【お知らせ】超法規的殺害停止の要請を菅首相に申し入れ

【写真】フィリピン農業労働者連合が制作したアニメの一部(2019年、視聴時間3分)。

 私たち 国際人権監視NGO Stop the Attacks Campaign (SAC) は26日、国際環境NGO FoE Japan と共同で、フィリピンのドゥテルテ大統領との首脳会談を予定している菅義偉首相に対して、農民や人権アクティビストらを狙った超法規的殺害(EJK)をただちにやめるよう、フィリピン政府に要請することなどを内容とする申入書を郵送しました。申入書には16団体が賛同しました。

※ 写真のアニメはこちらからご覧になれます。

― 申入書全文

2021年4月26日
内閣総理大臣 菅 義偉 殿
Cc: 外務大臣 茂木 敏充 殿

フィリピンにおける超法規的殺害等深刻な人権侵害に係る要請書

 私たちは、ドゥテルテ政権下で悪化の一途を辿るフィリピンにおける人権侵害に関して強い危機感を持っている日本の市民団体です。この度、貴殿が5月2日から4日にかけてフィリピンを訪問し、ドゥテルテ大統領と会談されるご予定であったことから、フィリピンにおける深刻な人権侵害に関する要請書を貴殿宛てに準備しておりました。新型コロナウイルスの感染状況などを踏まえ、貴殿の訪比は取りやめとのことではありますが、今後、貴殿が再度訪比を検討される、あるいは、オンラインで貴殿がドゥテルテ大統領と会談される機会もあるかと思いますので、本要請書を貴殿に提出致します。

 兄弟より近い友人──この言葉は、安倍晋三前首相が退任を前にドゥテルテ大統領に語った言葉で[1]、ドゥテルテ大統領もまた安倍前首相に同様な言葉を送っています[2]。「兄弟より近い友人」の堅い絆を象徴するように、日本からフィリピン側に対して、2020年9月までの5年間に「1兆円の官民投融資」[3]が進められたと理解しています。

 私たちはその中身に注目しなければなりません。これまで安倍前首相の訪比に合わせ、海自練習機(TC-90)の移転が約束されたり(2016年9月6日)[4]、沿岸監視レーダー機材供与を含む経済社会開発計画に関する署名文書の交換が行われる(2017年11月13日)[5]など、安全保障分野における協力や治安部門への支援が約束されてきました。菅内閣でも外務大臣を務める茂木外相は、安倍内閣での外相時代、日・フィリピン外相会談の中で、安全保障や海上法執行分野での協力強化を合意しています(2020年1月9日)[6]。こうした安全保障分野や治安部門への支援をしたのは、安倍前首相自身がその必要性を認めていたからと思われます。実際、安倍前首相は首脳会談で「フィリピンのテロ対策について可能な限りの支援を惜しまない」(2016年9月6日)[7]と表明したり、ドゥテルテ大統領の違法薬物の取り締まりの支援も確認したりしてきました(2017年1月12日)[8]。

 しかし、私たちは、そうした安全保障分野における協力や治安部門への支援がフィリピンで起きている深刻な人権侵害を後押しするものになってきたのではないかと大変憂慮しています。

 国際機関からも再三にわたって非難が上がってきた、いわゆる超法規的殺害(EJK: Extrajudicial Killing)は、「違法薬物の取り締まり」あるいは「テロリスト撲滅」を名目に、数多くのフィリピン市民の命を法の手続きも経ないまま奪ってきました。

「違法薬物取り締まり」作戦の中では、警察公式発表で6,011人(2020年12月現在) [9]、国内外の人権団体によれば3万人近くが殺害されています[10]。また農民や先住民族、人権・環境擁護活動家など、政府の政策や国家事業等に異を唱える市民も「テロリスト」あるいは「共産主義者」等のレッテルを貼られ、超法規的殺害の対象になっています。ドゥテルテ政権が発足した2016年7月から2020年12月までに、376人が超法規的に殺害され、不当に勾留されている市民は1,040人に上っています[11]。更に憂慮すべきは、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に、フィリピンではロックダウン等の規制が2020年3月上旬から実施されていますが、2020年3月31日から7月31日の期間中、違法薬物取締捜査における国家警察による殺害がロックダウン前(2019年12~2020年3月)の約1.5倍に上っているとの報告もなされていることです[12]。

 貴殿は、2020年9月16日に内閣総理大臣として新しい内閣を発足された際、官房長官として貴殿が支えられた安倍前内閣の政策を踏襲する方針を表明されました。したがって、今後、貴殿が訪比され、あるいは、オンラインでドゥテルテ大統領との日比首脳会談に臨まれるにあたっては、安倍前首相と同様、フィリピン国軍や国家警察といった治安部門に対する経済的・技術的・人的支援や安全保障分野における協力を含む、日本からフィリピンへの新たな公的支援の約束を行われるのではないかと拝察致します。また、先日4月16日のバイデン大統領との会談で確認された「自由で開かれたインド太平洋」[13]実現のための結束をドゥテルテ大統領とも再確認され、これまで日本政府が実施してきた「経済発展の妨げになる」テロ対策等への援助を、とりわけ中国をけん制するため継続するのではないかと危惧します。

 しかし、私たちは上述したフィリピンの深刻な人権状況に鑑み、安全保障分野における協力や治安部門への支援が「違法薬物の取り締まり」あるいは「テロリスト撲滅」の名の下に超法規的殺害等に加担するものになっていないか、新たな支援を行う前に日本政府として検証することが必要だと考えます。

 この点については、フィリピンの市民からも日本政府に対して厳しい目が向けられてきました。

 私たちは2019年5月と11月に、フィリピンの人権侵害に関するスピーキングツアーを日本で開催しました。そのツアーに参加した、全国砂糖労働者連盟の事務局長ジョン・ミルトン・ロサンデ氏や人権団体カラパタンの弁護士マリア・ソル・タウレ氏、 フィリピン農業労働者組合副議長・元下院議員アリエル・バリン・カシラオ氏らは、「日本政府によるフィリピン国軍、国家警察への援助は、市民殺害のほう助に等しい」と訴えました。

 私たちが去る3月27日に茂木外相宛てに提出した緊急申入書(添付資料①を参照)への外務省の回答が、超法規的殺害に関して「懸念」の認識は示したものの、治安部門への支援の中止を明言するものではなかったことに関しても、現地の弁護士や人権団体のリーダーからは言行不一致だとして、「二枚舌」「偽善」との非難が出ています(添付資料②を参照)。

 以上を踏まえ、貴殿に対し、私たちは以下の点を強く申し入れます。

1) 超法規的殺害等の人権侵害をただちにやめるよう、フィリピン政府に要請すること
2) 超法規的殺害をはじめとした人権侵害についてフィリピン政府に説明を求めること
3) 超法規的殺害に関する国連人権理事会や国際刑事裁判所による調査を受け入れるよう、フィリピン政府へ要請すること
4) フィリピン国軍や国家警察への経済的・技術的・人的支援に係る有償・無償資金協力や防衛装備移転等、安全保障分野における協力や治安部門へのあらゆる公的支援を一旦中断し、日本政府として、これまでの支援がフィリピンにおける上述のような人権侵害に加担していないかを検証すること

 貴殿がフィリピン政府に対して毅然とした姿勢を示され、フィリピンの人権状況の改善に向けた対応をとって下さるよう宜しくお願い申し上げます。

以上

【添付資料】
① 2021年3月27日付 日本の市民団体から外務大臣宛て要請書「フィリピンにおける超法規的殺害の停止を求める緊急申入書
② 2021年4月12日付 Stop the Attacks Campaign 声明「外務省が回答、超法規的殺害に『懸念』の認識示す 現地からは『二枚舌』『偽善』との批判の声

【呼びかけ団体】
国際環境NGO FoE Japan
国際人権監視NGO Stop the Attacks Campaign

【賛同団体】一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター
医療法人ことぶき共同診療所
NPO法人ビラーンの医療と立を支える会
ODA改革ネットワーク
関西カトリック大阪大司教区 社会活動センター シナピス
カラバオの会(寿・外国人出稼ぎ労働者と連帯する)
関西フィリピン人権情報アクションセンター
SABAY
特定非営利活動法人 メコン・ウォッチ
特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク
名古屋NGOセンター
日本国際法律家協会
日本国際ボランティアセンター (JVC)
フィリピントヨタ労組を支援する会
武器取引反対ネットワーク不戦へのネットワーク

【関連資料】
[1] 外務省「日・フィリピン首脳電話会談」2020年9月7日.
[2] 遠藤淳「フィリピン大統領『2国間関係が発展』 首相辞任表明受け」2020年8月29日日本経済新聞.
[3] 脚注1に同じ.
[4] 外務省「TC-90等のフィリピンへの移転」2016年9月6日.
[5] 外務省「日・フィリピン首脳会談」2017年11月13日.
[6] 外務省「日・フィリピン外相会談」2020年1月9日.
[7] 外務省「日・フィリピン首脳会談」2016年9月6日.
[8] 外務省「日・フィリピン首脳会談」2017年1月12日.
[9] #RealNumbersPH.
[10] Fact check: Reported increase in ‘drug war’ deaths amid pandemic is backed by gov’t data, philstar, September 22, 2020.
[11] Karapatan, 2020 Karapatan Year-end Report on the Human Rights Situation in the Philippines, 2020.
[12] 脚注10に同じ.
[13] 日米首脳共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」2021年4月16日.

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