【コラム】今なお深刻な活動家への弾圧

【写真】でっち上げ起訴を批判するCERNETメンバー/via Facebook of ANINAW Production, May 17, 2024.

栗田英幸(愛媛大学)

― でっち上げ起訴から始まる常套手段
 昨年1月にボホール島で抑圧されている農家を支援していた多くの市民活動家がでっち上げの容疑で起訴され、危険に晒されている状況についてお伝えしました。日本のNGOや大学の活動とも交流のあるAさんをリーダーとした活動家たちが、全く関係のない容疑でフィリピン国軍から告訴されたのです。(深刻な状況が今なお続くボホール島活動家への脅迫, Stop the Attacks Campaign, January 27, 2023.,続くボホール小農民・活動家への抑圧, Stop the Attacks Campaign, July 31, 2021.)
 殺人や襲撃をはじめとするさまざまな犯罪容疑をでっち上げ、検察を動かして地方裁判所に起訴する。起訴事実と高額保釈金に関する情報を本人たちにはギリギリまで知らせず、保釈金や起訴に対する反論供述書を提出できない状況に追い込んでおいて強制的に逮捕する。こういった手法は、フィリピン国軍や地方共産党の武力紛争を終わらせるための全国タスクフォース(NTF- ELCAC)がとる常套手段です。昨年1月も、まさにこのような常套手段が用いられました。

― 辺境の住民との摩擦が多発する地域では見えない改善
 多くの活動家がこの手段で逮捕された後に行方不明にされ、殺害されたり、拷問による嘘の自白を強制されたりする出来事は、マルコス大統領が人権状況の大きな改善を自分の手柄として自画自賛している今なお、フィリピンの全国各地で生じています。とくに政府や企業と住民との摩擦が大きい辺境のアクセス困難地域では、活動家の友人たちに聞く限り、ドゥテルテ政権時代と全く変わっていません。
 私が調査対象地としてきた鉱物資源の眠る、もしくは、採掘されている地域は、その最たるものです。私が連絡をとる鉱山地域はどこも、赤タグ付けをはじめとする脅迫・弾圧が日常茶飯事のため活動家がほとんど入ることができず、人権団体も今なお状況を把握できない状況のようです。つい先日も、日本企業の操業するニッケル鉱山のあるミンダナオの北スリガオ州タガニートで上記のような状況が未だに続いているとの、友人からのメールをもらったばかりです。
 伝聞からの感想ですが、都市部での警察の違法ドラッグ取締りによる暴力に比べ、国軍の反共産主義作戦に伴う暴力は減ってはいないようです。

― フィリピン国軍の遅延作戦で進まぬ審理
 先日、ボホールの友人Aさんについての新しい情報が入りました。昨年1月のフィリピン国軍関連のでっち上げ起訴は、日本からの保釈金支援もあり、何とか無事に保釈手続きを行うことができました。フィリピン国軍や警察に見つからないように弁護士たちと裁判所に行き、高額の保釈金を支払うことで、フィリピン国軍がAさんらを強引に逮捕する根拠をなくすことができたのです。
 しかし、フィリピンの警察や国軍にとって、公然と逮捕・拘束できなくなったというだけで、Aさんたちが秘密裏に拉致・拘束される危険は未だに続いています。国軍は、Aさんの活動地域に諜報員を配置し、拉致・拘束の機会を狙っているようです。周囲を巻き込んだ赤タグ付けや脅迫は継続しているのです。保釈はされたものの起訴が取り下げられているわけでもありません。
 裁判は継続中です。審理は、検察側の勝手な理由で何度も延期されるので、遅々として進みません。公判ではその判決理由がしっかりと資料として残るため、被告にでっち上げの罪をなすりつけることは非常に困難です。したがって、国軍が弾圧対象者に対して裁判でできることは、審理の遅延や異なる内容で新たな証拠をでっちあげ、結託している検察に次々と起訴をさせ、裁判や勾留をひたすら長引かせることです。そして、周囲をも巻き込んだ脅迫や赤タグ付けにより被告らの活動を萎縮させ、あげくは極秘裏の拉致や殺害を行うのです。

― 別件起訴で終わりが見えない弾圧
 2024年5月10日、司法省はフィリピン国軍の情報に基づき、検察庁を通して、昨年1月とは別件でコミュニティ・エンパワーメント・リソース・ネットワーク(CERNET)の現職と元メンバー27人を「テロ資金供与罪」の容疑で起訴しました。Aさんもその1人として、名前が載っています。国際基準を考慮に入れた人権問題の効率的な改善を目的として、フィリピン政府が人権特別委員会を立ち上げたわずか数日後の出来事です。絶対に逮捕すると息巻いているクリスピン・レムリア司法長官は、件の特別委員会の共同委員長です。
 2001年に設立されたCERNETは、セブを拠点としてビサヤ諸島のコミュニティの貧困を軽減するためのNGOとして、現地住民組織とともに活動してきました。CERNETは、その活動が住民に受け入れられるようになるとともに、フィリピン共産党や新人民軍(CPP-NPA)と繋がりがあるとして、国軍による批判、赤タグ付け、脅迫のターゲットとなってきました。昨年8月には、同じ容疑による司法省の調査にも応じています。
 フィリピン国軍の常套手段の1つですが、今回も起訴情報が容疑者とされる人びとに届くのがわざと遅くされていたようです。容疑者は、急いで20万ペソ(約54万円:1ペソ≒2.7円)もの高額の保釈金を用意しなければなりません。保釈金を支払う際に一緒に提出する書類も準備が大変なようです。自身の位置を特定されて拉致・逮捕されないよう、携帯利用を必要最低限にしつつも、オフにし続けることはできません。弁護士と相談し、また、地元の役場、警察、裁判所等で親族や友人に必要な書類を準備してもらわなければならないからです。この準備のために街中や自宅に姿を現してフィリピン国軍に拉致・逮捕・殺害されることもしばしばあるとのことです。
 昨夜(22日)、Aさんが無事に保釈金を支払い終えたと友人から連絡をもらいました。一安心ではありますが、拉致・殺害の危険は続くため、気の休まらない日々はこれからも続きます。

― 強気のフィリピン政府
 レムリア司法長官は、5月20日の記者会見の席で、2012年にCERNETがNPA 南東部戦線に現金 13万5000 ペソを提供した十分な証拠があるとして、有罪判決を確実にするために「さらなる努力をし」、「テロ資金提供者全員を刑務所に入れる」よう指示したと表明しました。
 マルコス大統領に諌められていたのか、最近、少し大人しかったレムリア司法長官ですが、また司法長官にあるまじき暴力的な発言に戻っています。ドゥテルテ政権の時から活動家や政敵に対しては脅迫と証拠の伴わない決めつけの発言が目立っていたレムリアが今後、どのような理由を出してくるのか、そして、海外からの人権外交圧力との関係にも注目する必要があります。

― 注意点
 今後の議論で注意しなければならない点があります。それは、政府の強い抑圧を受けているフィリピン辺境地では、抑圧されている人たちとNPAとの接点が数多く存在するという点です。同じく抑圧されている人たちを対象とするNGOがNPAと全く接点がないということは、ほとんどないと思います。しかし、それは、NGO活動家が特定の人をNPAメンバーだと知って関係しているということではありません。20年くらい前ならともかく、現在では、ほとんどのNGO活動家は、地域内で誰がNPAメンバーなのかも知らないはずです。今どき、そんなことを知ったら、ほとんどの活動家は怖がって辞めてしまうでしょう。
 NGO活動家も知らないうちに一部の資金がNPAに流れていたというのは、十分にあり得るでしょう。しかし、それは、教会や政府、警察、軍、そして企業のお金も同様です。昨年のように司法省がCERNETメンバーからヒアリングをするのは良いでしょう。しかし、組織の主要メンバー全てを容疑者として起訴するというのは異常です。政府や警察、企業に対してであれば、主要メンバー全てを起訴するような乱暴な手段を司法省が容認することはないはずです。何年も前にはフィリピンに進出したいくつかの日本企業もNPAに革命税という名の資金をNPAに支払っていましたが、強引な捜査もなければ起訴もされていません。
 今後出てくる情報を注意深く読み解いていく必要があります。

〈Source〉
深刻な状況が今なお続くボホール島活動家への脅迫, Stop the Attacks Campaign, January 27, 2023.
続くボホール小農民・活動家への抑圧, Stop the Attacks Campaign, July 31, 2021.
23 Cebu development workers post bail in terrorism financing case, Rappler, May 17, 2024.
DOJ vows to earnestly pursue terror financiers, Philippine News Agency, May 20, 2024.
KARAPATAN denounces trumped up terror-financing charges vs CERNET officers, staff, Facebook of KARAPATAN, May 17, 2024.

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