【6日=東京】10月30日フィリピン国軍は、フィリピン共産党(CPP)の武装部門NPAおよび政治部門NDF(民族民主戦線)の最高幹部の一人であるジョージ・マドロス(別名カ・オリス)の殺害に成功したと報告した。フィリピン国軍は、その殺害を「軍事作戦の成功」として誇らしげに宣伝した。だがその主張は逆に、ドゥテルテ政権の人道的な罪に関する議論に新たな油を注ぐこととなっている。
― 不死身の最高司令官カ・オリスの殺害
カ・オリスに関しては、これまでにも何度か死亡説が流れ、その度に生存の確認がなされてきた。だが、フィリピン国軍の報告によると、今回は多くのNPA投降者を通してカ・オリス本人の遺体であることが確認された。国軍は、NPAの仕掛けた対人地雷を空爆し、その後、特殊部隊や突撃部隊とNPAとの間で30分にわたる銃撃戦となったと主張した。戦闘後に残された2人の遺体のうちの一人がカ・オリスで、もう一人は彼の医療補佐をしていたエイフェル・デラ・ピーニャであることが判明したという。
― 作戦自賛のフィリピン国軍
同日、第4歩兵師団ロメオ・ブラウナー・ジュニア少将は次のコメントをメディアに対して語った。
「カ・オリスによる恐怖政治はついに終わりました。残念ながら、彼の残虐行為の結末は悲劇的なものとなってしまいました。これまで数十年にわたって恐怖に陥れられてきた無実の民間人・コミュニティに、ようやく正義がもたらされました。− 中略 − 平和な生活に戻ってください。E-CLIP(強化された包括的地域統合プログラム)は利用可能です。私たちがあなたたちの安全を守り、平和な生活に向けて導きます。」
― 真実を語ることによってのみ、真の誇りを得られるでしょう
カ・オリスの配偶者でNDF-北東ミンダナオ広報官であるミルナ・スラルテ(別名マリア・マラヤ)は、カ・オリスの殺害がフィリピン政府によって報告された同日、その死がフィリピン国軍の宣伝した「英雄的な作戦の結果であった」ことを否定した。スラルテはまた、カ・オリスとデラ・ピーニャはバイクに二人乗りして日課の健康チェックに向かっていたところを待ち伏せされ殺害されたのであり、その時二人は武器を持っていなかったと説明した。スラルテは、ブラウナー少将に対して、大きな嘘をやめて本当のことを話すべき、その時に初めてブラウナー少将に誇りがもたらされると告げた。
― 恐怖に陥れているのはフィリピン国軍?
人権監視団体カラパタンは、カ・オリスの銃撃戦による死に対して疑問が残るとして、その独立調査の必要性をフィリピン政府や国内外社会へ向けて強く訴えている。カラパタンは、マリア・マラヤからの報告とフィリピン国軍の報告の大きな食い違いに注目し、戦争犯罪である可能性を示唆する。カラパタンのクリスティーナ・パラバイ代表は、医療関係者だけでなく、敵対行為を実行する能力を有さない病気の戦闘員を攻撃することが、フィリピン政府とNDFが1995年に締結している人権と国際人道法の尊重に関する包括協定(CATHRIHL)第4章の違反にあたると述べる。
カラパタンは、NDFからの報告を元にして、フィリピン国軍がカ・オリスを逮捕した後に処刑し、また、非武装の革命家を殺害するという犯罪を隠すために空爆を実行した可能性について触れた。そうであるならば、非戦闘員やコミュニティへの攻撃をも辞さずに隠蔽工作を行うフィリピン国軍の体質こそが民間人に害を及ぼし、コミュニティを恐怖に陥れることになるとして、カラパタンはブラウナー少将の自賛報告を批判した。
― 証拠の隠蔽か? コロナ陽性で遺体の即時埋葬
殺害状況を解明する上で最も重要な証拠となるのは、遺体の検死である。そして、NDFは検死による殺害状況の解明と遺体の家族への返還を要求した。しかし、フィリピン国軍は、2人の遺体からPCR検査陽性の結果が出たことを理由に、ブキドノン州政府の手続きに従って既に埋葬していることを明らかにした。
― 変わらない体質
9月15日、国際司法裁判所は、ドゥテルテ政権下で行われているドラッグ戦争での超法規的殺害にまつわる人道的な罪に関して本格的な調査を決定した。フィリピン司法省も重い腰を上げ、ドラッグ戦争の中で警察官による「容疑者」殺害と証拠隠滅が恒常化している事実を指摘する報告書を10月20日に公表した。そして、国内外がフィリピン政府の超法規的殺害に関する隠蔽体質を注視している最中に、強い疑念を生じさせる今回のカ・オリス殺害が実行された。
*カ・オリスの「カ」は同志という意味合いが込められている単語であるが、本記事では一般的に受け入れられている呼び名として、カ・オリスと記載する。
〈Source〉
Army ends reign of terror of CPP leader ‘Ka Oris’, Philippine News Agency, October 30, 2021.
Karapatan calls for independent probe into reported IHL violations in the killing of Jorge “Ka Oris” Madlos and medical aide, Karapatan, September 3, 2021.
Top communist leader ‘Ka Oris’ killed in Bukidnon, CNN Philippines, October 31, 2021.
Remains of slain rebel ‘Ka Oris’ immediately cremated after testing positive for COVID-19, Manila Bulletin, November 3, 2021.