラスカニャス証言で語られた、ドラッグ戦争における報酬制度(ドラッグ容疑者の殺害に対して報酬を与えていたとされる仕組み)の存在そのものを否定し、また、いくつかの殺害事件での報酬の仲介に関与した疑惑についても否定した。
ブエナベントゥラはまた、元警察高官のロイナ・ガルマによる、ドラッグ容疑者殺害の報酬としてドゥテルテ大統領から金銭を受け取ったという申し立てを否定した。以前の公聴会で、ガルマは補足宣誓供述書で、ブエナベントゥラから1回の作戦で2万ペソを受け取ったと述べている。
公聴会では、いくつかの隠語、例えばドゥテルテ前大統領が「スーパーマン」と呼ばれている等、について確認が取れたのみ。それら隠語と暗殺団との繋がりも「知らない」を繰り返すにとどまった。
ブエナベントゥラは、ガルマが彼に責任を押し付けていると主張し、彼女の証言を否定した。
下院多数党の副リーダーで公聴会の議員を率いるヌエバ・エシハ州選出のミカエラ・スアンシング下院議員は、ドゥテルテ前大統領に対して強い忠誠心を持つブエナベントゥラの発言は信用できないと発言した。
― 上院の動き
「ドゥテルテ前政権下で決定した国際刑事裁判所(ICC)からのフィリピンの脱退を再考すべきだ。」
上院少数党総務でドラッグ戦争調査小委員会委員長としてドゥテルテ前大統領の公聴会を取り仕切ったアキリノ・ピメンテルIII上院議員は11月8日のラジオ番組および9日のフィリピン外務省のイベントで語った。
ピメンテルIII上院議員は、ドゥテルテ前政権でのICC脱退時、ICCから脱退するのに上院の承認は必要なく、ドゥテルテ大統領(当時)の決定で事足りると主張し、ICC脱退を強く支持していた。彼は、これまでのICC脱退支持を撤回し、ICCに再び参加することは、独裁者が政権を握った際のフィリピン国民にとっての「保険」になると述べた。そのためには、マルコス大統領の積極的な行動が必要だと付け加えた。彼は、ICCに対する「心変わり」について、ドラッグ戦争犠牲者の声を聞いて、その悲惨さに心を打たれたと語っている。
― 司法省もドラッグ戦争調査のための特別委員会を設置
へスース・クリスピン・レムリア司法長官は、下院議会からの要求に基づき、ドラッグ戦争調査に関する特別委員会を立ち上げたことを明らかにした。
レムリア司法長官は、11月4日に司法省の下にドラッグ戦争に関する調査を実施するための特別委員会を創設する司法省令 778を発行した。この特別委員会は上級州検察官補が議長を務め、地方検察官が共同議長を務め、さらに国家検察庁から9人のメンバーが選出される予定だ。
「特別委員会は(ドラッグ戦争を)捜査を積み上げ、正当な場合には、前政権の違法薬物撲滅キャンペーンに関わった加害者および超法規的殺害実行者対して必要な告発を行う義務がある」と司法省は表明した。
トランプ政権とフィリピン
― トランプへの祝辞
マルコス大統領は、11月6日、米国の大統領選挙が終了する前に、「深い絆、共通の信念、共通のビジョン、長い協力の歴史を持つ両国に相互利益をもたらす幅広い問題でトランプ次期大統領と協力することを楽しみにしている」と声明で述べた。声明において、マルコス大統領は両国のパートナーシップの持続性を強調し、「戦争と平和で試された揺るぎない同盟は、太平洋における繁栄と友好の道を切り開く善の力となるだろう」と語った。
下院議長であるマルティン・ロムアルデスも米大統領選挙でのトランプの勝利に対して下院議長としてプレスリリースを通じて祝辞を述べ、新たなトランプ政権との関係について述べた。
「私たちは、トランプ大統領の下、海洋安全保障と地域の安定が、特に西フィリピン海において優先事項であり続けることを楽観視している。フィリピンは米国との強固な防衛パートナーシップを重視しており、インド太平洋全域の平和と安定を支えている。」
― 専門家:安心できない。米国に依存しすぎない独立した外交が必要
香港の英字紙South China Morning Postは、政治経済学者でありシンクタンクの社長兼最高経営責任者(CEO)を務める政治アナリストのエドモンド・タヤオの論考を11月10日に掲載した。
米国の世界情勢への関与が縮小した前回のトランプ政権1期目の現実を考慮すれば、フィリピンは新たなトランプ政権(トランプ2.0)に過剰な期待はできない。
これ(トランプ1期目の政策変更)により、東南アジアから韓国、欧州連合に至るまで、事実上あらゆる場所で米国の関与が大幅に縮小された。これはトランプ 2.0 でも繰り返される可能性が高い。両国の友好関係は続くだろう。しかし、特に西フィリピン海などの問題に関しては同じ優先扱いが受けられるとは期待できない。
逆に、中国とロシアが、今、(トランプが次期大統領に決まったことで)祝杯をあげているだろう。西フィリピン海におけるフィリピンの権益を前進させるためには、フィリピンは真に独立した外交政策を構築する必要があるかもしれないが、この戦略はバイデン政権時代には十分に検討されていなかった。
フィリピンは東南アジアとの関係強化に焦点を当てた投資を進め、より統一されたアセアンを推進するための具体的な努力も行うべきである。フィリピンは中国とも米国とも異常に緊密な関係を追求すべきではない。政治情勢が世界的に不安定な状況にある現在をしっかりと認識する必要がある。
― 人権団体:政権交代で何も変わらない
人権団体カラパタンは、トランプ政権への移行に対して、次のような声明を発した。
国の残忍な反乱鎮圧計画に対する米国の支援など、本当に重要なことに関して言えば、ドナルド・トランプ次期大統領が、前任者のジョー・バイデン大統領の始めたことから大きな逸脱を引き起こすと信じる理由はない。バイデン政権下で承認されたフィリピン政府に対する米国の5億ドルの軍事援助は超党派の取り組みの結果であることを忘れてはならない。このような問題では、民主党と共和党は意見が一致している。
米国を再び偉大にするというトランプ大統領の信条は、インド太平洋地域での優位性追求においてライバルの中国を出し抜く米国の努力をさらに加速させるだろう。米国の地政学的な優位性を維持しながらその代償を少なくするトランプ大統領の傾向は、さらなる代理戦争につながるだろう。
フェルディナンド・マルコス・ジュニア(大統領)は、公式発表に先立ってすでにドナルド・トランプに祝福の意を表し、米国支配層の新しい世話人にひれ伏す用意があることを示唆した。結局のところ、彼は、米帝国の国益へのこの国の従属を規定したすべての主要な安全保障条約や協定を再確認するだけでなく強化することによって、すでに傀儡としての地位を確立している。
四委員会合同委員会の進展
― 「女王を救え」
11月11日、サラ副大統領は、「女王を救え」と呼ばれる陰謀疑惑を否定した。
「女王を救え」と呼ばれる陰謀は、前税関情報員ジミー・グバンが四委員会合同委員会の公聴会で明かした、サラを次期大統領にしようとする政治的な陰謀のことだ。問題なのは、その政治活動にサラの兄パオロ ダバオ市長、サラの夫であるマンス・カルピオ、そして政治的殺害に関係するダバオのマフィアが参加していること。サラ副大統領は、四委員会合同委員会で語られたような「陰謀」は存在しないと語った。
記者から、招聘されたならば四委員会合同委員会の公聴会に参加する意思があるのか問われたサラ副大統領は、副大統領としての多忙な業務を理由に公聴会参加の可能性を否定した。
― 再び注目されるアシエルト報告
今年7月から元警察官のエドゥアルド・アシエルトの証言が再び注目されている。アシエルトは、ドゥテルテ政権時に経済顧問を勤めていたマイケル・ヤンが2017年に押収した大量のシャブおよび違法ドラッグ密売人とされるアラン・リムと繋がりがあったことをレポートとして上げたことで懸賞金がかけられ、命を狙われたと語っている。
再び11月7日の四委員会合同委員会の公聴会に登壇したアシエルトは、下院議員たちから懸賞金がかけられた背景や首謀者についての意見を訊かれた際、ドゥテルテ前大統領とボン・ゴー上院議員の名前を挙げた。
― ファーマリー汚職とPOGOが繋がった?
ドゥテルテ前政権期、違法な高値で医療用品をフィリピン政府に販売し、コロナ財政を圧迫したとされる汚職疑惑を有するファーマリー社と違法オフショア賭博運営業者(POGO)が、四委員会合同委員会の公聴会で繋がった。
公聴会に呼ばれたのは、アラン・リムの元フィリピン人妻ローズ・ノノ・リン。彼女は「すべてのPOGOの母」と呼ばれ、多くの国内POGO企業にライセンスを貸与していたシオンウェイ・テクノロジー社を管理しており、元バンバン町長のアリス・グオの率いていた企業もライセンス貸与を受けていた企業の1つだ。彼女の多くの持ち株会社には、ドゥテルテ前大統領の経済顧問であり、ファーマリー社の問題で汚職疑惑のあるマイケル・ヤンも共同経営者として名を連ねている。
リンは、それら企業を夫のアラン・リムとともに管理していたことを公聴会で認めた。 さらに、ファルマリーの財務部長リン・ウェイ・シオンとアラン・リムが同一人物であり、2004年にタガイタイでドラッグ常習者として逮捕されていたことを確認した。
〈Source〉
Acierto: Duterte ordered my arrest for knowing Michael Yang’s drug ties, Inquirer, November 7, 2024.
As Marcos faces the Trump test, can Philippines count on continued US support?, South China Morning Post, November 10, 2024.
DOJ creates task force to probe EJKs, file cases, Inquirer, November 7, 2024.
Duterte’s ex-bodyguard denies Davao Death Squad reward system, ABS-CBN, November 8, 2024.
House probe revives alleged DDS member’s claims vs ex-President Duterte, son, ABS-CBN, November 8, 2024.
Lawmaker doubts credibility of Duterte’s bodyguard, ABS-CBN, November 9, 2024.
PBBM congratulates US President-elect Trump, Presidential Communications Office, November 6, 2024.
PNP backs DOJ task force probing drug war killings, Inquirer, November 7, 2024.
Quad comm links Pharmally with POGOs, Philstar.com, November 12, 2024.
Senator heading ‘drug war’ probe urges Marcos: Let PH rejoin ICC, Inquirer, November 10, 2024.
Statement of Speaker Ferdinand Martin G. Romualdez on the victory of US President-elect Donald Trump, House of Representatives 19TH CONGRESS, November 6, 2024.
VP Sara denies ‘Save the Queen’ plot, ABS-CBN, November 11, 2024.