【6日=東京】コロナ禍はフィリピンでもいっこうに収まらない。9月1日時点の全確認感染者は200万人を超え、死者数累計3万3533人、当日の新規感染確認者数が1万4216人、死者86人。そのなかで、医療の重要度はきわめて高いままだが、そこに汚職・不正というもう一つの慢性疾患が蔓延し、医療制度全体の存立を脅かしている。
― 下院でフィルヘルス幹部が2027年破綻を公言
フィリピン国営健康保険公社(フィルヘルス)は、これまで数々の不正が表面化してきたが、公的助成と保険料値上げが実現しなければ、5年後には破綻するという。 ネリッサ・サンチャゴ同公社上席副総裁代理は、下院議員らに「保険統計上の計算を当てはめれば現時点における余命は2027年までだ」と語った。同公社から病院への診療報酬支払い遅延問題に関する下院行政規律・説明責任委員会でのこと。
― コロナ禍で損失が拡大
1年前には、コロナ禍が続けばフィルヘルスが2022年中にも倒産しかねないと上院議員たちに述べていた。目前の破綻は政府の財政支援と加入者の保険料支払い次第だと、サンチャゴ氏は昨年の指摘を今回も繰り返し、コロナ禍のため2022年にはフィルヘルスの純損失額が570億ペソ(1250億円)に達する見込みと語った。
― キンボ下院議員が反論
これに対し、経済学者でもある首都圏マリキナ選出のステラ・キンボ下院議員は、サンチャゴ氏の説明は受け入れられないとし、その計算根拠を提示するよう要求した。1月から6月の収入は好調で、昨年同様1490億ペソ(3280億円)に達すると見込まれるが、「7月からの半年分で500億ペソ(1100億円)しか入ってこないとあなたは言うのか」とキンボ議員は詰問した。
サンチャゴ氏はコロナ禍の間に加入者への支給額がかさんだためと説明したが、上下両院でそれぞれ調査が進行中のフィルヘルス不正疑惑がらみの資金流出には何も言及しなかった。
― 架空診療報酬請求詐欺事件など巨額の不正も
昨年10月、国家捜査局(NBI)は、退職者を含む同公社幹部職員9名を病院への架空診療報酬請求支払い詐欺に関与した容疑で告発した。その一人、リカルド・モラレス前総裁は、フィルヘルス財政の平均7.5%が毎年不正に流用され、調査時点の2019年にはそれが100億ペソ(220億円)と判明したことを上院議員らに認めた。
一か月間にわたるその調査期間において、こうした不正が国民健康保険制度にはつきものであり、先進諸国でも同様とさえモラレス氏は語った。
モラレス氏の後任、ダンテ・ギエラン元NBI長官は組織再編に先立ちフィルヘルス幹部職員に辞表提出を命じた。
― コロナ禍があぶり出す数々の問題
上記以外にも、ドゥテルテ大統領側近による新型コロナウイルス対策用の防護服やマスクなどの医療用品の政府調達価格がかさ上げされ、中抜きされている疑惑や、医療労働者の低賃金・酷使など、医療関係の問題は以前から続出しており、それらをコロナ禍が浮き彫りにしたともいえよう。
〈Source〉
COVID-19 cases in PH breach 2 million, ABS-CBN News, September 2, 2021.
PhilHealth has 5 years to live, exec claims, INQUIRER. NET, September 4, 2021.
Gordon says Senate may end up probing Duterte, Go over pandemic deals, Rappler, August 31, 2021.
ドゥテルテ大統領を脅かす新たな火種 フィリピン会計監査委員会監査報告書, Stop the Attacks Campaign, 2021年9月1日.