フィリピン政経フォーカス(4月11日~4月24日)

【写真】サラ(写真右)/ via サラ・ドゥテルテ, Wikipedia. リサ・マルコス(写真左)/via File:Liza Araneta - Bongbong Marcos oath taking 6.30.22 (cropped).jpg, Wikipedia.

― PGIIパートナーシップ
 4月11日に開催された日比米(ABC順)首脳会談において、ルソン経済回廊を「G7グローバルインフラ投資パートナーシップ(PGII)」の一環として開発する合意がなされた。
 PGIIは、G7諸国が戦略的パートナーとして発展途上国へのインフラ投資を促進することで、エネルギーや物資、情報等の円滑な供給を可能とし、社会の成長、持続可能性構築、強靭化を図る協働努力(collaboration effort)だ。PGIIの基盤は、2019年に米国主導で日本とオーストラリアの3カ国によって開始された質の高い途上国インフラプロジェクトへの投資認証プロセス「ブルー・ドット・ネットワーク(BDN)」である。2023年のG7広島サミットでの了承を経て、G7各国がBDNで認証された公的および民間のプロジェクトの中から戦略的に重要なプロジェクトをPGIIとして位置付け実行する。

BDNは国際基準を軽視する中国資本の海外進出に対して、質の高さで対抗しようとする意図で設立されたと言われているが、PGIIによって、さらに対中国を意識した、より戦略的な取り組みとなっている。BDNの認証を得ることで、それぞれの国のODA等の公的支援を得ることができ、また、プロジェクトそのものの高い品質を保証するものとなっている。

― 日比米ファクトシート(ホワイトハウス公表の要約)
 三国首脳会談で、米国、フィリピン、日本の首脳は、ルソン経済回廊を G7 グローバルインフラ投資パートナーシップ (PGII) の最新の経済回廊として、またインド太平洋地域では初の経済回廊として開発する意向を発表した。米国務省は、PGI I特別大統領調整官室を通じてルソン経済回廊の実施を推進・調整する。この作業は、高水準の投資を拡大し、より回復力のある経済を創出し、長期にわたる持続可能な開発を推進することを目的とした PGII/ IPEF(インド太平洋繁栄経済枠組み)※※投資アクセラレーター※※※の下での重要な成果物として、IPEFパートナーへの関与を示すものだ。

※※IPEFは、2022年に立ち上げられたインド太平洋地域における経済面での協力について議論するための枠組み。
※※※アクセラレーターとは、起業したばかりの企業に対して、資金投資やノウハウなどのサポートをする組織。

 ルソン経済回廊は、フィリピンのスービック湾、クラーク、マニラ、バタンガス間の接続をサポートする。米国、フィリピン、日本は協力して、鉄道、港湾の近代化、クリーンエネルギーと半導体のサプライチェーン、アグリビジネスなど、影響力の大きいインフラプロジェクトへの協調投資を加速し、ハブとなる上記地域の経済成長をさらに促進する。
 このアプローチは、物流とエネルギーコストの削減と好ましい政策・規制環境の組み合わせにより、さらなる成長を促進できる半導体などの重要な産業に大きな影響を与える。 PGII による重要インフラへの投資は、この産業をさらに刺激し、世界の半導体産業の成長と多様化に向けた米国政府とフィリピンとの継続的な協力を補完するものである。PGII の投資はまた、改善された物流とコールドチェーン貯蔵インフラを通じて農家と市場を結び付け、フィリピンの食糧安全保障を改善する。
 ルソン経済回廊の発表は、先月の国務長官のマニラ訪問と、米国、フィリピン、日本の 3 国が経済イニシアチブを強固な戦略的パートナーシップの中心的要素として高めたいという共通の願いに基づいている。米国はまた、回廊全体のインフラ プロジェクトを支援するために、資本と開発および金融ツールを展開するために、多国間開発銀行および民間部門と提携することを目指す。
 ルソン経済回廊の開発に関する 3ヶ国首脳のコミットメントの実施を開始するため、米国、フィリピン、日本は、5 月にマニラで開催されるインド太平洋ビジネスフォーラム (IPBF) の傍らで、回廊への投資を促進する 3ヶ国イベントを開催する予定である。IPBF は、この地域における米国の主要商業イベントである。三国間パートナーはまた、回廊沿いのインフラ開発と投資の進展を推進するための運営委員会を設置する予定である。

*要約したホワイトハウス公表の文書はPGIとなっていますが、多くの文書ではPGIIとなっているため、ここではPGIIと訳しました。

― 上院選出馬の噂を一蹴
 ルイーズ・「リサ」・アラネタ=マルコス大統領夫人(以下、リサ夫人)は、上院議員選挙に立候補する計画があるという噂を否定した。リサ夫人の医療支援プログラム「LAB for All Project(全ての人に医療をプロジェクト)」が将来の上院議員選挙に出馬するための布石であるという噂があり、19日に放送された『tune-in Kay Tuniying』の独占インタビューで司会者から噂についての質問がなされた。
 リサ夫人は、政府の役職に立候補することに全く興味がないとして、これまでも政治家になるのではないかとの憶測が実現することはなかったと述べた。
 「全ての人に医療をプロジェクト」は、無料の医療サービスを全ての人に届けるためにリサ夫人が進めるプロジェクトで、全国各地を回って無料で医療サービスの提供を実施している。

― サラに堪忍袋の緒が切れたリサ夫人
 また、19日のインタビューの中でリサ夫人は、サラ副大統領が「一線を越えた」と語った。1月のダバオ市での集会でロドリゴ・ドゥテルテ前大統領がマルコス大統領を「バンガグ(麻薬でハイになっている人)と呼んだ際、サラ副大統領が笑っていた姿に、リサ夫人は我慢ができなくなったと言う。
「あなた(サラ副大統領)は政府の一員だ、副大統領だ。私はサラに言いたいことがある。彼女は一線を越えた。彼女が謝らない限り、私は許さない。」
「私は傷ついた。夫(マルコス)はあなたを守るためなら何でもするから。あなたは(統一チームとして)一緒に走ったのでしょう?私たちのモットーは、ともに立ち上がることだった。そしてあなたは、大統領が讃えられる集会に出席する。そうしたら、あなたは笑うでしょう。そうでしょう?レニ(ドゥテルテ政権の副大統領で彼の政敵でもあった)でさえそんな(大統領を馬鹿にするような)ことはしなかった。」

― 反撃するサラ
 リサ夫人のインタビューから3日後、サラ副大統領は自身のフェイスブックでそのインタビューについて語りました。
「人間としてリサ大統領夫人が慌て、怒ることは正しいことです。しかし、彼女の個人的な感情は政府高官としての私の使命とは何の関わりもありません。」
 サラ副大統領は、リサ夫人の批判に直接答える代わりに、この問題については、マルコス大統領と個人的に話し合うつもりだと述べ、このような(些細な)問題ではなく、この国に差し迫った問題としての物価の上昇、水と電力の不足、違法薬物、犯罪、反乱に焦点を当てるべきだと述べた。
 このメッセージにおいて、サラ副大統領は、差し迫った問題の中にドゥテルテファミリーがマルコス大統領の政策を批判する南シナ海の問題を入れていない。また、言及した「反乱」もドゥテルテファミリーが関係するものではなく、共産主義勢力を指しているものと思われる。

― 丸く収めようとするマルコス
 リサ夫人とサラ副大統領との口論を理由に、教育長官からのサラの罷免を求める声がマルコス陣営から発せられるが、マルコス大統領は、4月23日、インタビューに対して次のように語り、サラの罷免を拒否する意思を示した。
「私には、(サラを罷免する)理由が見つけられない。まず第一に、私のことを大切にしてくれる妻がいるなんて、私はなんて幸せな夫なんだろう。妻を責めることはできません。」
「また、そのことで副大統領や教育長官との仕事上の関係に影響を与えることもありません。彼女(サラ)もまた妻として、夫に対する攻撃をじっと聞いていなければならないファーストレディの気持ちを理解していると思います」と付け加えた。

― 「バリカタン」演習始まる
 4月22日から5月10日までの期間、フィリピン国軍は米軍との合同軍事演習バリカタンを実施する。演習は、両軍合わせて1万6千人以上、過去2番目に多くが参加する演習となっている。演習は、初めて中国との摩擦がある海域でも行われ、また、パラワンでは敵に占拠された島を奪還することを想定した訓練も行われる。中国海警局との衝突が常態化しつつあるフィリピン沿岸警備隊が初めて演習に参加し、また、1600kmの巡航ミサイルも発射できる強力な中距離能力(MRC)地上配備型ミサイルシステムも米国から始めて派遣された。
 このミサイルシステムがいつまでフィリピンに配備されるのかは明らかにされていない。米陸軍は、この配備をこの地域の防衛能力における「画期的な出来事」と語る。
 バリカタンには、日本が供与したフィリピン沿岸警備隊の巡視船2隻も参加する。初参加のフランスをはじめ、日本を含む14カ国もオブザーバーとして参加する。

― 中国とロケ前大統領報道官からの批判
 フィリピン政府はバリカタンが開始される前日、演習が中国を想定するものではないとのメッセージを発したが、この演習が中国を仮想敵国と想定して行われていることは明らかだ。中国は、中国外務省を通してバリカタンへの強いいくつもの批判メッセージを発信している。
 先週末に行われた定例記者会見において、中国外務省の林建報道官は、米国が「一方的な軍事的優位性」を追求していると非難し、軍事力の配備に対する中国の強い反対を強調した。林報道官は、また、「米国に対し、他国の安全保障上の懸念を真摯に尊重し、軍事対立を煽ることをやめ、地域の平和と安定を損なうことをやめ、戦略的リスクを軽減するための具体的な行動を取るよう求める」と述べた。
 バリカタンが開始された22日、中国共産党中央委員会の英字国際メディアGlobal Timesは、中国との親密な関係を築いていたドゥテルテ政権で大統領報道官を務めていたハリー・ロケのインタビュー動画を掲載した。フィリピンの挑発的な行動に関して、外部国(米国)の十分な支援を期待できるのかを問われたロケ元報道官は、「米国がフィリピンを支援してくれるというのは見当違いだ」と語り、フィリピンと中国との間の問題は訴訟ではなく交渉と外交を通じて解決すべきと語った。

〈Source〉
FACT SHEET: Partnership for Global Infrastructure and Investment at the G7 Summit, White House, May 20, 2023. 
It’s a misplaced belief that US will come to the Philippines’ assistance: former Philippine presidential spokesman, Global Times, April 22, 2024.
Liza Marcos laughs off rumors she ‘plans’ to run for senator, Inquirer, April 19, 2024.
Marcos rules out firing Duterte, Manila Times, April 24, 2024.
Marcos, Sara Duterte began, Rappler, April 19, 2024.
Sara Duterte to Liza Marcos: Your feelings have nothing to do with my duties as VP, Rappler, April 22, 2024.
The United States, the Philippines, and Japan Launch the Partnership for Global Infrastructure and Investment Luzon Economic Corridor, U.S. Department of State, April 11, 2024.
US sends land-attack missile system to Philippines for exercises in apparent message to China, CNN, April 22, 2022.

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